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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第二章 イーストテッド篇 ハル救出作戦
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第二十三話 闇夜の脱走劇

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


 スキンヘッドの大柄な親兵は、獣のような叫び声上げると左肩に手を当てた。いや、左肩があった場所に手を当てた、といった方が正しい。

 親兵の綺麗に剃られた頭からは脂汗がみるみる内に溢れ出した。

 まるで蝋人形のごとく、親兵の腕は簡単に弾き飛ばされた。


「ミ、ミクル君はいったい何者なんだ。なんで輪ゴムでこんな事を。」


 レイは腕をなくした親兵とミクルを交互に見ながら言った。


「俺はただの貧しいこそ泥さ。」


 そう自慢げに言ったミクルの髪の毛が、心なしかまたオレンジに変わっていた。


「そんな事よりそこのおめぇ、俺の実力は分かっただろ、大人しくレイを放さないとアイツみたいになるぜ。」


 ミクルは、いまだにレイの腕を掴んで放さないセリエーヌに向き直ると、輪ゴムを構えて言った。


「ふんっ、どんな手を使ったかは分からんがその貧相な武器は、なかなか危険なようだな。

 あいにく私は今、ロクな装備もしていない。ここはひとまず貴様らを見逃すしか無いようだな。」


 セリエーヌはそう言うと、あっさりレイの腕を放した。

 レイは慌ててセリエーヌから離れ、ミクルの横まで下がった。


「どういうことだ、あんたがこんなに簡単に僕達を見逃すなんて。」


 レイは、自分の右手が解放されたのが信じられないという顔をして言った。


「ふんっ、そんなの簡単なことだ。貴様と初めて会ったときにも言っただろ、本当に力のある物は勝てない戦いをしない者のことだ。

 勝てないのに、無駄な戦いを挑むのは常に弱者のする事なのだよ。」


 レイはセリエーヌがそう言ったのを聞いて、何故か背筋が寒くなった。今のセリエーヌは確かに剣をもっておらず万全な状態ではない。その姿でも、レイは恐怖を覚えた。

(早く逃げないと殺される)

 直感がレイにそう告げていた。


「そですか、じゃあお言葉に甘えて逃げさせて貰いますよ。

 もう二度と会うことは無いでしょうけどね。」


 そう早口に言い放つと、レイは乱暴にミクルの腕を掴んだ。


「メイル」


 レイは塀の上に見える山めがけてメイル(移動魔法)を発動させた。

 一瞬にして二人の少年は、ライムベル親兵基地から街外れの山に移動したのだった。




「いや、貴様はもう一度必ず私の前に現れる。そしてその時が貴様の最期だ。」


 騒ぎに気付き、続々と集まってきた親兵の中でセリエーヌが一人呟いた。




 セリエーヌがそう言ったとき、レイとミクルは、山のほぼ頂上の、大きな木の下にいた。

 突然の移動に、ミクルが驚いたように辺りを見回した。


「嘘だろ、なんであんなもので魔法が使えるんだ。こんな事聞いたことが無いよ。」


 ミクルは何か分からないことがあるのか頭を抱えている。

 ぼそぼそと何かを呟いているようだが、横にいるレイにも聞こえなかった。もし、耳を澄ませたなら聞こえたかもしれない。しかし、今のレイはセリエーヌに対する恐怖で動くことが出来なかった。レイは、治まらない身体の震えを押さえるように、両手で自分を抱くような格好なってしゃがみ込んでしまった。


 脱獄が成功したというのに、二人の間に喜びの言葉はなく長い沈黙が流れた。



 山に移動してから数十分は経っただろうか。レイは肩を叩かれたのに気付き振り返った。そこには当然ミクルの姿があった。頭の色がさっきより鮮やかなオレンジに変わっている気がする。


「レイ、脱獄を手伝ってくれてどうもありがとう。俺は今から行かねぇといけねぇ所があるんだ。もしよかったらレイも一緒に来ないか?一度あって欲しい人がいるんだよ。」(確かめたいこともあるし。)


 ミクルはレイが振り向くとこう言った。最後の一言は心の中だけで呟いた。


「あ、うん。こちらこそありがとう。ミクルが居ないと今ここには居れなかったよ。

 それと、僕からもお願いしようと思ってたんだけど、出来ればミクルの行くところに連れて行ってくれないかな?実を言うと僕今一文無しなんだよね。

 あるのはこの杖だけ。」


 レイはこう言うと、杖を手に取った。

 ミクルは、何故かその杖を悪いものでも見るような目で見た。まるで、なにか善からぬ物ででもあるかのように…。


「じゃあ良かった。ついてきてくれるんだな。」


 ミクルは、その視線を隠し何事もなかったかのように言った。


「うん、ついて行くよ。それで一つ質問なんだけど、ミクルの行きたい所ってどこなの?」


 レイは、ミクルの怪しげな視線に気づかず話を進めていく。


「そっかまだ言ってなかったな、俺が行きたいのは、俺の婆ちゃんの家なんだ。」


「お婆さんの家?」


「そう、詳しいことは着いてから言うけど、実は俺婆ちゃんに頼まなきゃいけねぇことがあるんだ。」


 ミクルは、何故か伏し目でそう言った。何かありそうだがレイはその事よりも、気になっていることがあった。


「分かった。

 それで、その…。ミクルのお婆さんは、ホームレスだったりする?」


 このことだった。

 ミクルの姿を見る限り、ちゃんとした家系では無いような気がしていたのだ。


「レイ…。おめぇって結構失礼なんだな。」


「そうかな?ミクルほどでは無いと思うけど。」


「そうかよ、まあ良い俺の格好みれば、そう思うのも当然だろうしな。

 でも安心しな、婆ちゃんちはちゃんとしてるからさ。」


 ミクルは、自分の服を見ながらそう言った。自分の身なりの悪さは自覚しているようだ。

(それを自覚した上で僕の服を変って言ったのか。)

 レイはそんなミクルをみて、牢屋での出来事を思い出していた。

 少し文句を言おうとしたが、不毛なことだと思いなおし、


「そっか、変なことを聞いて悪かったね。」


 と、謝るだけにした。思い返してみるとさっきの質問はいささか失礼すぎた。


「いいよ、気にしてないから。

 そうと決まれば急ごう、早く行かないとちょっとマズいんだ。」


 ミクルは、そう言うと歩き出した。レイが言ったことは全く気にしていないようだった。

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