初めての交渉はうまくいくのか? アムロの気分を味わう紫晶
物件をみつけた。公庫も申し込んだ。次はアメシストの番。これがなければ、紫晶のカフェじゃない!
第24話 苦難の交渉
渋谷区の融資はまだ決まっていなかったが、紫晶は名刺を作って、目黒通りの石屋を訪れることにした。
「こんにちは……」
紫晶は店のガラス戸を開ける。
「はい。いらっしゃいませ……」
店主が奥から出てくる。
「あ、こんにちは。前にも来てくださいましたね」
「え、ええ。覚えていただいて嬉しいです。あの、今日はちょっとお話したいことが……」
「え?」
店主の表情が少し変わる。
紫晶は自分で作った名刺を出した。
「クリスタル・ハート・カフェ開業準備室 石田 紫晶」
「ほう……。カフェを開業なさるんですか?」
店主はにっこりした。紫晶が客としてやってきたと思ったのだ。そして、小さなテーブルにふたりで座る。
紫晶は店主の名刺をもらう。
「株式会社 木村商事 代表 木村 孝太郎」とある。
「実は私、こういうカフェの開業を計画しているんです」
紫晶は自分で作った提案書を広げる。そこには、AIで描いた店内のイメージ図がある。
1階の8か所にアメシストカペラを置いた内装だ。
「ほう……。これはいいですね」
店主は少し頬を緩める。
「はい。場所は代官山を予定しております。
こちらで石を見せていただき、すごく癒されました。そのとき、お茶をいただいて……。それで、こんなカフェがあったらいいなとずっと考えていて、この度、融資もおりまして、いよいよ計画が進むことになりましたので……」
実際にはまだ公庫の融資しか出ていないから、確実ではないのだが。
「ほう……」
木村は頭の中で計算する。
(大型のカペラが8台。少なく見積もっても800万円か)
「このカペラを購入させていただくには、ちょっとハードルが高いのです。そこで、ご提案なのですが……」
そう言って、資料をめくる。
「うちの店をショールームとお考えいただいて、石を置いていただけないでしょうか。そこで石を見た人が、御社にご連絡いただけるように、石のそばにカードを添えて置くようにいたします」
「えっ?!」
木村は途端に眉をひそめた。
8つの石が売れると思ったら、1円にもならないのだ。
「いや……。それは無理でしょう」
アハハハと木村は笑う。
「8つの大型の石を運ぶ運搬料もかかりますし、第一、カフェに来るお客がこんな高価なものを買うはずはないですし」
「そ、そうでしょうか……」
「ええ、無理ですね」
紫晶は頭が真っ白になる。けんもほろろとはこのことだ。
(ここで話が終わってしまう……)
検討する余地もない、と言った木村の態度に、紫晶はあたふたしている。
「でも、高級住宅街ですから、石に興味を持つ人はいると思うんです……」
「いやいや。しょせん、カフェですよ。高級家具を買いに来た客が、ついでに石を買うことはあるかもしれませんが、カフェでは単価が違いすぎて……。客層が合いませんよ。うちはカフェに置いた分の商品が売り物に使えない、ということになり、大損です」
店主は「ばかばかしい……」と言わんばかりの態度になった。
「そうですか……」
紫晶はこれ以上、考えが浮かばない。立ち上がって、資料を鞄に入れる。
「わかりました。ご提案が甘かったようです。次は、御社に利益があるように考えさせていただきます。出直しますので、もう一度お話をさせてください」
そう言って深々と頭を下げる紫晶に、
「あ、ああ。まあ……」
と店主はそれ以上言えず、帰っていく紫晶を見送った。
(はあ~。……全然だめだった……)
がっかりして、自分がみじめに思えて、頭が止まってしまう。
(でも、……泣いちゃだめだ。私はアムロになるんだから……)
徹が言っていたアムロがどんな性格なのかよく知らなかったが、くじけない主人公というのはわかる。
とぼとぼと歩きながら、崩れそうになる心を「立ち上がれ、立ち上がれ~」と励ます。
うっすらと、そんな歌だった気がした。
(アメシストを置くカフェ、無理なの?)
せっかくその企画で融資が下りたのに、肝心のアメシストが置けない。
そしたら、どこにでもあるただのカフェだ。競争力が足りない。
なんとか手はないかと考える。
(う~ん。レンタルをお願いするしかないかな……)
悔し涙が出そうになる。
「立ち上がれ~、立ち上がれ……」
むなしくなりながらも、心の中では自分を励ました。
一度や二度、断られてもまた立ち上がる根性を持て……。でも、難しい……。
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