徹とデート、もう一度お台場。そこで徹の知り合いにばったりと……
内装、いろいろ削ってなんとか決まりました。……お金がないのはつらい……。
第30話 二度目のお台場
「お金がないって……みじめですね」
打合せが終わって、ふたりで目黒まで歩いて帰りながら、紫晶がボソッと言った。
「いやいや。紫晶さん、かなり勉強になっているでしょ? 優先順位を考えるのは大切なことですよ。お金がないからこそ学べるものです。貴重ですよ」
「そうですか……」
(はあ~……なんでもっとお金を貯めなかったのかしら……)
今までの自分の認識が悔やまれる。
「投資信託、入れていましたか?」と言った徹の言葉が身に染みる。
「まあ、必要なものはきちんと頼めるのですから、大丈夫ですよ」
徹は慰めてくれた。
「あれは、かなり一癖も二癖もありそうなデザイナーでしたね」
「そう思います?」
「ええ。かなり『俺様はできるんだぞ』みたいなやつでしたね」
「はい。まるでサムライみたいでした」
(バッサリ斬られた気分だったわ……)
「まあ、いい仕事をしてくれるでしょう……。でも、紫晶さん、ふたりだけで会わないようにしてくださいね」
「え、なんでですか?」
「あれは、危険な男ですから」
徹が眉根を寄せる。
「え? 危険?」
「紫晶さん、何か言われても、抵抗できないでしょ?」
「はあ……?」
徹が進み出て、竜星の前に立っていた姿を思い出す。
まるで、ふたりの戦いが始まるみたいだった。
(もしかして、嫉妬? 守ってくれてる?)
ちょっと嬉しく思ってしまう。
「あのタイプは、作品を良くするためなら予算を忘れそうです。『これはこうしたほうがいいから、やりましょう』なんて言われても、聞いてはダメですよ。僕に振ってくださいね。僕が交渉しますから」
(なんだ、そういうことか……)
紫晶はちょっとがっくりした。
ふたりのイケメンに争われる女、という勘違いは、一瞬で終わった。
「わかりました……」
「あと90万円は、半分を厨房設備、あと半分を家具でなんとかしましょう」
「はい。家具ですね……。確かに。量が多いですからね」
「家具は中古で良いものをみつけるといいでしょう。一階と二階で違うものでもかまいませんよ」
「そうですね! いつも教えてくださってありがとうございます!」
「あとは、そろそろ店員を募集しないとね」
「あ、そうですね!」
「うん。だんだんゴールが近づきましたね」
「はい!」
予定ではあと2か月でオープンできるのだ。
紫晶は徹と一緒に目黒の住宅地を歩くのが楽しかった。代官山の紫晶のカフェから、徹の目黒駅近くのマンションも、紫晶の住宅街のアパートも、歩ける距離なのだ。紫晶のほうが少し遠い。
「徹さん、見本市にはよくいくって言ってましたよね。次はいつ行くか、予定ありますか?」
「う~ん……来月かな……」
「そうか……」
「なんですか?」
「できたら、また一緒にお台場に行きたいなって思ったんです。ガンダムに会いたいなって……」
「え、本当ですか?!」
徹はすごく嬉しそうに言った。
「はい。徹さん、私がアムロに似てるって言ってたでしょ? 徹さんにとってガンダムは『あきらめない、逃げない』象徴なんだって思ったら、なんだかありがたくなりました」
「いいこと言いますね。だったら、今すぐ行きましょう!」
「え、今すぐ?」
「ええ。東京テレポートはここからすぐですからね。もうすぐライトアップされる時間ですよ。ガンダムのライトアップ、まだ見ていないでしょ?」
「はい!」
「ほら、目黒駅に向かいますよ!」
徹はまるでディズニーリゾートにでも行くような元気さで歩き出した。
たったの30分でお台場に着く。
ふたりはライトアップされたガンダムを見て、レインボーブリッジを見て、アクアシティーのたこ焼きミュージアムのたこ焼きを食べて、夕食にラーメン国技館のラーメンを食べた。
そして、レトロミュージアムを散策する。
「これぞ日本です」
先日までサンフランシスコにいた徹は「うんうん」と頷きながら、満足そうに笑った。
帰る途中、お台場の駅の構内で、徹に誰かが声をかける。
「遠藤さん!」
「えっ」と振り返る。
中年のメガネの男性が徹に近づいてくる。コートの下に背広を着たビジネスマンだ。
徹は少し戸惑っていたが、黙って立ち止まった。
「日本に帰っていらしたんですね。お久しぶりです」
「ああ。お久しぶりです……」
「また、次の番組を……」
徹の少しぎこちないその態度に気づいて、男性はそばに連れの女性がいるのに気づく。
「ああ。お連れがいらっしゃるんですね。失礼しました。……メールしますね。
またお知恵、拝借させてください」
「はい。わかりました。すみません……」
男性は手を振りながら、改札口を出ていった。
それを見送りながら、徹は、サングラスを胸ポケットから取り出す。
「ここ、人が多いですからね。誰に会うか、わかりませんね」
そう言って、サングラスをかけて、紫晶の肩を抱いて、歩くように促す。
「いきましょう」
「はい」
(次の番組……?)
何のことかな?と思いつつも、紫晶は肩に置かれた手が気になって、ちょっと頬を染めていた。
(この人は謎の人……私のナイト)
だから、誰かなんて追及しなくていい。
追及したら会えなくなりそうな気がした。
(あ、でも……)
紫晶はハッとした。
(私のカフェができたら……)
徹の顔を斜め上に見上げる。
(もう私には用がなくなっちゃうのかな……)
そして、寂しさが胸に広がる。
(それはいや……)
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