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ダンジョン動画

 千寿が投稿した動画は二十四時間で百万インプレッションを獲得した。


「万バズきたぁ!」


 翌朝、爆発している通知の数を見た千寿はガッツポーズと共に起き上がった。登録者数も大幅に上昇し収益化も可能な領域へと入ってくる。


「ようやく俺も万バズ投稿者か」


 喜びの余韻に浸る千寿だったが、この機会を逃してはいけないと動画を撮影して編集しまくる。自分のページが熱々なうちに多くの人へオカルトの面白さを伝えるチャンスだと。

 そう張り切って、休みを丸一日使って新たな動画を三本投稿した。千寿が怖い話を語る怪談動画だ。この動画も以前に比べれば再数が回ったが、低評価が多くつきコメントでも否定的なものが多くついた。


「なんでじゃい!」

 動画の評価を見た千寿はスマホを枕に叩きつけた。丹精込めて作った自分のオカルト動画が酷評されている事実に腹を立て不貞腐れながら、動画に寄せられたコメントを確認する。


「ダンジョン動画じゃないならみないわ」「今時オカルトとか笑」「何でバズったか分かってない。こいつSNSの運用下手すぎ」「つまんない。寒い」などなど。


 もちろん、オカルトが好きでありながら今まで千寿の動画に辿り着かなかった層の目についたこともあり、肯定的なコメントもちらほらとある。


「ダンジョン! やっぱりダンジョンなのか」

 ダンジョンが発生してからというもの、動画投稿サイトのメインコンテンツはダンジョン関連か、戦闘指南動画となっている。


 そもそもダンジョン探索はかなり金が稼げるため、今や人気職業堂々の一位の座に君臨している。低階層であれば趣味程度の活動でも安全にスキルを獲得できるため、その手軽さも相まっているのだろう。


「くそ……」


 オカルトの面白さをみんなに知ってもらいたいというのに、このまま動画投稿を続ければ評価が下がり視聴率も落ちていく未来が目に見えている。それだけは避けたい千寿はプライドを捨てることを決めた。


「ダンジョンを利用してオカルト動画を作る」


 世の需要がダンジョンだというのなら、それに応えつつオカルトを交えようと。千寿は授業の合間を縫ってダンジョン探索の準備を整えた。ダンジョン関連の都市伝説も調べたり、撮影機材を購入したりと大忙しだ。


 バズは鮮度が命。視聴者たちの興味が薄れる前に新たな動画を用意しなければならない。

 そうして一週間が経ち再び週末がやってきた。食糧や簡易の寝袋などをリュックに詰め込み、キャンパーのような装備でダンジョンへと挑む。


「どうもアリマックスです! 今日はダンジョンに潜む謎! 都市伝説を解き明かしていきます!」


 ダンジョンの入り口でハンディカムに向けて一人喋る千寿。しかし、昨今のダンジョンブームにおいてはさして珍しい光景でもなく、周りの探索者は素通りしていく。

 休日ともなると、副業や趣味でやっている探索者の出入りがあり一階層やダンジョン上のロビーなどにはたくさんの人がいた。


 オープニングを撮り終えた千寿はカメラの電源を落として他の探索者たちと同じくダンジョンへと侵入した。

 いつどこに行く時も千寿の周りには幽霊たちが付き従っているが、やはり他の人間にはまるで見えていない。見えてしまうと大騒ぎになることは間違いないため、千寿は嬉しいような寂しいような気持ちを抱く。


 ダンジョンへと足を踏み入れた千寿は、ダンジョン庁が公開しているマップをスマホに表示しながら行く。今日探索に来ているのは以前廻たちと潜った文京区ダンジョンだ。四階層までの道順は覚えているが、そこから先は未知。電波も繋がらないため、事前にダウンロードしたPDFファイルにて確認する。この地図を持っていくのと行かないのとでは、生存率に大きく関わるため、ダンジョンの受付では毎回説明がされる。


 道すがら幽霊たちにモンスターを駆除させながら順調に階層を降りていく千寿。三階層からはドッグウルフという犬以上狼未満といったモンスターが出現し、四階層からはスケルトンが出現する。


 ダンジョンの謎に、各階層で出現するようになるモンスターは、出現階層よりも上にいくことはないというものがあり、その情報が探索者に一定の精神的余裕を与えている。つまり、スケルトンに追われても三階層まで逃げてしまえば振り切れるということだ。

 と言っても、千寿の幽霊たちにかかれば四階層以下のモンスターも大して変わりはないが。


「結構いいペースで来たな」

 千寿がダンジョンに潜り始めてから一時間と少し。五階層へと続く下り坂までやってきた千寿は時計を確認しながら小休止を挟んだ。


「あれ? 有麻君?」

「あ……」


 坂の手前で座って一息ついていた千寿に一人の探索者──星野廻が声をかけてきた。


「ビギナーがソロで五階層ですか〜。しかもそんな軽装で」

 廻は武器も持たずに休んでいる千寿を見て、嫌味の上司のような口調で話す。


「え、すみません」

「冗談だよ! 有麻君の実力はこの前見せてもらったからね!」

「なんだ」


 廻の装備に目を向けると、千寿と同じように大きなバックパックを背負い長時間のダンジョン探索に来てているようだった。


「今日は一人なんですね」

「まあね〜。レベリングするだけだから」

「レベリングでその装備。気合い入ってますね」

「私くらいになると、レベリングするのにも結構深くまで潜らないと効率悪いからさ」

「なるほど」


 今日の廻は前回と違い装備の量が増えている。胴、頭、関節以外にも脛や腕を覆うプロテクターを着け、バックパックのサイドには小盾も備えられている。武器は変わらず直剣で、今は左側に佩いている。


