第四十九話 セリエーヌの狂気
いきなりセリエーヌに、自分達にかけられた容疑が嘘だと言われ、さらに本当の容疑を伝えられ、レイは混乱していた。
「それじゃあつまり、僕達が捕まった理由は、そんなふざけた物だったってことなのか?
もしかしたら?かもしれない?
そんな曖昧な理由で、僕達を捕まえたって言うのか!」
「ああそうだ。と言っても、決めたのは私ではない。王国議会だ。
貴様が生きていると、この国の治安維持が困難になるからな。
話しはここまでだ、こちらの事情も分かっただろ大人しく死んでくれ。」
セリエーヌはいきなり切りかかってきた。
話しをしていて気が付かなかったが、セリエーヌはかなりレイ達に近づいていた。
どうやら今までの会話は、間合いを詰める為の偽装だったようだ。
だが、セリエーヌの剣がレイに届くことはなかった。
三人の姿がそこから消えたからだ。
周りを囲っていた親兵達がざわめいた。がセリエーヌだけは困惑していない。
「ふんっ、また一時的な待避か。
貴様らはもうここから逃げ出すことは出来ない、それぐらい分かっているだろ!」
「ああ、分かってますよ。」
その声にまた親兵達がざわめいた。
レイがセリエーヌの後ろに現れたからだ。
そこにハルとミクルの姿はない。
「ふんっ、本当に人の背中を取るのが好きだな貴様は。
後の二人はどうした?」
「あんたの話しからして、殺したい相手は僕だけみたいだから二人には少し休んで貰うことにしました。」
「そうか、まぁいい後の二人は貴様を倒してからゆっくり捜すとしよう。
私は正直、貴様ともう一度一対一で闘えられれば満足だからな。
気付いているよ、貴様あれから腕を上げただろ。」
「流石ですね。
でも、この状況で一対一だなんてよく言えましたね。」
レイが言っているのは二人を取り囲んだ親兵達の事だ。
ざっと見渡しただけで千人は下らないと分かる軍勢だ。
こんな状況では一対一とはとても言えない。
だが、セリエーヌは全く意に介さない様子だ。
「それなら気にすることはない。ここに居る奴らに私の戦闘に手を出すほどのバカは居ない。
闘技場の壁程度に思っていればいい。」
「相変わらず部下の命をなんとも思ってないんですね。」
セリエーヌの言葉にレイが非難するが無視された。
「そんなことはどうでもいいんだ。
早く私にかかってこい!」
セリエーヌは怒気の籠もった声でそう言った。
「それじゃあ、いきますよ。」
そう言ったレイの声は若干だが震えていた。
レイがセリエーヌに惨敗を期したのはつい昨日のことだ。そのトラウマは根深くレイの心に蔓延っていた。
だがレイは、闘わなければならなかった、ハルの為に、ミクルの為に、そして自分の為に。
レイの目は、あの強い目に変わっていた。
闘いの火蓋を切ったのはどちらだったか。
それが分からないほど、二人が動いたのは同時だった。
二人は同時に走り出した。
攻撃の先手を取ったのはレイ。
「ダクト」
レイの杖から放たれた光の玉は、一直線にセリエーヌ向かって飛んでいった。
だがセリエーヌはそれを軽く去なした。
流れ弾が飛んでいった先にいた親兵が怯む。
二人はそんな事には目もくれず走る。
今度はセリエーヌが動いた。
勇者の能力、光を纏った剣が勢い良く突き出された。
が、例の如く、レイの如く、その剣は空を切った。
セリエーヌは、まるでそれが分かっていたかのようにスムーズな回転で後ろを斬りつけた。
が、その剣も空を切った。
セリエーヌの顔に驚きの色が浮かぶ。
「上か!」
その叫びは一瞬遅かった。
メイルでセリエーヌの頭の上へ移動していたレイがセリエーヌを押さえつけたのだ。
レイはセリエーヌの首に足を回し締め付けた。俗に言う三角締めと言う体勢だ。
レイはその体勢でセリエーヌの顔に杖を突きつけた。
「勝負あったな。」
「それはどうかな?」
圧倒的に不利な体勢でありながら、セリエーヌは不敵に笑った。
その答えは直ぐに分かった。
レイの胸からセリエーヌの剣が飛び出したのだ。その真っ白な剣にはレイの血が滴れていた。
レイはセリエーヌの右手を封じきれていなかったのだ。
次の瞬間、レイはセリエーヌの首の上から消えていた。
「驚いたな、そんな状態でも魔法を使えるのか。」
立ち上がって剣についた血を倣いながら、セリエーヌは言った。
その冷たい目は、片膝をついて胸に手を当てたレイを見ている。
「ミ、ミーユ」
レイは素早く胸の傷を治した。
いや胸の傷というのは正確ではない。
背中から貫通した傷というのが正しいだろう。
「何のためらいもないんですね。
さっきの攻撃が、あとちょっと左にずれてたら今ごろ僕は死んでましたよ。」
レイは平静を装っているが、頬を冷や汗が一筋流れた。
そんなレイを見て、セリエーヌはまたあの不敵な笑みを浮かべた。
「貴様は何をバカなことを言っているんだ。
私達は今命のやり取りをしているんだぞ。つまり、決闘を、だ。
殺す気でヤるのは当然だろ?
さぁ、続きをしようではないか、私の相棒はあの程度の血で満足するほど少食ではないぞ。」
レイは、新たな冷や汗が頬を伝うのを感じた。




