自分の夢のカフェ、資金がなんとか集まった! 次は……
なぜか、紫晶の夢を応援してくれて、経営の指導をしてくれるイケメン。彼に言われて、紫晶は実家に資金を借りに行ったのだが……
第11話 母の愛と信頼
その夜は父が帰ってきて、いつものようにテレビを見ていた。
紫晶を見ても、「ああ、帰って来たのか」としか言わない。
今までだったら、「父は冷たい」と思っていただろう。
でも、本当はそうじゃない。
娘と共通の会話がなくて、父はただどうしていいかわからないのだ。
(今までは、親にはなんの弱みもないから、何でもできると思っていた……)
だが、本当は親だって戸惑うのだ。それがわかっていなかった。
翌朝、紫晶が家を出ようとすると、英子が呼び止める。
そして、通帳を差し出した。
「これ。あなたのために貯めた結婚資金。300万円あるわ。今の若い人は結婚式もしないって言うから、あなたに渡しとくね。自由に使いなさい」
「えっ……?!」
紫晶は突然涙があふれた。
どうしてわかったんだろう……?!
(私の気持ちなんか、ちっともわかってくれない)
それが、3歳の時からの、紫晶の心の声だった。
それが完全に間違っていることに気づいた。
「お母さん……」
紫晶は思わず、英子の体に近づいて、抱きしめた。いや、抱きしめられようとした。
「ほらほら。化粧、落ちるわよ」
英子は紫晶の体を受け止めて、とんとんと背中を叩いた。
「事業、やりたいんでしょ? あなた、昔から、『いつかカフェ、やるんだ』って言ってたものね。カフェでもなんでもやりなさい。大丈夫。あなたならできるわ! いつもお母さんのこと、手伝ってくれたもんね」
「お母さん!」
(わかってくれていた……)
「お母さん……! 今までごめん……。いじわるばかり言って、ごめんなさい。お母さんの気持ち、全然わかっていなかった……」
「ふふ。いいの、いいの。親は子供のこと、ずっと大切に思っているの。それがわかってくれたら、お母さんは幸せよ」
「う、うん……」
「お母さんは幸せよ」
その言葉が心に残る。
新幹線に乗って帰る間も、その言葉を思い出して、紫晶は何度も涙を拭いた。
(今まで、自分の幸せばかり考えていて、うまくいかないとお母さんのせいにしてた。私は今まで、一度でも「お母さんを幸せにしよう」と思ったことがあったかな……)
「これをしたらお母さん、喜ぶかも」と考えたことはあったが、それは結局、母の評価が欲しかっただけだ。そして、妹よりも自分のほうがかわいいと言ってほしかっただけだ。
純粋に、「母親を幸せにしたい」という気持ちが、今までの自分にはなかったのだ。
そんなことにやっと気づいた。
そして、紫晶は母のくれた通帳を見る。
(300万円……)
そして、涙のにじんだ目で、微笑む。
「ありがとう、お母さん。私、絶対に成功するわ!」
紫晶は改めて決意した。
第12話 事業計画を詰める
紫晶は再び徹を呼び出す。
「資金、母に300万円借りてきました! 自己資金はこれで600万円になりました」
ちょっと得意そうに徹に言った。
「それは上出来ですね!」
徹は素直に喜んでくれる。
「とすると、あと400万円か……」
「う~む」と腕を組んで、一所懸命考えてくれる。
いつの間にかすっかり、紫晶の本物のコンサルのように、真剣に考えてくれるようになった。
(この人、本当に本物の経営コンサルタントなのかしら?)
紫晶はイマイチ、徹の本業がわからない。しかし、スタートアップの知識は豊富なようだ。すらすらと資金計画を言えるのだから。
「少し事業計画を変更したほうがいいでしょう」
「え?! どこを変更するんですか?」
「この水晶ですが……」
徹は紫晶の描いた図のアメシストの位置を指さす。
「これをレンタルにしたとしても、まだ資金が足りません。ですから……」
(これをやめるって言うこと……?)
紫晶はちょっと心配する。
「レンタルじゃなくて、委託販売にしましょう」
「委託販売?」
「ええ。石屋さんの商品をあなたの店に展示する。売れたら販売手数料をもらう。その代わり、展示用の大型カペラは無償で置いてもらうんです」
「そんなこと、できます?」
「先方にもメリットがあります。ホテルに卸しているなら、大型石を一般客に見せるショールームが欲しいはずです。あなたは装飾費を削減できる。先方は販売拠点が増える。客は実物を見て買える。三者とも得です」
「なるほど……。そしたら、レンタル料がなくなり、逆に手数料収入が増えて、家賃が少し浮きますね」
「そういうことです。でも、僕はその石屋さんを知りませんから、これは紫晶さんが自分で交渉しなければいけませんね」
「やってみます! 話をしに行きます!」
「ええ。それから、仕入れのあてはどうなっていますか? コーヒー豆はもちろんのこと、軽食のメニューを考えて、その仕入れをどの程度見込むか」
「あの、私、ぜひ出したいメニューがあるんです」
「へぇ。それはなんですか?」
「ごろりとした大きな肉の塊が入ったシチューと……」
「ほう。それはおいしそうですね」
「それと、3種類のオリジナルサンドイッチを出したいんです。どう思いますか?」
「それはいいですけど、価格と仕入れが合えばいいですが……」
「あの! 今度食べていただけませんか? そして、価格が適正かどうかを見ていただきたいんです!」
「……いいですよ。でも、この店ではできませんね。ここに持ち込みをするわけにはいきませんからね……。かと言って、今は冬ですから、外では寒いし」
「あ、場所ですね……」
紫晶は少し考える。このあたりに、フードコートでもあればいいのだが、……残念ながら、イオンモールはこのあたりにない。
「んん……。このそばに僕の事務所兼自宅のアパートがありますが、そこのラウンジはどうですか?」
「えっ……」
(アパートのラウンジ?)
紫晶もアパートに住んでいるが、アパートにラウンジなんかないのだが……。
(ま、いっか。シェアハウスとかかも?)と思い、返事をする。
「はい。では、お願いします」
徹の住んでいるところって……!!




