第十五話 ライムベル親兵
親兵達は腰に提げたサーベルを抜くとレイとハルに切っ先を突きつけた。
レイとハルを囲む円は更に小さくなり身動きが取れないほどになった。
ハルはレイの腕にしがみついていた。レイの左腕にはハルの震えが伝わってくる。
「さぁ、大人しくしなさい。私達も無駄な事はしたくないの。
言い訳や反論なら基地でしっかり聞いてあげるから。」
セリエーヌは右手の人差し指で、二つの手錠を回しながら近づいてきた。
レイの左腕は、更に圧迫され痛いほどだ。
「嫌だって言ったら?」
レイは精一杯強がってそう言った。
「即刻処刑する!」
セリエーヌは、レイがそう言うのを待ちわびたかのように高らかと言った。
逮捕する気など元からなく、レイ達をこの場で処刑するつもりだったのだ。
セリエーヌが叫ぶと同時に、取り囲んでいた親兵達がサーベルを振り上げた。
「ひっ。」と、叫び声をあげてハルはうずくまるようにレイにしがみついた。
本物の殺意を知らないハルにとって、この状況は恐怖以外のなにでもなかった。
ハルにしがみつかれながら、レイは意外なほど冷静だった。
ゆっくりと振り上げられたサーベルを眺めながらレイは静かに思う、(こんなのジンとの戦いに比べれば)
サーベルを振り下ろした親兵達がざわめき出した。
セリエーヌは、
「何があったんだ」
と言って、親兵達をかき分け、レイ達の立っていた場所を覗いた。
セリエーヌの顔には、みるみるうちに驚きが広がっていった。
親兵達がサーベルを振り下ろした先にレイとハルが居なかったのだ。
「ここだよ。」
背中からする声に、セリエーヌが振り返ると、そこにはレイとその腕にしがみついたハルが立っていた。
レイの目は、ダルメアと戦った時のように、鋭く強い物になっていた。
「ハル、ここは僕が何とかする。だから、お前は逃げるんだ。」
レイは自分にしがみつくハルに優しく言った。
それでも、目と杖先はセリエーヌに向けて、外していない。
「なんで?レイちゃんも逃げようよ。
こんな所にいる必要なんて無いよ。」
ハルは今にも泣きそうだ。
「ダメだ、この状態で逃げても僕達に逮捕状が出てる以上無意味だ。
僕が何とかするから、ハルはこの街をでてどこか安全なところで身を隠しておくんだ。」
レイの声はなお優しい。鋭い目とはアンバランスな感じだ。
「イヤだ、お兄ちゃんが残るなら私も残る。一人で残るなんて危険だよ。」
「大丈夫だって、心配するなよ。
僕は、お前のお兄ちゃんの、レイちゃんだぞ。」
「でも…。」
「頼むから逃げてくれ。これからの戦いはハルには見せられないんだ。」
ハルがまだ何かを言おうとしたが、レイはそれを遮った。
その声は、それまでの優しいものとは少し違う感じがした。
「分かった…。」
ハルは、その声を聞いてビクッとし、渋々頷いて走っていった。
レイはハルの温もりが残る左腕を強く握りしめた。
「ずいぶん勝手にやってくれたね。」
そう言ったのは、セリエーヌだった。
顔には驚きが消え、怒りが現れている。
「僕達は、こんなとこでは止まれないんですよ。
やらなきゃいけないことがあるんです。」
レイの声は力強かった。やっと、目と口調が一致した。
「貴様らのやるべきことは、大人しくここで死ぬことだ。
行け、お前ら。」
セリエーヌの掛け声で、呆気にとられていた親兵達がレイに向き直り、走ってきた。
「奴は魔法使いだ、気をつけろ。」
セリエーヌが、走っていく親兵達の後ろで叫んでいる。
「うおぉぉぉぉぉ…。」という叫び声と共に先頭の親兵がレイに切りかかってきた。
レイは右手の杖をその親兵に向けると一振りした。
すると、その親兵は「う゛っ。」と、呻き走っている姿のまま固まって倒れた。
「うわっ。」
レイの魔法で倒れた親兵につまづき、後続の親兵達が次々と倒れた。
親兵の半数位が倒れたが、後ろを走っていた親兵達は倒れた仲間を避けてレイに切りかかってきた。
親兵は左右に分かれ、レイを挟むような動きをして同時に切りかかろうとしている。
レイはそのうちの向かって左側の親兵にねらいを定めた。
「ダクト」
レイの杖から出た光の玉は、レイの左側にいた親兵をまとめて吹き飛ばした。
そのすきに、右側に回り込んだ親兵の一人がレイに切りかかってきた。
レイはそれを目の端で捉えるとすぐに向きを変え杖を振った。
「プロウ」
レイがそう唱えると、レイに切りかかろうとしていた親兵のサーベルは空中で弾かれた。
レイは、杖を左手に持ち変えると無防備になった親兵の腹部に右手の拳を思いっきり打ち抜いた。
親兵は、「うっ。」と腹を折って倒れた。
レイは、その親兵を飛び越えると、後ろに続いて走ってきた親兵を次々と蹴り倒した。
レイとセリエーヌの間には、あっという間に親兵の山が三つ、できあがった。




