第二十二話 怪しい箱と輪ゴム
「なんだよこれ?」
「わかんねぇけど、なんかありそうだよな。」
二人が見つめる先にある物、それは牢屋の上にある小さな部屋にある、小さな木箱だった。
(怪しすぎる)
「罠じゃないか?こんなに間抜けな箱、普通置かないって。」
レイは箱の上に貼られた紙に書かれている[禁]の文字をみている。
「そうか?俺はなんかヤバいもんが入ってると思うんだけどな。」
ミクルはそう言うと箱に近づいた。
「ばか止めろよ、今はそんなことしてる場合じゃないだろ。」
「良いじゃんちょっとぐらい。もしかしたら武器とかが入ってんじゃねぇか。」
「バカ、やめ…。」
レイが止めようとしたが、ミクルは言うことを聞かず木箱を開けた。
・・・。
何も起こらなかった。
ミクルは恐る恐る箱を見ると、何かを見つけたようだ。ゆっくりと手を伸ばすとミクルは、箱の底からそれを持ち上げた。
「なんだこれ?」
ミクルが手に持っている物を見ると、レイの目が変わった。
「ちょっと、これって…。」
レイは慌ててミクルからそれを奪い取ると、食い入るように見つめた。
「おい、どうしたんだよ。」
「これ、僕のだ…。僕の杖だ。」
ミクルが箱から取り出したもの、それはレイがずっと使い続けていたあの杖だった。
「え?!これが魔法の杖。嘘だろ?」
「嘘言ってどうするんだよ。
正真正銘僕の杖だ。この辺の傷とか、覚えてるし。」
レイはそう言って、ミクルに杖を見せた。
「嘘…。だってこれには…。」
ミクルが何かを言いかけた、そのとき、さっきまでレイが手をかけていた扉のドアノブが回り、扉が開いた。
「あ~ぁ、セリエーヌ隊長もヒドいよな、こんな時間まで取り調べの手伝いをやらせるなんて。って、お前ら誰だ?」
部屋に入ってきたのは、スキンヘッドの大男だった。
怪しむというよりただ単純に疑問に思っているのだろう、その声には敵意が感じられない。
「うわぁぁぁぁああ!!」
たとえ声に敵意が無くても、レイ達にとって敵であることに変わりはない。
二人は同時に叫ぶと男と扉の隙間から一目散に外へと逃げ出した。
「おいコラ、待てって。
お前達さては囚人だろ。逃げるな!待て!」
スキンヘッドの親兵はやっと気づいたらしく、外へ逃げた二人を追いかけ始めた。
「待てと言われて、誰が待つかよ。
捕まえれるもんなら捕まえてみろ、ツルツル頭。」
ミクルは後ろを向くと、ベェと舌を出した。
「おいミクル、ふざけるのもたいがいにしろ。」
レイは、横を走るミクルを一喝すると周りを見渡した。
大きな塀で囲まれた場所ではあるが、所々山が見えている。
(これならイケる)
レイはそう考えると、杖を構えた。
「ミクル、僕の腕に捕まれ。ここから飛ぶぞ。」
「飛ぶってどうやって?」
「メイルを使う。あの山に移動するんだ。」
レイは、目の動きだけで、ミクルに山の方向を示した。
「魔法を使うって?でもおめぇ、その杖は…。」
「大丈夫だって言ってるだろ、よし飛ぶぞ。」
ミクルはまだ何か言いたそうだったが、レイはそれを遮って言った。既に準備万端だ。
すると、誰かに右手を掴まれた。
「貴様、こんな遅くにどこへ行く気だ。」
レイは慌てて振り返った。
そこには、レイにとって二度目となる女性の顔があった。
「セ、セリエーヌ。」
レイは怯えたように言った。
夕方の対決はレイにとって軽いトラウマになっていた。
「ふんっ、大人しく捕まっていれば良いものを。無用な苦痛を増やすだけだと分からないのか?」
セリエーヌは、あの冷たいあざ笑うような声で言うと、レイの腕を掴む手に力を入れた。
「くっ、離せ。僕には行かなきゃいけないところがあるんだ。」
「貴様の行くべきところは牢屋だ。他の場所に行く必要はない。」
「おい、おめぇなにもんだ?」
ミクルは威嚇するように言った。さっきまでの冗談半分のふざけた顔ではなく、真剣な睨み顔だ。
どうやら、本能的にセリエーヌの脅威を感じ取ったようだ。
「横の貴様は見たことがないな、その汚い身なりからして乞食か何かだろう。
万引きでもして捕まったか?ふんっ、人間の底辺が、この私に楯突こうというのか?」
「なんだと、おいおめぇ、もう一回言ってみろ。」
ミクルは、セリエーヌの言葉に激昂すると、あの輪ゴムを構えた。
左手の親指に輪ゴムをかけ、右手で思いっきり引っ張り、セリエーヌに狙いを定めた。
「おいおいおい、まさかそんなもので私と戦うつもりか?
そんなもんじゃ虫も殺せんぞ。」
セリエーヌはそんなミクルの姿をまた冷たく笑った。
「あんまり俺を甘くみないことだな、見てろよ。」
ミクルはそう言うと、後ろから走ってきたスキンヘッドの親兵に狙いを定めた。
ミクルは、左手の親指を親兵に向け、右手で輪ゴムを目一杯引っ張ると、優しく放した。
(おい、そんなんじゃ無理だろ…。)
レイは、セリエーヌに腕を掴まれながら、ミクルの放った輪ゴムの行方を見つめた。
スキンヘッドの親兵は、ミクルの輪ゴムに気付かないようで、そのまま走ってくる。
その親兵の左肩にミクルの放った輪ゴムが当たった…。
その瞬間、親兵の左肩が吹き飛んだ。




