第十一話 ハル、一夜の冒険
ハルは一人夜道を足早に歩いている。
レイに見つからないように部屋を抜け出した頃には、もう太陽は沈みきっていた。
舗装されていない田舎のあぜ道をライトも持たずに歩くのは想像以上に辛い。
ハルも何度となくつまずきながら歩いている。完全に足を取られてこけてしまうこともあった。
それでも、ハルは歩調をゆるめることなく、どんどん歩いていく。
「夕食までに戻らないと。」
ハルの気がかりはこれだ。
夕食の時間になればレイはハルを呼びに来るだろう。そうなればハルが部屋を抜け出していることに気づかれてしまう。
ハルはどうしてもその事態を避けたかったのだ。
「うわっ。」
ハルはまたこけてしまった。
いくら舗装の悪い道だと言っても、ここまで何度もこけるのとは、ハルはよっぽどのドジなのだろう。
「ぐすっ」
コートについた砂埃を払うハルの目は潤んでおり、今にも泣き出しそうだった。
しかし、ハルは目に浮かんだ涙をゴシゴシと拭い、歯をかみしめるとまた歩き出した。
今日のハルはどこかいつもと違う雰囲気があった。
こけたり、つまずいたりしながら歩き、宿を出てから二十分近くたったとき、ハルは小さな小屋を見つけた。
小さくて古い小屋だった。
大きさは二人がジンに魔法を教えてもらっていた山小屋の半分くらい。
壁のあちこちに割れたような穴が空いていて、中の光が漏れている。
ハルは、そっと近づき壁の隙間から小屋の中を覗きこんだ。
ハルがのぞき込んだ先には、男の子の後ろ姿があった。
床に座り込んで何かをのぞき込んでる。が、ハルの位置からはよく見えない。
ハルは一旦壁から目を離し、小屋の周りをゆっくりと歩き、入口を捜した。
音を立てないように歩いていくと、さっきまでハルがのぞいていたのとは反対側に引き戸を見つけた。隙間から小屋をのぞいた時には男の子の陰で見えなかった。
ハルは意を決し、扉に左手をかけた。右手には杖を構えている。
大きく一つ深呼吸し、勢いよく扉を開け小屋に飛び込んだ。
小屋の中には布団が一つしかれており、女の子が真っ赤な顔でそこに横たわっていた。
その奥に、夕方ぶつかってきた男の子が座っている。手にはハルのバックを持っている。どうやら魔法がかけられたバックに呆気にとられていたようだ。
「だ、誰だ。何の用だよ。」
いきなり小屋に入ってきたハルを驚いたような、怯えたような目で見ている。
どうやら、自分がスリをした相手の顔を覚えていないようだ。
「私はただ、自分のバックを取り戻しにきただけよ。君の持ってるそのバックを返して。」
ハルは右手の杖を男の子に向けたまま左手をださて、バックを渡すように言った。
「お前、魔法使いだったのか。」
男の子はハルの杖と顔を交互に見つめ、しまった、という顔をした。
男の子は、完全に困り果てている。
「お兄ちゃん、どうしたの。」
そのとき、床から弱々しい声が聞こえた。いや、床が喋っているわけではない。それは、布団に寝ている女の子の声だった。
女の子重たそうに首を動かしハルを見た。
「この人は誰、お医者さん?」
女の子は、ハルの顔をじっと見つめた。その目は幼く、潤んで、揺れていた。
ハルは、女の子から視線をはずすことができなかった。
するとそのとき、
「メグル、ちょっと待っててくれな。」
男の子はそう言うと、ハルに飛びかかり小屋の外へと押し出した。
「ちょっと、どういうつもり。」
ハルは後ろに倒れてしまったが、すぐさま起き上がり男の子に杖を向けた。が、ハルが向けた杖の先に少年の姿はなかった。
ゆっくりと視点を下げるとそこには、土下座をした男の子の姿があった。
「バックを盗んですいませんでした。」
男の子は、小屋の中にいる女の子に声が聞こえないように、少し抑えめの声で言った。
おでこを地面に付け微動だにしない男の子を、ハルは目を丸くして見つめた。
「ちょ、ちょっと。どうしたの急に。」
ハルの声には驚きと焦りがの色が見られる。
「妹が病気なんです。
お金が無いから病院にもいけないし、薬も買えないし、栄養のある物も食べさせてあげれなくって、それで、それで。」
男の子声は、だんだんと小さくなっていき、最後の方はハルにも聞き取るのが難しいほどだった。
ハルは杖をおろし、男の子の肩に手をおいた。
「もういいよ分かったから、落ち着いて。
君の話し、もう少し詳しく聞かせてくれるかな。」
ハルが優しい声で問いかけると、男の子は少し顔を上げ、そして頷いた。




