第三十話 精神の世界
「さっきも言ったように、この空間には様々な呼び名が存在します。しかし、本当の名前をしっている人は居ないんです。
なぜならここは、世界と世界の狭間の世界だからです。」
「世界と世界の狭間?それってどういう…。」
レイがここまで言ったときにはもう、アリスが答えていた。
「そのままの意味です。
それぞれの世界をつなぐ空間、無の世界です。」
「あの、すいません。全く意味が分からないんですが。」
「え~とですね。
エルバム様じゃなくてレイさん。レイさんは輪廻転生を知っていますか?」
「それは、あれだろ宗教の何かだよな?」
「おおざっぱに言うとそうですね。
この世にはいくつかの世界が数珠繋ぎに繋がっており、命あるものは一つの世界で死ぬと別の世界に転生し、そこでも死ぬとまた次の世界に生まれ変わります。それが輪廻転生です。」
アリスはそう言うと右手をならした。
すると、二人の間に模型が現れた。七つの光が数珠繋ぎに並んでいる。その光を小さな黒い点が移動している。
「なんだこれは?」
「え~と、私の説明だけでは分かりにくいかと思いまして、私が説明する事が図になって現れるようにしてみました。
どうですか?」
「あ、うん。分かりやすくて良いよ、ありがとう。」
レイがそう言うとアリスはホッとしたように笑った。
「それでその輪廻転生がどうだって言うんだよ。」
「はい。輪廻転生の輪には、このように決まった数の世界が繋がっています。
しかし、この光り輝く世界以外にもう一つ別の世界が存在します。」
アリスがそう言うと、先ほどの模型のを黒いもやのようなものが覆った。
「この黒い部分こそが今私たちがいる精神の世界です。」
「これが?」
レイは疑うように言った。
アリスの話がとても突飛なもので、にわかには信じられなかったからだ。
「はいそうです。ここが、です。
輪廻転生最大の世界にして何もない世界。
輪廻転生の輪からはずれてしまった魂の世界なのです。」
レイの頭はますます混乱してきた。
しかし、この状況ではアリスの言葉を信じるしかなかった。
「分かった、仮にアリスの言っていることを信じるとする。それじゃあなんでその精神の世界にアリスがいるんだ?」
「それはですね、私たち悪魔の魂が輪廻転生の輪から外れてしまったからです。」
アリスはどこか悲しげにそう言った。
「それってどういうことなんだ?」
「レイさんは悪魔の力をご存じですか?」
「それくらい知ってるよ。精神の力だよな?」
「そうです。悪魔は精神の力、魂を操る力を有しています。」
「魂を操る力?」
「そうです。私たち悪魔は全ての物質に宿る魂を操ることで進歩してきました。しかし、それは同時にこの世の理に反する事でもありました。
私達は本来死して別の世界に移るはずの魂さえ自分達の力として使ったのです。
500年前の戦争の最中、私達は死んでいった同士や敵兵の魂をそれぞれの肉体に閉じこめ強制的に戦わせました。重要なのは、それ以前からもそのような事が繰り返されてきたということです。
それにより、私達の魂は汚れてしまったのです。」
そこでアリスは目を伏せた。
その表情はなにかとても悔しくては苦しそうに見えた。
「でも、なんで魂が汚れたら輪廻転生の輪から外れるんだ?」
「輪廻転生で生まれ変わるとき魂は白い綺麗な状態でなければならないからです。
生き物は普通、生きているだけで少なからず心が汚れます。その汚れをを落とすための場所がここなんです。
魂がここを通る度に汚れを落とすのでこの世界は暗く荒んでいるんです。」
レイは辺りを見回した。確かにレイとアリスがいる場所以外は、夜の闇より暗く淀んでいた。
「でもさ、それなら悪魔の魂も綺麗に洗い流されるんじゃないのか?」
「それは無理ですよ。
考えて見てください、元々白い雑巾があったとします。その雑巾に付いた汚れを洗い流せば何色になりますか?」
「そんなの白になるに決まってるだろ?」
「そうですね。元が白い場合はそうなります。
でも、私達はダメなんです。私達の魂は元から黒く汚れているんです。元が黒ければいくら洗っても黒のままです。」
「は?なんだよそれ。
魂っていうのは毎回ここで洗われるから、生まれるときは白くて綺麗になるんじゃないのか?」
「確かに普通の魂はそうなります。実は私達にもよく分かっていないんです。何故私達の魂だけ、生まれながらに汚れているのか。」
アリスはまた悲しそうに顔を伏せた。
そんなアリスを見ていると、レイの心にじわじわと怒りが生まれてきた。
「なんだよそれ。それじゃあアリスは悪魔に生まれたってだけでこんな訳わかんないところに閉じこめられてるのか?
そんなのふざけてる。おかしいよ。」
レイの表情が変わっていた。
ジンと対峙したときのあの怒りに震えながらも真っ直ぐな目をした表情に。
「あなたならそう言ってくれると信じていました。
だから私たちはあなたを呼んだのです。」
そう言ったアリスの顔には希望が見て取れた。




