第四十一話 FIRSTミッション
レイとミクルは昨日いた山に立っていた。ライムベル親兵の基地から見えたあの山だ。
「す、すごい……。」
レイは山に着くなりそう呟いた。
「どうしたんだ?」
戸惑ったようなレイを見てミクルが訊ねた。
レイはミクルの問いにゆっくりと応えた。その言葉には戸惑いよりも興奮の色が大きく現れていた。
「全然疲れないんだよ。
さっきメイルを使ったとき、黒魔煙がビックリするくらい溢れたんだ。それで、慌てて魔力を押さえて飛んだら。」
「飛んだら?」
「体がすごく軽く感じて、ここまで移動したのに全然疲れてないんだ。こんな感覚初めてだよ。」
そう言ったレイの身体は小刻みにふるえている。
「おい、おめぇ大丈夫か?震えてるぞ。
やっぱりまだ疲れがとれてないんじゃねぇか?」
ミクルは心配したようにレイの背中に手を当てた。
すると、レイの身体の震えがゆっくりと引いていった。
レイは大きな呼吸をゆっくりと繰り返している。
「大丈夫、そんなんじゃないから。
多分、今まで感じたことのない強い力に、体が喜んでるんだよ。」
レイはどこか恍惚とした表情を浮かべている。
レイのその表情を見てミクルは少しホッとしたような顔んした。ほんの一瞬だけ。
そして顔を真剣なものに戻してレイの背中をパンパンと叩きながらこう言った。
「そうか?それならいいんだけどな。
よし、それじゃあ始めよぉぜ。」
「うん!」
始めるとはつまり、ハルの救出作戦のことである。
実は、サンドウィッチを食べている際に、お婆さんとミクルとの三人で作戦を話し合っていたのだ。
作戦①陽動を仕掛けてから乗り込め!
お婆さん曰わく、
「いきなり基地に乗り込んでコソコソ動いたところで、すぐに見つかるのがオチさ。それなら一番始めに敵の拠点を攻撃してからの方が効果的だよ。
昼間なら1/3の親兵は街にパトロールに出ている。残りの2/3は、基地に残っているんだが、その殆どが一つの建物に集まっている。それが本部の建物だ。
そこを攻撃して、相手が混乱しているスキに乗り込むんだよ。」
だ、そうだ。
「あの一番大きな建物が基地の本部だ。パトロールしていないライムベル親兵はほとんどがあそこにいる。」
そう言ったのはミクルだった。
「それじゃあ、あそこに攻撃を仕掛けたらいいんだね?」
「そうだな。だけど、ここからそんな攻撃できるのか?」
基地の本部に杖を向けたレイに、ミクルが疑うように訊ねた。
「大丈夫、今の僕は昨日までの僕とは別人さ。ここから攻撃するくらい楽勝だよ。」
さっきのメイルがよほど楽に発動したためか、レイには余裕の色が溢れている。
ミクルには、そんなレイを見て一抹の不安がよぎった。
「あんまり無理するなよ。」
ミクルは、レイの様子を案じてそう声をかけた。
「ああ、分かってる。」
レイの強い返事を聞いても、ミクルの不安が消え去ることはなかった。しかし、時間に余裕が無かったため、ミクルはそれ以上レイに声をかけることはなかった。
レイは杖を、ミクルは輪ゴムをそれぞれ目標の本部へ向けた。
昨日の夜に使ったものよりも大きめの輪ゴムを左手の親指に掛けると、ミクルが静かに言った。
「よし、行くぞ。
3、2、1……発射!!」
「ダクト!」
ミクルのカウントに合わせ、レイの杖から光の玉が、ミクルの親指から輪ゴムが放たれた。
それらは、まるで吸い込まれるかのごとく、一直線に本部に向かって飛んでいった。そして、五階建ての本部の玄関部分を吹き飛ばした。
「なんだよ、人のこと心配しておいてミクルもなかなかやるじゃん。」
レイはミクルの吹き飛ばした部分を見てそう言った。たった一つの輪ゴムで、頑丈な建物を壊したミクルに驚愕していたのだった。
「へへへ、褒めてもなにもでねぇぜ。
それより、まだ不十分だぜ。あと二、三発ぶち込んだ方が良いだろうな。」
レイに褒められて、照れたように鼻をこすってからミクルは親兵の基地を指さした。
本部の建物は一階玄関こそ大破したが、それ以外の場所には殆ど被害が出ていなかった。
「言われなくても。」
そう言ってレイは、再び杖を本部へ向けた。そして、立て続けにダクトを三発放った。
「ダクト!」「ダクト!」「ダクト!!」
レイの杖から放たれた三つの光は全弾、本部へ命中した。
「ほんと、昨日とは別人みたいだなおめぇ。
それより、初っぱなからそんなに魔法使って大丈夫なのかよ?」
軽々と魔法を放つレイを見て、ミクルが呆れ顔で訊ねた。
「全然大丈夫!」
返ってきたレイの言葉は、本当に元気一杯だった。
そして、レイは右腕をミクルの方へ突き出してこう言った。
「早く掴まって、もう一回飛ぶぞ。」
……ミクルがレイの腕を掴んだ瞬間、二人の姿は山から消えた。




