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動画投稿

 廻たちとのダンジョンハイキングを行った翌日。大学は休みであり、昼過ぎに目覚めた千寿はダンジョン庁からの連絡を受け取ると、支度をして庁舎へと向かった。内容はダンジョン踏破に関する諸々の精算が終わったとのことだ。

 前回同様の会議室に通された千寿の元に臼井がやってくる。


「お疲れ様です。わざわざ来ていただいてすみません」

「いえ、どうせ暇だったんで」


 臼井は丁寧な所作でお辞儀をしながら席に着くと、パソコンを開いて千寿にも見えるように机の真ん中へ置いた。


「早速ですが、今回のダンジョン関連のお話です」

「はい」

「板橋区大山ダンジョンと名称は仮に決めさせていただきました。以後大山ダンジョンと呼ばせていただきます」


 事務的に淡々と話す臼井がまるで契約書が擬人化したかのように堅苦しく、千寿は内心で笑ってしまう。


「本日お越しいただいたのは、大山ダンジョンに関する情報・素材提供及び権利帰属に関する同意書。それから、探索報告書の事実確認と証明。それと、報酬の金額が確定したためそちらの報告です」

「おお!」


 最後の一言に千寿は目を輝かせる。一時金は生活費として出されていたが、とうとうダンジョン関連の報酬が決定したことに、貧乏学生としては待ちきれない。


「報酬は最後です。まずはこちらをご確認ください」

「はい」


 千寿の機微を見抜いた臼井から冷静に落ち着くよう諭され一呼吸おいた。それから臼井が差し出した書類に目を通していく。

 内容はダンジョンから帰還した直後に聞き取りをされた内容がようやくしてまとめられたダンジョン探索報告書だった。本来は探索者が必要に応じて提出する書類だが、以前にここへ来た時点で千寿は探索者ではなかったため、代理で作成されたようだ。


 内容に齟齬がないことを確認した千寿は手渡されたボールペンで署名をして報告書を提出。

 もう一つは今回のダンジョン探索で得たモンスターの情報・素材は国が買い取り、優先的に利用されるというものだ。この書類にサインすれば、モンスターの素材は国が研究、保存、処分を行うことになり、また情報公開に関しても一定期間の制限が発生する。


「この、一定期間ってどれくらいですか?」

「原則として、初期評価完了までの六ヶ月ほどを非公開期間としています」

「分かりました」


 ダンジョン内で得た動画について特に執着していない千寿はなんの躊躇いもなく権利帰属書類にも署名をした。千寿がなりたいのはダンジョン探索者でも探索動画投稿者でもなく、オカルト動画投稿者だからだ。


「じゃあ、報酬の方をお願いします!」

「……分かりました」


 こういった契約書類をきちんと読まない若者な千寿に、若干の呆れを抱きつつ臼井はパソコン画面を切り替える。


「こちらが今回のダンジョンに関する報酬の総額と内訳です。一応紙でも」

 臼井は言いながらパソコン画面をプリントしたものも差し出してきた。


「一、十、百、千……ゼロ何個ですか?」

「九個です」

「つまり?」

「二十億円です」

「……にじゅう、おく?」


 意味の分からない桁数に千寿の脳がフリーズした。

 ダンジョンの踏破や新種モンスターの発見もさることながら、ドラゴンの素材価格が金額の半分以上を占めている。な二よりも、ドラゴンが心臓麻痺で死んでいることにより外傷が全くないことで、素材の価値が計り知れないほどになっている。

 という臼井の説明は千寿の耳には届いていない。


「有麻さん! 聞いてますか!?」

「ファっ!?」


 臼井の手が顔の前で振られようやく正気を取り戻した千寿。しかし、二十億の衝撃はそう簡単に収まるものではなく浮き足立っている。


「税金のこともありますし、まずは親御さんに連絡されることをお勧めします。入金先口座情報などについては追って連絡いたしますので、忘れないようにお願いします」

「あぁ、はい」


 千寿は報酬金額の内訳がまとめられた紙を鞄にしまい立ち上がると、上の空のまま会議室を後にした。


「あの子、大丈夫か?」

 臼井の心配するような呟きが会議室を出て行った千寿には届かなかった。



 千寿はまず初めに二十億の使い道について考えるため、父親に電話をした。


『千寿! お前、安否連絡くらい電話でしろ! 父さんと母さんがどれだけ心配したと思ってるんだ! ラインで一言だけ「無事です」なんて送りやがって!』

「あああ! ごめんごめん! それはごめんて!」


 家に帰り父へ電話をかけると、開口一番に怒鳴り声がスピーカーホンから雷のように降り注いだ。


 千寿のアパートがダンジョンに巻き込まれたのは深夜であり、両親は爆睡中でニュースに気がつかなった上に、ダンジョン発生から一時間と少しで千寿の無事が確認されたため、両親への連絡は千寿本人が行なっていた。