「でも有麻君が先を歩いていたからか〜」

「何がですか?」

「モンスターが少なすぎると思ってたんだよ」

「あー」


 ダンジョンではよくあることで先行しているパーティと間隔を空けずに追従すると、モンスターが倒されてしまい全くエンカウントしなくなる。それを利用して序盤を温存するという方法もあるが、無断でやるのは推奨されていない。利用されているパーティも気分が良くないからだ。


「先輩は──」

「廻でいいよ?」

「あー、じゃあ廻先輩は、今日はどこまで潜るんですか?」


 呼び方を指摘された千寿は訂正しながら廻の目的を問う。


「私は十階層のボスモンスター討伐」

「おー」


 ダンジョンの各階層にはボス格モンスターというものが存在する。それらは階層内を

徘徊していることもあれば、一定の広間で待ち構えていることもある。ボス格モンスターはその階層で出現するモンスターの同系統種であることがほとんどだ。例えば、一階層ではちょっと強いスライムが出現する。ボス格と呼ばれているのは、ダンジョンの最下層に存在しているボスと比較するためである。


「そこまで一人で行けるんですか? 前に、ソロで通用するのは五階層前後までって言ってませんでした?」


 以前受けたダンジョン豆知識講座で廻が言っていたことを思い出した千寿は疑問を口にするが、廻は自信満々の表情で鼻を伸ばしながらドヤ顔を浮かべた。


「そこは経験ですよ! 順当にレベルアップして行った場合は五階層前後で苦しくなってくるんだけど、パーティとかで一度深く潜って下層を経験すると、レベルが上がっているっていうのもあるけど、十階前後まではソロで行けるようになるよ」

「なるほど」

「もちろん、そこはスキルの運とセンスも必要になってくるけどね」


 何事にも例外はあるのだと、千寿は自分自身を棚に上げながら感心する。


「有麻君はどこまで行くの?」

「俺も、十階を目指してました」

「わぁお、チャレンジャーだねぇ」


 ドラゴンを討伐した千寿の使い魔の実力を知っている廻は驚きつつも止めたりはしない。普通であれば素人〈スキルなし〉から二週間弱しか経っていない新人がソロで十階層を目指すと言えば、間違いなく止められる。しかし、


「初めてだらけだと予想もしない危険があるかもしれないから、良かったら一緒に行く?」

「いいんですか?」


 優しく先輩らしい提案をしてくる廻に千寿は遠慮しながら聞いた。


「いいのいいの! むしろ、十階層まで体力温存できてラッキーって感じ」

「なるほど」


 廻の言い分を聞いた千寿は苦笑いを浮かべながら納得した。十階層までは二人で臨時のパーティを組み、戦闘の負担を下げようというわけだ。得られる経験値は半減してしまうが、レベリングが目的ではない千寿は快く承諾する。


「十階層まで、廻先輩の出番はないと思いますよ」

「超大型ルーキーは言うことが違うね〜」

「なんですかそれ」

「え? 知らない? 今有麻君って探索者界隈で有名だよ。この前の動画めっちゃバズってたじゃん」

「えっ!? 見たんですか!?」

「そりゃあ、あんだけバズってたらねぇ」


 廻からもたらされた情報に千寿は唖然とする。自分が所属していない探索者界隈なるコミュニティーで有名になっていると言う事態を知り、そりゃあオカルト動画が伸びないわけだと合点がいった。


「有麻君がアリマックスだってことはまだバレてないと思うけど、ダンジョンの入り口で撮影するのはやめた方がいいよ?」

「それも見てたんですか……っていうか、最初から尾けてますよね!?」

「あっ」


 廻はわざとらしくハッとした表情をして「バレっちゃった」と、テヘヘと笑って誤魔化した。


「まあ、ご忠告ありがとうございます」


 自分の知名度というものを改めて気にする千寿は廻に礼を言いながら立ち上がる。この場に二分と留まっていなかったが、ガシャガシャと音を立てる骸が二人目掛けてやってきた所だ。


(呪殺)


 千寿は幽霊たちに命じるまでもなく、スキルでスケルトンを始末した。突然ガラガラと音を立てながらその場に倒れ込むスケルトンを見て廻は顔を引き攣らせていた。使い魔による攻撃のグロさよりも、こういった認知しない間にやられていることの方がよほど怖いと、廻は改めて千寿の異常性を理解する。


「行きましょうか」

「頼りになりすぎるね〜」


 もはや高位レベル探索者の余裕と風格を醸し出す千寿を見て、廻はヒューと唇を吹いた。そうして二人は五階層へと下っていった。


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