第十八話 牢屋の少年
夢を見ていた。
レイの目に映る世界、全てが真っ赤に燃えていた。
360°どこを見ても燃えていない場所はない。
いや、一つ違うものが見える。
例の女性だ。
その女性は悲しそうな顔をしてレイを見ている。
女性が着ていた高級そうなドレスはすすで汚れ、所々が裂けていた。
女性は泣きそうな顔でレイを見つめると、燃え盛る建物の方へと走っていった。
レイは、女性の背中に右手をのばした。
「待って、行くな。」
「誰に言ってんだ、おめぇ。」
レイの呼びかけに応えた声は、女性のものではなかった。
レイは、全身にくる激痛に顔をしかめながら目を開けた。
どうやら堅い地面か何かの上で寝ているようだ。右手が空をさまよっている。
「おめぇ、ここに連れてこられてからずっと呻いてたぞ。
なんか悪い夢でも見たのか?」
レイにそう話しかけてきたのは、さっきの声だ。
激痛の走る首をゆっくりと曲げるとそこには、目を覆うようなボサボサの髪に、汚れた服を着た少年が立っていた。清潔感の対極にいるような人間だった。
レイはもう一度顔をしかめた。これは体の痛みのせいではない。
「いや、そうじゃないけど。
それより、君はだれ?ここは一体どこなんだ?」
レイはそう言いながらゆっくりと起き上がった。
出来れば話したくなかったが、見たところここにはこの少年以外居ないようだったので、レイは仕方なく話し返した。
「俺か?俺はミクルだ。よろしくな。」
出来ればよろしくしたくない。
「ここは牢屋だ。ライムベル親兵の基地の中にある。
っていうか、おめぇ捕まったら牢屋に入れられるに決まってるだろ。」
ミクルは、なに言ってんだコイツ?と呟いた。レイには聞こえていないと思っているのだろうが、残念ハッキリと聞こえた。
だが、レイはそのことについて何も言わなかった。あの時の悔しさがまたこみ上げてきていたのだ。
「それにしてもおめぇ、変なかっこしてんな。」
ミクルはお構いなしに話を進めていく。
レイは、その言葉を聞いて自分の姿を確認した。黒いコートを着たいつもの姿だった。
別に変な所はない。少なくともミクルの汚れた格好よりマシだ。
レイは、ミクルの言ったことにカチンときて口を開いた。
「君よりはマシだと思うけどな。
この黒いコートは、僕が師匠から教わった正装なんだ。あんまり、悪く言わないでくれるかな。」
「ふ~ん、そうなんだ。ごめんな、そんな事情知らなかったからさ。」
ミクルは、小さく頭を下げた。
「いいよ別に、そんなに怒ってないから。」
ミクルが素直に謝ったので、レイもそれ以上怒りはしなかった。
「それで、おめぇはなんて言う名だ?」
「僕はレイっていうんだ、…よ、よろしく。」
レイは少しつまりながら、ぎこちなく挨拶を返した。この少年と話すのは気分が乗らなかった。
「おめぇ女みてぇな名前だな。」
ミクルは、レイの名前を聞いて笑い転げた。
(ミクルも十分女っぽい名前だろ。)
レイはまたイラっとしたが今度は胸にとどめた。言っても無駄なだけだ。
ミクルはずっと笑っているので、レイは無視して辺りを見回した。
レイのいる部屋は4畳半ほどの広さだった。
左右に一つづつ鉄で出来たようなベットがある。一つはレイが寝ているもの、もう一つはミクルのものだろう。どちらのベットにも申し訳程度の薄い毛布が敷いてあった。
部屋の隅には薄汚れたトイレがあった。壁など、トイレを使うときに隠してくれるようなものはない。あれを使うのは相当度胸がいりそうだ。
部屋の入り口には鉄の扉が閉まっている。見るからに頑丈そうだ。
そしてその反対側の壁には小さな窓があった。当然窓には鉄格子がはまっている。
「はぁ~。」
(本当に牢屋なんだ…。)
レイは部屋を見回すと大きなため息をついた。
自分の置かれた状況を改めて実感していた。
「ところでレイ、お前何で捕まったんだ?
泥棒か?スリか?もしかして覗きとかか?」
さっきまで笑い転げていたミクルが、思い出したように言った。
失礼なことを気にすることなく言っている。
「そんなことしてないよ!…、俺にもよく分からないんだ。
この街に着いたらいきなり指名手配されてるって言われて、セリエーヌとかいう親兵にやられて、気がついたらここにいたんだ。」
レイはミクルの言ったことを否定してから、今までのいきさつを簡単に伝えた。
ここ最近は、自分でも分からないことだらけだ。
「うへぇ、おめぇ指名手配されてんのか?
大物犯罪者じゃねぇか。」
ミクルは、ひぃっと言って壁際まで下がった。
「そんなんじゃない、僕は本当に捕まるようなことはしてないんだ。何かの間違いだよ。」
「冗談だよ、おめぇはそんなすげぇことが出来るようなタマには見えないぜ。」
そう言うとミクルは、笑いながら座り直した。レイにとっては調子が狂う相手だ。
「それにしても、間違いで捕まるなんて災難だな、おめぇ。
今こうして捕まってるのも不本意なんだろ?」
ミクルは意味ありげな表情をし、レイに顔を近づけた。
レイは思わず後ずさりした。ミクルの迫力に圧倒されたのだ。
ミクルは、そんなレイと鼻がぶつかるくらい近づくと、にやっと笑って口を開いた。
「俺と一緒に脱獄しようぜ。」
レイは目を見開くとミクルの目をマジマジとみた。
(こいつは何を言ってんだ?)




