第三十七話 修行の真意
「・・・・・。」
レイはキョトンとした顔で座っている。
今の状況が全く理解できていなかった。
(たしか…、ジャングルで目を閉じて光が目の前に…。)
記憶もとても曖昧だ。
ジャングルでさまよっていた時間も曖昧だ。一瞬だったような気もするし、数日間迷っていた気もする。
とにかく、頭の中にもやが立ちこめ、上手く回っていない。
「何が何だか分かってない様子だね。
それじゃ説明してやろうかね。」
お婆さんはそう言って、レイの疑問を解消するような話をしだした。
「まず、お前さんに言っていた事だが、あれは嘘じゃ。」
お婆さんは唐突にそう言った。
「僕に言っていたこと?」
「あれだよ、今回の修行が肉体を鍛えるものだと言うことさ。」
レイはその言葉を聞いて納得した。意識を失う前に、レイの考えていたことは正しかったのだ。
「それどころか、この修行に肉体は一切使ってさえいないんだから。」
「へ?いやそんなことはないですよ。だって僕はずっとジャングルを歩き回ってたんですよ!
肉体はむしろ酷使しましたよ!」
お婆さんが言ったことに、レイは激しく講義した。
お婆さんはその姿を見てハッハッハと笑った。
「お前さんはそこから間違ってるよ。
お前さんは元々ジャングルになんて行ってないんだから。」
レイはもう、何が何だか分からなくなっていた。
「行ってますよね…?」
「行ってないよ。」
沈黙が流れた。
するとお婆さんは、ベットの横に置いてある引き出しから何かを取り出した。それを見た瞬間、レイの表情は固まった。
「なんで僕の杖が?」
そう、お婆さんが取り出したのは、紛れもなくレイの杖だった。
(僕の杖は、修行が始まる前にお婆さんに折られたはず…。それじゃあアレは何だ?)
あの時、お婆さんはレイの杖を作り直すと言っていた。しかし、お婆さんが持っているそれは作り直されたものなどではなく、正真正銘レイの杖だった。レイはその事を直感で感じ取っていた。
「これがここにある意味が理解できるか?」
お婆さんはそう言って杖をひょいとレイに投げた。
レイは杖を受け取り、しげしげとそれを見つめた。やはりレイの杖で間違いない。
「お婆さんはあの時杖を折るふりをしたんですか?」
「残念、外れだ。」
「それじゃあ、折っていたのは別の物だったとか?」
「それも外れだよ。」
お婆さんは、レイに考えさせて面白がっているようだ。
「それじゃあ、なんでなんですか?」
すると、お婆さんは、またハッハッハと笑ってこう言った。
「あれは全てお前さんの"夢"さ。」
「夢?」
「そうさ、お前さんは、あの部屋に入ってジャングルを歩き回ったつもりなんだろうが、それは違う。
お前さんは、あの部屋に入った時点で眠りについたのさ。それ以降のことは全てお前さんの夢さ。」
お婆さんの言うことは突拍子の無いことだ。しかし、不思議とレイは素直に受け入れられた。なぜなら、あれが夢だったとしたら全てに説明が付くからだ。
ぼんやりとした頭、疲れの全くない体、ジャングルを歩き回ったとは到底思えないきれいなままの服、そして、折られることなくレイの手の中にある杖。
そのすべてを、あれは夢だったと言うことで説明できるのだ。
「でも、何で?」
聞きたいことが多すぎて、とてもアバウトなレイの質問に、お婆さんはちゃんと応えた。
「お前さんを眠らせて魂だけをある場所に飛ばす為さ。」
「ある場所?」
「それはな、精神の世界さ。」
「精神の世界?」
レイはお婆さんの言葉に引っかかった。
(どこかで聞いたような…。)
だが、レイが何かを思い出す前に、お婆さんが話し出した。
「精神の世界、まぁこの世界の外側の世界。とでも言った所かね。
そこに私の転移魔法で、お前さんの魂を送ったのさ。」
レイが戸惑うのをお構いなしにお婆さんは話し続ける。
「なぜ精神の世界にお前さんの魂を送ったかというと、そこでなら魔力を鍛えることが出来るからな。」
「え?」
レイは、この日何度目かの疑問を呈した。
「確か魔力を鍛えることは出来ないって…。もしかしてそれも嘘だったんですか?」
「おしい、半分正解だよ。
まず、基本的な事を教えよう。人は全員魔力を持って生まれる。その量が特別多い人間が、私やお前さんのような人間だ。そして、この世界にいる限り魔力が増えることはない。」
そこまでお婆さんが話した後、レイが反論しようとした。しかし、お婆さんはそれを制した。
「少し黙って聞いてくれるかね。」
どうやら質問は最後に、と言うことらしい。
「魔法を勉強していると自分の魔力が強くなったと感じる事がある。しかし、それは扱いがうまくなった訳で魔力自体が増えたわけではない。
例えば魔力を100生まれ持ったとする。でも、はじめのうちに使いこなせるのはせいぜい1/10が良いところだ。それが練習するうちに1/7になり、1/5になっていく。今のお前さんは自分の力の1/2程を使いこなせている。
だが、それは魔法を使って、使って、使って、使って、使って、使ってやっと上達するもので、一朝一夕に上達するものでは無いんだよ。
だから、精神の世界だ。
詳しいことは私も知らないが、精神の世界で訓練すると魔力を上げる事が出来る。」




