第五十話 解き放たれる白き光
ライミズ王国イーストテッド市のライムベル親兵基地で戦闘が繰り広げられている。この戦闘の火蓋が切られてから、一体どれほどの時間がたったか。
それが分からなくなるほど、二人の闘いは長引いていた。
レイがダクトを放つと、セリエーヌはそれをかわして切りかかる。レイはメイルで逃げるか、プロウの盾でその攻撃を防いだ。
お互いに息つく暇なく攻撃を仕掛け、また相手の攻撃を防いだ。
親兵達は、二人が衝突する度にざわめいた。だが、その親兵の中にセリエーヌを心配しているものはいない。
別に、セリエーヌが部下から慕われていない、と言いたいわけではない。確かにセリエーヌは、部下を大切にしない。だが、その絶対的な強さに部下達は憧れ、尊敬していた。
なら何故心配しないのか?
それは、セリエーヌの信条に関係する。
真の強者は勝てない相手には挑まない
それは、セリエーヌの信条であり座右の銘であり、生き様だ。
そのセリエーヌが自ら望んで闘いを仕掛けたのだ。なら負ける筈が無い。
それが周りを取りは囲む親兵達共通の考えだった。
そして戦況も、その想像通りに進んでいた。
それは、レイの何回目の攻撃だったか。お互いに相当な回数攻撃を仕掛けていたので、それを数えることは出来なかった。
その時も、レイはダクトをセリエーヌに放っていた。単調な攻撃だが、レイが使える魔法の中で最も攻撃力が強いのがダクトだった。
しかしレイの放ったダクトは、セリエーヌの前方の地面に当たった。
「どうした、精度が落ちているぞ。
そんな攻撃が私に届くと思ったら、大間違いだぞ。」
セリエーヌはそう叫ぶと、レイのダクトが削った地面の穴を飛び越えレイに斬りかかった。
「メイル」
セリエーヌの剣が目の前まで迫り、避けることが出来ないと判断したレイは、メイルを使ってセリエーヌの後ろへ回り込もうとした。
だが、出来なかった。
セリエーヌの剣がレイの左肩から右の腰にかけて大きく振り下ろされた。
一拍遅れてレイの体から血飛沫が吹き上がった。
その血は、セリエーヌの顔へ大量に飛び、顔の半分を真っ赤にした。
「うそっ……
どうして……」
レイは右手に握る杖を見つめながら、ゆっくりと倒れた。
決闘の結末としては、実に呆気ないものだった。
「やはり貴様は、実戦経験が乏しすぎる。
魔力が底をついたのに気付かずに敗れた魔法使いなど、そうは居まい。
確かに貴様は強くなった。だが、傲りが過ぎる。
私は、このイーストテッドの親兵の長だ。この国の三大都市の一つ、その基地のトップなのだ。
つまり、全ライムベル親兵のNo.3と言うことだ。
あと五年もしたら、或いは倒れていたのは私かもしれない。貴様にはそれほどの素質があった。
残念で仕方がないよ。」
そう言って、セリエーヌは剣を振り上げた。
「とどめだ。
この私とほぼ対等に渡り合った貴様に敬意を表する。
天晴れ!」
セリエーヌの剣は、レイの首目掛けて振り下ろされた。
レイはピクリとも動かない。意識を失っているのか、それとももう既に……。
しかし、そんな事は関係ない、セリエーヌの剣が振り下ろされれば、レイの"生"に望はなくなる。
セリエーヌの剣は、地面を削りながらレイの首へと向かっていった。
………が、レイの首が斬り裂かれる事はなかった。
セリエーヌの剣が、レイの首と紙一枚あるかないかという距離で止まったのだ。まるでレイが見えない鎧でも着ているかのように。
「そんな馬鹿な。これではまるで……。」
セリエーヌは狼狽した声で呟いた。
先程までは何も見えなかったレイ首から、白い光が溢れ出し輝いている。
それは、レイのダクトの光、セリエーヌの剣が纏う光と同じ光だった。
「やはり、現れてしまったか。
初めて合ったときから不思議だったんじゃ。
魔法使いの力と、勇者の力、その両方が一人の少年から発せられていたんじゃからな。」
背中から発せられたその言葉に、セリエーヌはあわてて振り返った。
周りを取り囲む親兵達は、またどよめいた。
さっきまで、レイとセリエーヌの二人しか居なかった円の中に、一人の老婆がどこらかともなく現れたからだ。
「貴様は、魔法騎士隊総帥ペンズ・ミルネバ!」
その老婆の姿を目で捕らえたセリエーヌは、驚きの声を上げた。
セリエーヌの口から発せられた名に、親兵達はまたもざわめく。
だが、当の本人である老婆は小さく顔の前で手を振った。
「"元"が抜けとるぞセリエーヌ。
私はもうそんな大それた名の役職には就いておらんよ。
今はしがない街の仲介屋さんさ。」
そう言って笑う老婆とは対称的に、セリエーヌは忌々しそうに眉に皺を寄せていた。
その間にも、レイから発せられる光は増えていた。初めは首だけだったその光は、既に体全体を包むものになっていた。




