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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第二章 イーストテッド篇 ハル救出作戦
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第十九話 少年ミクル

「ここを抜け出すんだよ、協力してくれるよな。」


 ミクルは、目を輝かせてレイに詰め寄っている。


「いや、それはちょっと…。

 第一、脱獄って犯罪じゃないか。」


「犯罪っておめぇ、犯罪者だから牢屋に入れられてんだろ。」


 そういえばそうだ。すっかり忘れていた。


「おめぇ頭大丈夫か?」


「大丈夫だよ。犯罪者っていう自覚がないんだよ。」


 今もここにいることに納得していない。納得できていない。


「そうかおめぇはやってないんだったよな。」

 

 ミクルは納得してくれたようだ。

 それにしても、脱獄など考えたこともなかった。出来るとも思わない。


「でも、どうして脱獄なんかしようと思うのさ。

 君が罪を犯したのなら、その罪を償わないといけないだろうし、僕みたいに冤罪なら、裁判所で無罪を主張したら良いじゃないか。」


 レイには、ミクルがなぜ脱獄しようとするのか検討がつかなかった。

 ミクルはレイの言葉を聞くと、やれやれという風に肩を落として首を振った。


「おめぇ全然知らねぇんだな。

 そう言えばこの街には来たばっかりだったんだよな。

 教えてやるよ、この街の実状をな。」


 そう言うと、ミクルは淡々と話し始めた。




 この街が東部最大の街だってことは知ってるよな?

 こういう大都市には、貴族の政治家が派遣されてきて、その周辺の村をまとめて治めてるんだ。

 おめぇが暮らしてたっていう村も、多分ここと一緒の貴族が治めてると思うぞ。

 まぁそれは良い、要はこの街はその貴族のお膝元だってことだ。

 その派遣されてきた貴族が良い奴なら言うことなんかないんだけどよ、今の貴族は最悪だなんだ。

 ペンズ卿。元々は王国議会の議員をつとめる上級貴族だった。

 だけど王国議会でへまを踏んで、この地方へ飛ばされたんだ。

 それからはヒドいもんだぜ。

 無理な年貢を住民に求めたり、バカみたいに厳しい法令定めたり、取り締まりを強化したり。

 実績上げて中央部に戻りたいだけだろうけど逆効果なことばかりだ。

 取り締まりを強くすれば住民は逆らう。住民が逆らえばペンズ卿はまた取り締まりを強くする。

 その繰り返しでこの街はバカになった。

 まるで自分が神であるかのように君臨するペンズ卿。その神の力に守られて威張りくさったライムベル親兵。そして、度重なる圧政に屈してしまいなにもできなくなった市民達。


「ほんと、腐ってるよこの街は。」


 ミクルは話しの最後にそう付け加えた。


「大体事情は分かったけど、それがなんで脱獄に繋がるんだ?」


「分かってないな、そりゃおめぇ俺もその悪政の被害者だってことさ。」


 ミクルはなぜか胸を張ってそういった。


「威張るようなことかよ。

 それじゃあミクル、君はなんで捕まっているだ?」


 そんな風に言うのだ、よっぽどの事情があるのだろう。

 レイは、少し覚悟してミクルの答えを待った。もしかすると、ミクルには辛い境遇があるのかもしれない。


「え?万引きだけど。」


 やっぱり…。

 想像通りだった。


「それなら君が悪いんじゃないか。

 何が被害者さ、完全に加害者だろ。」


 レイは、あきれてしまった。


「違う!おめぇはほんとに何も分かってない。

 いいか、問題は俺がなんで盗みをしたのかってことだよ。俺が泣く泣く犯罪を犯した裏には悲しくも暖かいドラマがな、」


「あるのか?」


「いや、ない。」


「ミクル、今絶対ふざけてるだろ。」


 さすがにレイが切れてしまった。

 普段はあまり感情を表に出さないレイが、戦闘以外でこんなに感情的になるのは珍しい。


「まぁまぁそう怒るなって。確かに俺は悪いことをしたけど、悪役って訳じゃねぇ。」


「どういう意味だよ。」


 レイにとっては、泥棒は立派は悪役だ。悪役に立派というのはおかしいが。


「そのままの意味さ、悪役は他にいる。

 俺はその悪役からある物を盗もうとして捕まったんだ。

 それさえあれば、このイーステッドが救われるようなすげぇもんだ。」


「なんなんだ、そのすごい物って。」


 ミクルの大げさに言い方に、レイは少し驚いた。さっきまでのふざけた様子とは何か違う気がした。


「チッチッチ、それは今は教えられない。

 もしおめぇが脱獄に協力してくれて、それが成功したら教えてやってもいいぜ。」


 ミクルは右手を出して人差し指を立て、左右に何度か振りながら言った。

 ミクルの話しに少し興味が出てきた。


「仕方ないな、僕もこのままここにいるのは不本意だし、やらなきゃいけないこともある。

 いいよ、その脱獄協力するよ。」


「ありがとう、ありがとう。

 おめぇなら分かってくれるって思ってたぜ、レイ。」


 ミクルはいきなりベットから立ち上がると、両手を出してレイに握手してきた。

 汚れた身なりのわりに、ごつごつした印象はなく、意外なほど柔らかい手だった。


「それじゃあ早速作戦会議といこうぜ。」


 ミクルは明るい声でそう言うと自分のベットに座り直した。

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