第十二話 もう一組の兄妹
ハルが男の子から聞いた話しを要約するとこうなる。
男の子の名前はカズキ、妹の名前はメグルだそうだ。カズキは10歳でメグルが6歳だ。
二人はいわゆる孤児で、両親はすでに亡くなっており、兄妹の二人暮らしなのだという。
二人は、子供でも働ける配達の仕事をしてなんとかその日暮らしの生活をしていた。
今から一週間前妹のメグルが病気で倒れてしまったのだ。
初めの二日はカズキもあまり深刻にとらえておらず仕事にでていた。
しかし、メグルはいつまでたっても体調が回復しなかったのだ。
カズキはそれに気づいてから付きっきりでメグルの看病をしたさうだ。
それでも、メグルの様子は一向に変化せず時間だけが過ぎていった。
そうこうしているうちに、蓄えていた僅かなお金があっという間に無くなってしまったという。
そして今日、道を初めて盗みを働いたのだ。その被害者がハルだった。
「カバンを盗むなんて悪いことだって分かってるよ、でもこうするしか無かったんだよ。」
カズキは、正座して下を見たまま話している。
バックはもうハルの手元に戻っている。
「こんなことしといて、図々しいとは思うけど、お姉さん魔法使いなんだろ?
メグルを助けて下くれないかな?
俺今はガキだけどいつかちゃんとお金払うからさ。」
カズキはもう一度土下座しそうな勢いでハルを見上げている。
ハルは、はーと長めの溜め息を吐き出し空を仰ぎみた。
「きっとお兄ちゃんっていう生き物は、こんな風な生き方しか出来ないんだろうね。」
「え?どういうこと。」
ハルの答えを待っていたカズキは、意味が分からず聞き返した。
「ただの独り言だよ。」
そういうとハルはカズキをもう一度見た。
幼いその姿は、いつかの兄の姿とダブって見えた。
「分かった、そのお願い引き受ける。」
「ホント?ありがとうお姉さん。」
カズキは目を輝かせた。
「ただし、一つ条件がある。」
ハルは、そんなカズキの鼻先に、人差し指を立てた右手を近づけた。
カズキはそれをじっと見つめた。その目はとても真剣だった。
「分かってる。俺はお姉さんの命令ならなんでも言うことを聞くよ。」
「そうやって、すぐに自己犠牲に走るのを止めなさい。」
ハルのこの一言を、カズキは理解できていないようだ。
「自己犠牲ってどういうこと。俺は別にそんなつもりは無いよ。
俺はただメグルを助けたいだけだよ。」
「自覚無しか…。」
カズキの反応を見てハルはうなだれるように言った。そしてこう続けた。
「君に自己犠牲の自覚が無くても、周りから見れば一目瞭然なんだよ。
私の周りにも君みたいな人がいるんだけどね、君とその人がそっくりなんだよ。」
その人とは当然レイのことだ。
「その人はいつも自分のことよりも他人のためになる選択しかしないんだ。
さっきの君みたいに、自分が我慢すればとか、自分が頑張ればとか、自分だけが辛い思いをすればとか、他の人が負わなきゃいけない事を勝手に背負っちゃうんだ。」それが相手にとって良いことかどうかを考えもせず。
「確かに君のやってることは美しいことだと思うよ。妹のために罪まで犯して頑張るなんて普通はできないよ。でもね覚えておいて欲しいことがあるの、その美しさは時に周りの人さえ傷つけることになるってことを。」
「どういう意味だよ、お姉さんは一体なにが言いたいの。」
「今君に言えることはこれだけよ。
後は自分で考えて答えをだしてちょうだい。
約束はちゃんと守るのよ男の子ならね。」
ハルはそれだけ言うと、小屋に向かって歩き出した。
カズキは呆気にとられてハルを見ていた。
「そんなことより、メグルちゃんの様子を診るよ、付いて来て。」
ハルの呼びかけにカズキは、ハッとして後について行った。
メグルの病気は、ハルのミーユ(治癒魔法)で一通り治った。今日一晩しっかり寝れば完全に良くなるだろう。
メグルの治療を終えハルは、意気揚々と宿に戻っていた。
帰り道は行きと違い一度もこけるこけることなく歩くことが出来た。
「バックも戻ったし、メグルちゃんの病気も治った。なんだかうまく行き過ぎだな。」
そんなハルの、楽天的考えは宿まで帰った瞬間に崩れ去った。
鬼のような顔をした兄が宿の入口に立って待っていたのだった。
「ハル、お前は今の今までいったいどこに行ってんだ。
夕食前に部屋を抜け出して、朝帰りってのはどういうことだ。」
レイの声は怒りで若干震えていた。
「え~とその、これにはふか~い訳があるんだよ。
って、え?朝帰り?」
ハルは言い訳を話そうとしたが、一つ引っかかる言葉があった。
レイは、そうだよと言って、今ハルが歩いてきた方を指差した。
ちょうど、カズキ達の小屋の真上に朝日が登っている所だった。
ハルが帰り道で一度も転ばなかったのは空が明るくなり始めていたから、だったのだ。
カズキの話しと、メグルの看病が思った以上に長く、いつの間にか夜が明ける時間になっていたのだ。
この後、レイの怒りの雷がハルに落ちたことは言うまでまでもない。
カズキとメグルの事を説明され、レイはやっと説教をやめたのがお昼前だった。
前日の買い物と一睡もしていない疲れから二人はその後死んだように眠った。




