台無し
「はぁ、一時はどうなるかと思ったが、まあ助かったな」
「そうですね」
何故真冬ちゃんを連れ帰らなかったのかは謎だったが、ひとまずは彼女の意思を尊重するということらしい。
真冬ちゃんに目を向けると、少し暗い表情を見せていた。
「真冬ちゃん?」
「あ、いえ、何ていうか⋯⋯結局私はお母さんの手のひらの上なんだなぁって⋯⋯まあ、自立すらできない子供なんだから当然なんですけどね」
「「⋯⋯⋯⋯」」
その言葉に俺も夏希さんも黙ってしまう。それは紛れもない事実だからだ。ただ、あの人の場合何を考えているのかわからないからな。すべて計算ずくにも見えるし、やたら天然にも見える。
俺は言葉を選びながら真冬ちゃんに、なるべく素直な気持ちを告げた。
「⋯⋯まあ変えようのない事実をどうこうしようとしなくてもいいんじゃないかな。ただ、せっかく許可が下りたわけだし、今やりたいこと、できることをやってみればいいんじゃないかな」
「お兄さん⋯⋯」
「今、真冬ちゃんの家庭の事も、そのモヤモヤも、俺がすぐに解決することはできない。でも、こうして一緒に悩んで進むことはできるよ」
「⋯⋯はい」
真冬ちゃんの目は明らかに潤んでいたが、それを決して流すまいと頑張って堪えていた。そして、それは上手くいっているようだ。
「ったく⋯⋯しゃあねえチビッ子だな」
「あっ、せっかく今良い雰囲気だったのに割り込まないでくださ〜い!」
夏希さんに頭をわしゃわしゃ撫でられ、真冬ちゃんはプンスカ怒っている。
これはこれで良い光景じゃないかと頷いていると、真冬ちゃんかさっと手を挙げた。
「お兄さん、さっきこの人紐パン買ってました」
「おい、コラ!お前何バラしてやがる!」
「良い雰囲気を台無しにしたお返しです」
「そんな言うほどでもなかったわ!直登が何となく良いこと言ってたっぽいけど!」
「あれは私に言ってくれたものなので今すぐ記憶を消してください」
「無茶言うなよ!ていうか、今直登の記憶消したいんだが⋯⋯お前聞いただろ?」
「紐パンとか知りません!」
「しっかり記憶が定着してんじゃねえか!頼む、今だけ記憶を消させてくれ!」
「それ今だけじゃ済まないでしょ!あと都合よくそこだけ消せるわけないじゃないですか!」
夏希さんがやったら生まれた時からの記憶が消し飛んでしまいそうだ。
うん、何つーか⋯⋯せっかく良い雰囲気だったのが面白いくらいに台無しだな。まあ、いつもの事といえばいつもの事なんだけどね。




