一回目の交渉は失敗。でも、頭を「徹」にして再度挑戦!
物件も決まり、公庫も出て、さあ、あとはアメシストだ! その交渉はできるのか?
第25話 復活の歌
紫晶は家に帰ると、ずっと考えた。
(徹さんならどうするかしら?)
頭を徹にするのだ。あの顔、あの体格、あの表情。それをまねる。
(あの人なら……)
「紫晶さん、曖昧じゃダメです。ちゃんと数字を出してください。木村さんに儲けがなければ、そりゃあ断られるでしょう。儲けはいくら? いつ元が取れるんですか?」
(そうだ。元が取れる話になっていなかった)
紫晶はまた紙にペンを走らせる。
(ええと……)
石の価格は一台約100万円だが、原価はおそらく半分以下だ。だから、原価は40万円として、8台で320万円としておこう。運搬費込みだ。
(320万円を1年で回収するとしたら、年に3つはカペラが売れないと……)
「うう~ん……」
そして、また徹になって、突っ込みを入れる。
「紫晶さん、間違ってます。それ、売上でしょ? さっき自分で、原価は40万円で計算していましたよね? つまり、3つ売れても粗利は180万円にしかなりませんよ」
(ぐぐぐ……)
「紫晶さん、そもそもが間違っていますよ。石は腐らないって言ったでしょ?」
(そうか。320万円が消えるわけじゃない。売れなければ回収して、また商品として売ればいい。だったら、320万円全部を一年で回収する必要はないんだ)
ふむ、と考え直す。
(問題は、カフェに置いている間にどれだけ利益を生むか。それと、破損や運搬のリスク……)
そのリスクを10%として、20%の利益があればいい。
(年間64万円。月に5万円ちょっと。ということは、月に9万円売れれば、仕入れが40%として粗利で5.4万円の儲け。年間64万円の儲けになる)
「そうか。カペラはあくまでも展示品。実際に売るのが1万円程度の石なら、9人が買ってくれればいい」
これなら可能な気がしてくる。
木村商事が置いていた石の中で、一万円以下のものはあっただろうか?
(前に行ったとき、ライトアップされていた石があったっけ)
そう。それはアメシストではなく、透明のクリスタルだ。クラスタもポイントも、水晶はライトアップするととても美しい。
頭の中の徹が言う。
「紫晶さん、月に9人の水晶の購入者って言いましたけど、その根拠は? 店にはカペラを置いて、どうやってポイント水晶を購入させるんです?」
「ええと……。アメシストのほかに、白い水晶をライトアップして壁面にずらりと並べよう。それなら……」
徹の突っ込みが入る。
「電気の容量、足りますか?」
(うっ……)
だめだ。全部はライトアップできない。だったら、ライトアップを試せる場所を用意して……。
紫晶は内装のデザインを描き直し始める。そして、それに合う絵をAIに何度も何度も描かせ、やっとぴったりのイメージのものを作り上げた。
「うん、これならいける!」
また交渉に行く勇気が出てきた。
そして、ガンダムの歌を思い出した。
「燃え上れ、燃え上れ~」
(うん。きっとこんな歌詞だった)
徹は絶対に、この歌をしょっちゅう歌っているに違いない、と思った。
紫晶は翌々日の休みの日に、また提案書を新しく作って、木村商事に行った。
「先日は大変申し訳ございませんでした。こんどは、御社が利益を得られる構造に設計してまいりましたので、どうか、5分ほどお時間をください!」
「はあ。まあ5分くらいなら……」
木村はしぶしぶテーブルに着く。
「こちらが新しい案でございます。このように、クリスタルを並べまして、これを販売させていただきます。カペラはあくまでも展示品。売るのはこちらの水晶です。
当店の見込み客数は、1日平均140人。月にして、4000人は超えます。ですから、その中で10人のお客様に買っていただいたとしても、月に5万円ちょっとの粗利、年間64万円の粗利があるとお考えください!」
「ふうむ……。前よりかはマシですね。でも、こちらとしては、売れば800万円になる商品ですよ。年に64万円くらいじゃあ……」
「もちろん、もっと売り上げはあると思いますが、ここは最低限にしてあります。あまり利益がないと思われましたら、撤退していただくことも可能です」
(本当は困るけど……)
「ほう? 撤退条件を決めておくのですね?」
「はい。もし、売り上げが月3万円を下回れば……」
紫晶はせっせと熱心に説明した。
まだ木村は乗り気にはなっていない。
(どうやったら、この人の心を動かせるの?!)
紫晶はちょっと焦っていた。
一人で交渉をやり遂げよ! 絶対に成功させる……。
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