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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第二章 イーストテッド篇 ハル救出作戦
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第四十話 出動!

 コップに注いでいた水が溢れたら。

 普通、人は注ぐのをやめる。

 いや、普通でなくてもやめるだろう。

 一般的に考えて止めるだろう……。



「そんなの、注ぐのをやめるに決まってるじゃないですか。」


 そう答えて、レイはすぐにハッとした顔をした。そして、納得したように小さく呟いた。


「そうか、止めればいいのか。」


 レイのその言葉を聞いて、お婆さんはニコッと笑った。


「それが分かれば、後は実戦で少しづつ感覚を磨いていくんだね。そうすれば、お前さんは見たこともない世界を見れるようになるよ。」


 お婆さんはそう言うと立ち上がった。レイにはそれが、もう教えることはないという意思表示に見えた。

 だからレイは、慌ててお婆さんの左手の袖を掴んだ。


「ちょっと待って下さい!僕はまだ教えてもらいたいことが山ほど…」


「甘えるんじゃないよ。」


 お婆さんは、振り向きざまにそう言った。

 それは、決して強い語調でも、怒っているようでもなかった。しかし、レイは何故か自分が戒められている気がしたのだった。

 落ち込んだレイを見て、今度はとびきり優しい口調で、お婆さんがこう言った


「そこから先はお前さん一人でも行ける。いや、行かなきゃならない。

 こんな老いぼれにできるのはそれくらいさ。」


 レイは渋々といった様子で、コクンと頷いた。

 お婆さんは、ホッとしたように肩を下ろした。


「いい子だね。

 そろそろあの子も帰ってくる頃だから、あの子が帰ってきたら作戦開始だよ。

 だからお前さんは、それまでに用意を整えておくんだよ。」


 お婆さんは、そう言いながら扉に手をかけた。


「あの子ってミクルの事ですか?

 ミクルは今どこに居るんですか?」


 レイは、目が覚めてから一度もミクルの姿を見ていないことに気がついた。


(たしか、僕が探さないといけないものを、隠しに行ったきりだよな。いや、あれは夢だったからミクルはどこにも行ってないのか?)


 レイの問に、お婆さんは扉の方を向いたまま答えた。


「あの子にはお使いを頼んであるんだよ。心配は無用だよ。

 それじゃあサンドウィッチでも作ってくるから待ってなさい。」


 お婆さんはそう言って部屋を後にした。



「ふぅ~。」


 お婆さんが出て行った扉を眺めたまま、レイは大きく息を吐き出した。

 いろんな事を一遍に知ったが、不思議なことにレイの頭は混乱していなかった。

 疑問や焦りより、自分の実力が上がったことに対する喜びが大きかった。また、もっと強くなれる可能性を知ったことでやる気も沸いてきていた。


「ハル、必ず助け出してやるからな。」


 一人になった部屋で、レイはそう呟いた。レイにしか聞こえない小さな声で。





 お婆さんが部屋を出てから、一時間ほどの時間が経過した頃、[マジックアイテム仲介所]と書かれた看板の横に二人の青年がたっていた。

 一人は黒いコートを着て杖を右手に握りしめたレイ。

 もう一人は、いかにも街の若者、というような服を着たミクルだった。

 お婆さんは、自分はもう年寄りだから、と言って留守番を希望した。今もキッチンで暖かいホットミルクを飲んでいる。


 空には、真上から少しだけ西にずれた太陽が浮かんでいる。日差しがまぶしい。


「ほんとにいいのか?せっかく逃げてきたのにまた、あんな危険なところに行くなんて」


 レイは、首を曲げずに、横に立っているミルクに話しかけた。ミルクは、体中に輪ゴムを仕掛けながら答えた。


「そんなの、良いに決まってるだろ。

 おめぇ一人で乗り込ませるなんて、怖くてできねぇよ。」


 明るい口調だが、顔は笑っていない。これからやろうとしている事への緊張の現れだろうか。


「ありがとう。」


 レイも同じ様に真剣な顔で、一言だけそう言った。


「良いってことさ、気にすんな。」


 ミルクも輪ゴムを仕掛け終え、すくっと立ち上がった。背はレイよりも10cmほど低い。


「ハルちゃんの居場所は変わってねぇんだよな?」


 ミルクはストレッチでもするように、体を動かしながら聞いた。


「ああ、今朝と全く同じ方向を指してたよ。」


 命が危険という表示も、変わることなく出ていたのだが、レイはあえて言わなかった。言っても仕方のないことだから。

 ミルクもレイの様子を察したようで、「そうか。」と小さく返しただけだった。



 言い忘れていたが、レイが修行の為に眠っていた時間は、ほんの5時間だったそうだ。体感的に一週間位でもおかしくないと思っていたレイは、そのことを聞いて少し安心した。

 ハルを助けるのは早ければ早いほど良いだろうから。



「よし、それじゃあ乗り込むか。」


 そう言ったのはレイだった。いつもより強い目をしたあのレイだった。


「おう!」


 ミルクもレイ同様に、強い眼差しをしている。そして、ミルクはレイの腕をがっちりと掴んだ。

 ……次の瞬間、二人の姿はお婆さんの家の前から消えていた。

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