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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第三章 イーストテッド篇 決戦、ペンズ卿
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第六十二話 アリスの話

「自分達の祖先が、人類によってごく少数を除いて、殆ど全員が滅ぼされたと知れば、魔法使いや勇者達は王国議会に逆らうでしょう。

 そうなれば、折角築き上げた平穏がまた戦乱へと逆戻りしてしまう。そう考えたライムベル一世は、悪魔やドラゴンの生き残りを、人間の上位種として共に生きていく事に決めました。

 そして、その決断が、今大きな反動となって王国を襲っている。」


 アリスは、一言一言をゆっくりと噛みしめるように言った。

 それはまるで、寝付けない子供に母親が昔話を話すときのように。

 レイは、そんな母親に質問する子供のような小さな声で訊ねた。


「アリスの言っているのは、アステカの事だよね?」


「はい、そうです。

 『アステカ』それは、500年前魔法使いの一族が暮らしていた王国の名前です。

 ダルメアは、ライムズ王国中の魔法使いを集め、もう一度悪魔の国を創ろうとしているのです。」


 アリスは、とても悲しそうな顔をした。

 その様子から、アステカの侵攻を快く思っていない事が窺える。


「アステカの反乱にはそんな訳があったんだ。」


 レイは、アステカをダルメアを止めるために旅をしていた。

 自分の師匠が起こした、理由の分からぬ反乱を止めるため。

 そして、今初めて理由の分からなかった反乱の真意を知った。

 その真意は、レイの考えていたものよりもずっと深くて暗いものだった。


「僕はずっと、ジンさんの考えが分かっていなかったんだ。

 僕の村を吹き飛ばして、マリアさんを殺して、この国を敵に回して……。

 そんな訳があったなんて。

 ……だけど、そんな理由でジンさんの行為が正当化される訳じゃない。」


「その通りです。

 だから、私達はエルバム様を精神の世界へとお呼びしたのです。」


 アリスは、激昂したレイの反応が嬉しかったのか、明るい表情でそう言った。

 そして、レイの目をジッと見つめてこう続けた。


「これから、私の知っていることの全てをお教えします。

 ダルメアの事、悪魔の事、精神の世界の事、そしてエルバム様についてのとても大事なことを。」


♦♦♦♦♦


「ダルメアがアステカを再建させようと動き出したのは、100年以上前のことです。

 彼は元々、私達と同じ捕らわれた魂の一人でした。

 当時、私達はこの世界から抜け出し、輪廻転生の輪に戻ることを目指し、この世界の解明を進めていました。

 その活動により、私達は二つの可能性を見出すことに成功しました。

 一つは精神の世界に漂う黒い霧についてです。

 この霧は輪廻転生の際に洗い流された魂の汚れだと言いましたよね?

 でも、その汚れた霧と私達悪魔が使う黒魔煙は全く同じものだったのです。

 私達の魂が生まれながらに汚れていたのは、当たり前と言えば当たり前なのです。

 だって、悪魔の魂は黒魔煙の塊のような物なのですから。」


「この暗闇が黒魔煙?」


 レイはアリスの言葉を繰り返して呟き、辺りを見回した。

 精神の世界は360°全て真っ黒な霧で覆われている。

 この全てが黒魔煙だとすると、一体どれほどの魔力を秘めているのだ、とレイは何処までも続く暗闇に恐怖を抱いた。

 アリスは小さく一度だけ頷いた。


「その事については、また詳しく説明いたします。なので、今は話を進めさせてもらいます。

 私達が解明したもう一つのこと、それはこの世界と他の世界とを行き来する方法です。

 その方法とは、この世界から別の世界へと転移魔法で移動するという方法です。

 この方法自体は、前々から考えられていた事なのですが、100年前やっとそれを実行できる力を私達は手に入れました。

 エルバム様も知っていると思いますが、この世界で修行をすると、辺りの黒魔煙を吸収し魔力が向上するのです。

 私達はその原理を利用し、膨大な魔力を吸収した転移魔法の名手によって、世界の行き来を可能にしました。」


「ちょ、ちょっと待って。

 一つ確かめたいことがあるんだけど、もしかしてその転移魔法の名手って。」


 説明を続けるアリスを、レイが手を挙げて止めた。

 いつの間にか、手を動かせるまでは回復していたのだ。

 アリスは、レイが制止するのを始めから知っていたかのような、様子だった。


「気付かれましたか。

 そうです、エルバム様のよく知る人物です。」


「じゃあやっぱり、ミルネバさんなんだね。」


 レイは、ゆっくり確かめるよう訊ねた。

 アリスは先程と同じ様に小さく頷いた。


「はい、ペンズ・ミルネバは私達の同士です。」



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