第三十四話 考えて行動しろ!
お婆さんの声を聞いて、レイは思わず足を止めてしまった。
「ミクルの言う通りだよ。今お前さんが一人で乗り込んでも犬死にするか、捕まるのがオチだよ。」
「だからって、ハルが大変なときに何もしないでいるなんて無理だよ。」
「私がいつ何もするななんて言った?
考えて行動しろと言ったんだよ。」
「考えて行動する?
一体何を言ってるんですか。」
「良いことさ。」
そう言って笑ったお婆さんに、レイは恐怖さえ覚えた。
結局、レイがお婆さんの家を出て行く事はなかった。お婆さんの言葉が胸に引っかかっていたのだった。
レイが出て行くのをやめたのを見ると、お婆さんは立ち上がって廊下に出て振り返った。
「考えて行動したいのならついてくるんだね。」
そう言うと廊下へ歩いていってしまった。ミクルもそれに続く。
キッチンに一人残されたレイは考えていた。
このまますぐにハルの元へ向かうべきか、それともお婆さんの言うことを聞いてからにするべきか。
そして、レイは決断した。少し時間はかかるかもしれないけど、ハルを助けられる可能性が少しでも高い方を選択することに決めたのだ。
レイはお婆さんとミクルの後に続いて廊下に出た。
お婆さんとミクルは廊下の一番奥にある扉を開けていた。
「あれ、そこってトイレなんじゃ…。」
「いつもはな、しかし今は違う。どう違うかは、見てのお楽しみだよ。」
そこには、ジャングルが広がっていた。
「・・・。えー?!
な、なんで?昨日の夜はトイレだったのに。」
「いいリアクションだね。
この部屋は私のもつなかで最大級のマジックアイテムなのさ。この部屋自体に空間魔法がかけられていていて、中には見ての通り無限に広がるジャングルがある。」
扉の奥のジャングルでは、時折猛獣のうなり声が聞こえる。
「さぁどうする?私の修行を受ける覚悟があるかい。
初めに言っておくが、私の修行を受けたからと言って、お前さんの妹を必ず助けれるわけではない。それどころか、助けに行くことすら出来ないかもしれない。
それでもお前さんに、やる気はあるのかい。」
レイにとっては猛獣のうなり声よりも恐ろしかった。
お婆さんが言う修行には、この部屋ごとマジックアイテムを使うのだろう。それがどんなものなのか想像もつかないが楽なものではないだろう。というか、さっきさらっと命の保障がなくなった。
昨日会ったばかりのお婆さんに、自分の命をかけて良いものだろうか。そこまでする価値はあるのだろうか。
レイはチラッと二人の方を見た。高圧的な立ち姿のお婆さんの横にミクルの姿が目に入った。
そういえば、ミクルと出会ったのは監獄でのことだった。ミクルはもともと捕まっていたのだ。つまりは犯罪者だ。
昨日の夜には、お婆さんの指示でそれをやったと言っていた。つまり主犯格はお婆さん…。
そんな二人の言うことを聞いてもいいのだろうか。だめだ。リスクが大きすぎる。
「やっぱり僕は、今から…」
「ハルちゃんを本気で助けるつもりはあるのか、レイ。」
レイの言葉に割って入ってきたのはミクルだった。
「おめぇは今、本気でハルちゃんを助けようと思ってるのか?
俺にはそうは見えねぇ。ハルちゃんを助けるなんて都合のいい理由だ。お前は自分が死ぬために行くんだ。」
ミクルのその言葉に、レイは思わずかっとなってしまった。
「違う、僕はハルを助けるだめに行くんだ。変なこと言うなよ。」
「本当にそうか?
じゃあなんで俺達に助けを求めないんだ。言っておくけど、俺はおめぇと同じくらい強いし、ばぁちゃんは俺の何倍も強い。
それなのになんでおめぇは一人で行く?」
「それは、もう迷惑はかけたくないからだよ。ミクル達の命まで懸けて貰う必要はないよ。」
「あるね。」
「なんでさ?」
「俺とおめぇはもう仲間だろ。」
その言葉で、熱くなっていたレイの頭からすっと熱が引いていった。
「仲間のピンチは命懸けて守れって教わってんだよ。
だから、おめぇは安心して迷惑かけろ。」
ミクルも怒鳴るような口調から、優しくなだめるような口調にかえて言った。
レイの目には涙が浮かぶ。レイはそれをこぼさないよう賢明にこらえて言った。
「お願いがあります。今更だけど聞いてください。
ハルを、僕を、助けてください!」
そう言って頭を下げたレイの目から、涙がいくつもの水滴になって弾け飛んだ。
「それでいいんだよ馬鹿が。」
ミクルはそんなレイの肩を優しく抱いた。
「なに男同士で抱き合ってるんだい気持ち悪い。ミクル、やっぱりお前はそっち側の人間だったのかい。
お婆ちゃんは悲しいよ。」
「ばぁちゃん話し聞いてたのか?!
なんでそんな水差すようなこと言うんだよ。あとそっち側ってなんだよ。」
「そんなの決まってるだろ、ほ」
「言わなくていいよ。」
「ったく、怒りっぽいんだから。」
お婆さんはやれやれと首を振ってからレイを見た。
「さて冗談はこれくらいにしてと。
レイ、もう一度聞くよ。私の元で修行する気は合るかい?」
「はい。」
今度は即答だった。




