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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第二章 イーストテッド篇 ハル救出作戦
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第三十八話 黒魔煙

(なんとなく、分かった。かな?)


 レイはお婆さんの説明を聞いてそんな風に感じていた。お婆さんの言っていたことを要約すると、こうなる。

 お婆さんは手っ取り早く魔力を向上させるためにレイを精神の世界に飛ばした。そこで、レイの持っている魔力の上限を拡大させる修行をさせた。と言うことだ。


「でも、なんで、なんで教えてくれなかったんですか?」


「教えていればどうなったと思う?」


 怒ったような、拗ねたようなレイにお婆さんは静かに問いかけた。


「そりゃ分かっていればもっと考えて、効果的な修行を…」


 レイがそこまで言うと、お婆さんは最後まで聞かずに否定した。


「それじゃダメなんだよ。

 分からないからこそ、発揮できる力ってのもあるんだよ。お前さんも感じただろ?」


「う、確かに…。」


 レイはあの時、自分の置かれた状況を理解できていなかった。だからこそ、必死になることが出来た。


「それで、お前さんはどんな力を発揮できたんだ?」


「光が、見えました。」


「なるほどね。」


 すると突然、お婆さんが右手をレイの顔の前に突き付けた。


「これが見えるかい?」


「これって何のことですか?

 手のことですか、それともこの黒いやつの事ですか。」


 レイがそう言って指さしたのは、お婆さんの手より、五cmほど上だった。なんと、お婆さんの手から、黒い湯気のようなものが立ち上っていたのだ。


「ほう、見えるのかい。まさかそこまでだとは思ってなかったけどね。」


 お婆さんはそう言って手を引っ込めた。その顔はどこか嬉しそうだった。


「あの、これは何なんですか?」


 レイの訊ねたこれとは、当然黒い湯気の事だった。


「これは黒魔煙こくまえんといってね。上級と呼ばれる魔法使いのみ、見ることが出来る魔力の煙さ。」


「こくまえん?魔力の煙?」


 レイは耳を疑った。魔力を見ることが出来るなんて聞いたことがなかったし、自分が上級の魔法使いと言われたことにも戸惑った。

 そんなレイを見てお婆さんは、ふっふっふと笑って、杖を取った。


「どれ、一つ見せてあげるかね。」


 そして、小さく何かを呟いた。レイには聞こえなかったが、何を言ったのか次の瞬間すぐに知ることになった。レイの体が浮き上がったのだ。


「うわっ、うわぁぁぁ。」


 レイは壊れた玩具のように手足をバタつかせたが、レイの体は安定して宙をさまよっている。

 どうやらお婆さんは、レイに浮遊魔法をかけたようだ。


「落ち着かないか、みっともない。私の魔法だよ、心配する事はなにもないさ。」


 そんなお婆さんの声を聞いて、やっとレイは動くのをやめた。

 しかし、その顔は納得していない。

 そんなレイの表情に気付いたのか、お婆さんはなだめるように言った。


「そんなに怒るんじゃないよ。私はこれを見せたかっただけなんだからさ。」


 そう言ってお婆さんが、空いた方の手で差したのは杖だった。なんとその杖には、絡まるように黒魔煙が付いていたのだ。

 先ほど、お婆さんの手から出ていたように垂れ流しているのではなく、コントロールされているイメージがある。とにかく、一欠片も無駄にしていない。


「これが上級のまたその上の魔法さ。」


 お婆さんはそう言ってレイを下ろした。


「どういうことですか?」


「それはお前さん自身で確認することだよ。」


 お婆さんの返答はレイの納得するものでは、到底無かった。


「どういうことですか?」


 レイはもう一度問い直した。

 すると、お婆さんがどこからか正方形の物体を取り出した。


「これを浮かべてみなさい。勿論魔法でな。」


「え、これをですか?」


「なんだい浮遊魔法も使えないのかい?」


 驚いたレイに、お婆さんが驚き返した。


「それくらい出来ますよ。」


 レイは、馬鹿にされた気がして目尻を上げた。

 そして先ほど受け取った杖を、正方形の物体に向けた。

 レイが少し口を動かし、腕を振ると正方形の物体は軽々と浮かび上がった。


「どうですか、これぐらい軽いもんですよ。」


 レイは得意げにいったが、お婆さんの顔は芳しくない。

 それどころか、少しがっかりしたような顔をしてこういった。


「ダメじゃ、全然ダメ。」


「なんで、ですか。」


 お婆さんの評価にレイは苦言を呈した。お婆さんがどこに文句を付けているのか分からなかったのだ。


「魔力のコントロールがまるでなっとらん。」


 そう言ったお婆さんの目線を、なぞるようにしてレイは目を動かした。

 その先には、レイがたった今振った杖があった。しかし、その姿はレイの見慣れている物とは全く違うものだったのだ。


 そこらかは、溢れんばかりの黒魔煙が濛々と漏れ出していたのだった。

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