徹が紫晶に初めて会ったのは……
ふたりでカフェの物件探し。気に入った物件がみつかり、ほっとするふたり……。
第21話 徹と指輪
「あの……。聞くのが怖いんですけど……」
紫晶は代官山の駅近くの小さなレストランで、徹にお礼の夕食をごちそうする。
「なんですか?」
徹は機嫌がいい。
「今なら何でも聞いていいですよ。夕食、おいしかったです」
徹は食後の紅茶を飲んでいる。
「あの……。徹さん、スタートアップの指導がお仕事なんですよね?」
「ま、そんなとこですね」
「でも……。私には無料で教えてくださっているでしょ? 私もお支払いすべきですよね?」
「アハッ」と徹は笑った。
「いいえ。僕はスタートアップの指導はしていますけど、それでお金をもらうことはないですよ。だから、気にしないでください。それに、僕は紫晶さんに頼まれたわけじゃない。勝手に口を出しているだけなので」
紫晶は目を見開いた。
「でも、どうして教えてくださるんですか?」
徹は目を細めて、ニヤリと笑う。
よくぞ聞いてくれた、という意味にも見える。
「アムロ・レイって知ってますか?」
「ええと……。ガンダムの主人公?」
「そう。初代ガンダムのね。アムロって、最初から勇敢な英雄じゃないんですよ。内向的で、怖がるし、逃げたくなる。でも、追い込まれながら少しずつ自分で戦うようになる」
「はあ……」
「事業を始めるのは、その戦いに似ています。借金を背負うのは命を懸けるくらい怖いことなんです。でも、その怖さを克服して戦うんですよ。
明日、利益が出るかどうかわからない。最終的に勝つか負けるかわからない。
それでも進むんです。それがスタートアップをしようとする人たちです。……アムロみたいでしょ?」
「はあ……」
紫晶は頭にハテナマークが浮かぶ。
(それと私と、どういう関係が……)
「紫晶さんは、僕が最初見たとき、そのアムロにちょっと似てました」
「えっ?」
(ど、どこが……)
「はて?」というふうに首を傾ける。
「僕、紫晶さんを見たのは、最初に声をかけたあの日が初めてじゃありませんよ」
「えっ?」
「あの日、紫晶さんはせっせと未来の計画を立てていましたよね。『スタートアップの計画を立ててるな』って見ていたんです。そしたら、指輪が目に入った。
『どこかで見たな』って思ったんです。
それで思い出しました。その数か月前、僕があのカフェに行ったとき、コーヒーカップを持ったまま、涙をポトンと落としている人を見ました。顔は見えませんでしたが、その指にはアメシストの指輪があって、ちょっと特徴あるデザインだったので覚えていて……」
徹は顎を動かして、紫晶の指輪を示した。
「えっ?!」
「姿は全く覚えていなかったんですけど、『ああ、あのとき泣いていた人なんだ』って思ったら、興味が湧いてきて……。
あの日、泣いていたのに、今は未来のための計画を立てている。
僕は未来のためにひたむきに頑張る人を応援したいんですよ」
「えっ?!」
紫晶は何度も驚いた表情で、言葉が続かない。
「あ、すみません。これは僕の勝手な感想ですから、気にしないでください。ただ、僕は僕で楽しんでいる、と思っていただいたらいいと思います」
徹は照れ笑いをして頭をかいた。
「はあ……。そうなんですね……」
紫晶はゆっくりと頭を下げた。
「とにかく、いろいろと教えていただき、ありがとうございます。とても感謝しています」
「ええ。気にしないでください。僕も仕事とは思っていないので、忙しいときはほったらかしです。それで楽しんでいますから」
「はい」
紫晶は顔を上げてちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「紫晶さん、次はいよいよ事業計画ですよ。それを銀行に提出し、融資を申し込むときです」
「は、はい! 頑張ります!」
次は、最大の難関、公庫融資の面接。
別作品も同時連載中。よかったら、ぜひ読んでください!
MBA令嬢の異世界改革――― 交易と流通で王国を侵略から守ります ――
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