 それがラインでの一文だけだったことに千寿の父、有麻ありま 幸一郎こういちろうは怒り心頭で、その日のうちに長文のお叱りラインを送りつけていた。


『無事だったから良かったものの……』

「その件はもう、ほんとごめんなさい。今日はそんなことはどうでもいいんだよ」

『どうでもいいってお前……』


 千寿の態度に呆れて、もはや怒る気もなくなったのか幸一郎は電話の先でため息をこぼしている。


「そんなことより父さん、俺二十億稼いじゃった」

『……は?』


 千寿の報告に幸一郎は意味が分からないといった反応を示す。ポカンと口を開けているに違いないと察した千寿は、追い打ちをかけるようにダンジョン庁で受け取った書類の画像を幸一郎へ送りつけた。


「俺がダンジョンを踏破したことに関する報酬だって」

『おま、マジじゃん……』


 送られてきた画像を見た幸一郎は言葉を失っていた。だが、一人で先に心の整理をつけた千寿はサクサクと話を進める。


「俺、税金関係のことわからないから父さんに任せる。税理士だし大丈夫でしょ?」

『大丈夫でしょ? じゃねえわバカ! バカバカバカ! マジかよ! なんだこれ!』


 電話越しでも幸一郎の慌てぶりが手に取るように伝わり千寿はにやけた笑みを浮かべる。


「心配かけた詫びってことで、今度美味いもんでも食べに行こうよ。もちろん俺の奢りで!」

『お前なあ。言っとくけど二十億全部使えるわけじゃないからな?』

「それくらいは分かってるよ! まあ、半分持ってかれても十億でしょ? 残りの人生遊んで暮らせるじゃん」


 能天気に考えている楽観的な千寿の返答を聞いた幸一郎は、なぜこんなにもアホに育ってしまったのかと自身の額を叩いた。


『とりあえず、次の休みに実家こっち帰ってこい』

「了解」


 幸一郎との電話を終えた千寿は晴々とした気持ちで布団に寝転がる。自分の手元には金が入り、面倒な手続きは税理士の父に丸投げ。なんていい身分なんだと気楽に考えにやけ顔が止まらない。


 実際には、実家に戻った際に手続き関係のあれこれを幸一郎から叩き込まれることになるのだが、この時の千寿はまだ知らない。

 千寿は億を超える金を使って次はどんな呪物を買おうかとネットを漁るが、そこで思い出した。


「動画投稿しないと」

 オカルト動画投稿者として、自身のチャンネルに三百人ほどの登録者を持つ千寿は、スキルによって幽霊が見えるようになったことを動画化しようと考えるが、


「あー、ダンジョン内の動画は勝手に公開しちゃいけないんだった」

 撮影した動画を見返しながら先ほど交わした権利帰属に関する内容を思い出し手を止める。


「どうしようかなー」

 撮影した動画と言っても、撮っていたのは部屋の中だけであり、家から出た後は撮影しながら進む余裕はなかった。


「流石に勝手に出すのはまずいよな」


 動画の公開は思い留まった千寿はそのままの投稿は諦めカメラをセッティングする。百均で買ってきた三脚にスマホをつけただけの簡素なもので、背景も仮設住宅の真っ白な無垢壁だ。

 呪いの仮面を装着した状態でカメラの前に座りいつも通りの挨拶から。


「どうもアリマックスです! 今日は先日発生したダンジョン災害について、オカルトを交えて話していきたいと思います!」


 千寿はダンジョンで自身の身に起こったことを大事なところはぼかしつつも臨場的に語った。そして最後には呪物の情報提供を呼びかけ動画を締めくくる。こうして撮影した動画は見やすい尺に編集して動画投稿サイトへオン!


「ふいー」

 撮影から編集投稿までに三時間ほど費やした千寿は満足げに息を漏らした。

読んでいただきありがとうございます!

まだまだ続きますが、ぜひ感想をいただけますと嬉しく思います^^

お気軽にコメントよろしくお願いいたします!!

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