第十七話 二人の行く末は…
魔法使いと勇者、この二つの力で人類は発展してきた。
しかし、この二つの力には根本的な違いがある。
一つはその能力の出現の仕方だ。
魔法使いは生まれながらに魔力が特別強い者のことをいう。魔力の強さは遺伝性がほぼなく、先祖に魔法使いがいなくても魔法使いが生まれることがある。
勇者は魔法使いとは違い、完全な遺伝によりその力が受け継がれている。初代勇者ミツル、二代目勇者ハヤテ、三代目勇者コウキ、歴史上の本物の勇者はこの三人だけだ。現在この世界に存在する勇者は全てこの三人の子孫ということになる。セリエーヌは、その三人の勇者の内初代にあたるミツルの子孫だという。
レイは愕然とした。
ただでさえ攻撃が当たらず、苦戦をしいられる中、更に強力な力を出してこられたのだ。
「くそっ、こんなのどうすりゃいいんだ。」
思わずそんな声が漏れた。
親兵のほとんどを倒し、油断してしまった。隊長と一般兵でこれほどの力の差があるとは、思ってみなかった。
体力と魔力は底をつきかけ、セリエーヌには隙も見あたらない。
「魔法の力はあるようだが、貴様には戦闘経験が欠如している。本当の実力者というのは、勝てない相手に挑むなどという無駄なことはしないのだよ。」
セリエーヌはまたあの残忍な笑顔でレイを舐め回すように見た。
レイは蛇に睨まれた蛙のように、一歩も動く事が出来なかった。本能が恐怖で支配されていた。
「大人しく捕まりなさい。
安心しなさい、逃げたもう一匹もすぐ捕まえて同じ監獄にぶち込んでやるからさ。」
セリエーヌは、ゆっくりと品定めするようにレイに近づいてくる。
セリエーヌがゆっくりと剣を振ると地面が縦に大きく裂けた。亀裂はレイのつま先まで届いた。
「ふんっ、これが勇者の力だよ。聖なる光を纏った武器は本来の数倍の力を発揮する。
どんなに堅い鋼鉄でも簡単に切り刻むことができるんだよ。」
セリエーヌは、レイの十歩ほど手前まで近づいている。一歩飛べば簡単に剣が届く距離だ。
レイはまだ動かない。レイはゴクリと唾を飲み込んだ。攻撃を仕掛ける瞬間を見極めているようだ。
「いくら待っても貴様に勝機など訪れん。」
そう言うと、セリエーヌは一気に迫ってきた。
セリエーヌの剣がレイの鼻先に触れそうになった瞬間レイの姿が消えた。
「くらえ!」
レイはセリエーヌのすぐ後ろに現れ杖を突きつけた。が、レイはまた金縛りにあったように固まってしまった。
「そう何度も同じ手にかかると思ったか?」
そう言ったセリエーヌは左手に持った剣をレイの首筋に突きつけていた。
セリエーヌは、レイに剣を突き刺すと見せかけてレイがメイル(移動魔法)を使う寸前に、レイの移動先を読んで剣を突きつけたのだ。
「くっ…。」
レイは、一ミリも動くことができず、息を詰まらせた。
「貴様の負けだ、観念するんだな。」
セリエーヌが冷たく言い放った。
「ちくしょぉ…。」
レイは呻くように言うとひざを突いて崩れた。
完敗だった。もう少し戦えると思っていた。
こんなにも簡単に捕まるとは、情けない。
「何が後は任せろだ。全然ダメじゃないか。
ごめんハル。」
レイにはもう希望が無くなっていた。
なんとかして、ハルだけは助けないといけない、だけど、もう戦う力が残っていない。
恥ずかしいが、剣を突きつけられ腰が抜けたようだ。
足はワナワナと震えて立てそうにない。
「惨めだな、弱いくせに暴れやがって。
この始末書、書かないといけないのは私なんだぞ。」
セリエーヌはレイの胸ぐらを掴み持ち上げた。レイは、簡単に持ち上げられた。
「運ぶのが面倒だから少し眠れ。」
そう言うと、セリエーヌは自分の剣の柄でレイの下腹を一突きした。
レイの記憶はそこで途切れた。
情けなくて、悔しくて、惨めで、レイの目からは涙がこぼれ落ちた。
ちょうどその頃、街の中心の方へ逃げていたハルを赤い制服を着た兵士が囲んでいた。
ダクト(攻撃魔法)もプロウ(防御魔法)使えないハルに、この大勢の親兵から逃げ出す力はなかった。
周りには多くの一般市民が居るが、親兵達は気にすることなくハルを捕らえた。
「やめて、助けて、誰か、お兄ちゃん!」
ハルが叫び声を上げるのを、周りの人々は見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。
誰もハルを助けようとも、見ようともしない。
どうやらハルに関わりたくないようだ。
みな、足早に通り過ぎていく。
ハルの涙の叫びは誰にも届かない。
ハルは為すすべもなく親兵に捕まってしまった。
レイだけではなく、レイが守ろうとしたハルさえも逃げ切れず、呆気なく捕まってしまった。
所詮、十代の少年と少女二人にできることはなかったのかもしれない。




