雪音
「お、お母さん⋯⋯何で?」
「何でと言われても⋯⋯家出した娘をショッピングモールで見かけたら声をかけるのは親として当然だと思うけれど」
「いや、それはそうなんですけど、もうどっか行っちゃったのかと⋯⋯」
「更衣室でTバックを身に着けていたら聞き覚えのある声がするものだから」
「⋯⋯⋯⋯」
「やっぱあん時バレてたのか⋯⋯」
それより、今わざわざTバックと言う意味はあったのだろうか?そして、真冬ちゃんのお母さんは何故こちらを見ているのだろうか?なんか意味深なんですけど。こっちが深読みしているだけでしょうか?
「Tバック言うな!娘に生き恥晒させないでください!」
「あ、もしかして⋯⋯真冬も履きたかった?何なら今から買いに行きましょうか」
「買いませんよ!娘に何勧めてるんですか!」
「家出中とは思えない会話だよな⋯⋯」
「ですね⋯⋯」
「そもそもお母さんはなんでTバックなんて購入したんですか!誰に見せるつもりなんですか!?」
「⋯⋯⋯⋯」
あ、こっち見た。すぐ逸らしちゃったけど。
「今誰を思い浮かべたんですか!?さっさと白状してください!」
「ほら、色々お礼しなきゃいけない、じゃない?」
「濡れた瞳で何ほざいてんですか!そんなお礼聞いたことないですよ!」
「そう?真冬は子供だからまだ知らないだけで世の中には意外とたくさん溢れてるわよ」
「そんな現実知りたくなかったです!」
「やっぱこの人ぶっ飛んでんな⋯⋯」
「それは、確かに」
真冬ちゃんはこっちに鋭い視線を向けた。怖いより新鮮さを感じてしまう目つきだ。
「お兄さんからも何か言ってやってください!」
確かに、この人の言動はぶっ飛びすぎている。昨晩の事といい、今の真冬ちゃんとのやりとりといい。
だいぶ年上の大人相手とはいえ、ここは言うべき事を言っておかねばならない。
「あの⋯⋯名前なんていうんですか?」
「「何聞いてんだよ!!!」」
二人から頭をはたかれる。何故だ。これだけ交流しておいて名前を知らないというのは逆に不自然じゃなかろうか。決して作者が『真冬ちゃんのお母さん』という表記が面倒くさくなったとかじゃないだろう。
「雪音と申します。雪の音と書くのよ」
「ありがとうございます」
「⋯⋯なんでやたらヒロイン感ある名前なんだよ」
「てかお兄さんもそんな深々と礼しなくても⋯⋯」
「じゃあ、もう行くわね。真冬、どこにいるのかだけ後で連絡頂戴。あなたが戻った後でお礼に行かなきゃいけないから」
淡々と言うと雪音さんは背を向け、歩き去っていった。




