新種
廻たちに情報が届く、約二時間前。ダンジョン十五階層にて、大河たちレッドフォックスが護衛するチームはゴーレムを相手にレベリングを行っていた。
「秋原先輩! レベルが上がりました!」
「おー、良かったじゃねえか」
大河はサークル内で廻に次ぐ実力者であり、後輩たちからも慕われている。見た目は少し不良っぽく目つきも悪いが、人相に反して面倒見が良い。千寿への態度が嘘のように優しく後輩たちへ接していた。
「ゴーレムも冷静に対処すれば、お前たち五人でも十分通用するだろ」
「はい!」
ゴーレムは基本単体で行動しているため、不用意にモンスターを寄せ集めなければ安全に対処が可能である。経験値量も上層とは比べ物にならないほど豊富で、レベリングの効率も良い。ソロで来られないことと、移動時間がかかりすぎる点がネックではあるが。
朝からノンストップで十五階層までやってきたが、まだまだ疲労の色が見えないメンバーたちはやる気に満ち溢れていた。レベルが上がる瞬間はそれだけで人のモチベーションを持ち上げる。
「っ!? 何か来るぞ!」
と、楽しげなムードのメンバーたちへ大河が喝を入れた。彼の気配察知に三つの反応が引っ掛かり警戒を強める。群れることのないゴーレムが三体同時。であれば即時撤退もし視野に入れ通路の先に目を凝らした。
通路の先から軽い足音と岩が壁を打つような激しい音が混じって聞こえてくる。
「探索者だ!」
通路の角から三人組の探索者現れ大河が叫んだ。探索者たちの背後からは三体のゴーレムが巨体を振り乱しながら追いかけてきている。
「坂! 援護だ!」
逃げる探索者たちとすれ違い大河がゴーレムと対峙する。その後ろから坂が魔法スキルで援護、もう一人のメンバーも大河と共に前へ躍り出た。
「すまねえ! 俺たちも戦う!」
「当たり前だろ!」
逃げてきた探索者のうち、大柄な男が背負っていた仲間を下ろし謝りながら戦列に加わると、坂はキレながら返した。
「複数体のモンスターと対峙する時は、敵を分断しなきゃいけない。前衛は大河たちの援護を!」
護衛対象である後輩たちに坂が指示を出し前衛に人数をかける。ゴーレムの攻撃は一撃が重いため、複数体に囲まれれば大河とてひとたまりもない上、一人で一体を抑えきることも至難の業だ。
「大河さん!」
「俺は奥のボスを叩く! 行くぞ!」
三体のゴーレムのうち二体は通常個体であるが、最後尾に構えていた個体がこの階層のボス格モンスター、ジャイアントゴーレムであった。通常ゴーレムですら三メートルほどの身長であるが、ジャイアントはそれよりも頭一つ分でかい。
後輩たちでは荷が重いと判断した大河はジャイアントを引き受け、通常ゴーレムを躱し前に出る。
「おらぁ!」
大河は自身の獲物である大戦斧を抜くと、大きく振りかぶってジャイアントへ叩きつけた。
ゴウン! と音がすると共にジャイアントの肩ががくりと落ちる。
「ちっ、硬すぎだろ」
強い衝撃を与えたにも関わらず、ジャイアントの片膝をつかせることもできず大河は半ギレになりながら距離を取る。
チラリと後ろを一瞥すると、レッドフォックスのメンバーと後輩たち、それからトレインを押し付けてきた探索者が協力して二体のゴーレムを抑えている。
「あっちは大丈夫そうだな」
同じチームの坂たちとは三人だけであっても十五階層を踏破できるため、大河は全く不安を感じていなかった。ジャイアントを牽制しつつ、二体のゴーレムが撃破されたのち全員でジャイアントを討伐。無理のない計画であるかに見えたが、ここで大河の予想が外れる出来事が起こった。
「ゴォ……」
「なんだあいつ?」
モンスターたちがやってきた通路からもう一体のゴーレムが現れたのだが、通常のゴーレムともジャイアントとも違う見た目をしている。そのゴーレム、大きさは通常個体と同じ程度だが、胸の中心に赤い宝石を埋め込み、そこから刺青のように赤い光が体中に走っている。
「大河さん! ゴーレム仕留めました!」
「お前ら全員下がれ!」
新ゴーレム登場とほぼ同じタイミングで坂たちが二体のゴーレムを討伐した。大河は予定を変更し、ジャイアントに一撃を入れ怯ませてからメンバーたちと合流する。
「撤退だ。変な奴が現れた!」
大河は未知のジャイアントとは対峙せず即座に判断を下した。幸い、ゴーレムの速度はそこまで速くない。怪我人を連れている探索者もいるが、それでも全員で協力すれば逃げ切れると大河は踏んでいる。
「走れ!」
大河の号令で全員が一斉に走り出す。
膝を攻撃され体勢を崩しているジャイアントはまだ走り出せない。その後ろにいる新種もすぐには追いかけられないだろう。殿を務める大河は二体を警戒しながら走る。
「──あ?」
後ろを振り返った大河は驚愕の光景を目にしてギョッとする。
「止まれ!」
大河はほぼ反射的に号令をかけ部隊を制止した。次の瞬間、全員の頭上を巨大な岩塊が通過し進行方向に着弾した。
「うわっ!?」
床が揺れるほどの衝撃と土埃が舞う中、意味の分からない光景を目撃した大河の思考は麻痺していた。
「なんだ今の……」
大河たちの背後では新種のゴーレムが腕を振り切った姿勢で止まっていった。そこにジャイアントの姿はなく、首を前へと向ける。新種が投げた岩の塊は、ただの岩ではなくジャイアントだったのだ。
進路を塞ぐように倒れているジャイアントがのそりと徐に立ち上がる。
「お前ら、走れ! ジャイアントは無視だ!」
状況を理解した大河が再び号令をかけ全員を走らせる。ジャイアントはまだ体勢を立て直しておらず、通り抜けるには今しかない。ここを逃せば挟み撃ちだ。
順順にジャイアントの足を飛び越え通路を駆け抜けていく。だが、
「ゴオ!」
「ち……」
立ち上がりかけたジャイアントの胸の下を大河が通り抜けようとすると、ジャイアントが腕を振りその進路を妨害した。
「大河さん!?」
「いいから行け! 地上で合流だ!」
「くっ……」
坂が心配するように叫ぶが、大河は勝気に笑って先を急がせる。この場に全員で留まっても生存の可能性は低い。通常のゴーレムも徘徊するダンジョンでジャイアントと新種を引き連れ回すのは無謀だ。
そう判断した大河は前後を警戒する。新種の力は未知数だが、ジャイアントの巨体をぶん投げたところを見るに、パワーはジャイアント並みにあると推測が立つ。
「ジャイアントの単独討伐でも厳しいのによお、クソが」
大河は大戦斧を構えジャイアントの方へと駆ける。新種の力量が分からない以上、迂闊に手は出せない。それに、十五階層の出口はジャイアント側にある。倒すことは出来ずとも、通り抜ける隙さえ作ってしまえば逃げられる。
「どけぇ!」
ジャイアントの拳が大河の頭目掛けて振り下ろされるが、それを戦斧でいなしてジャイアントの懐へ体を潜り込ませると、そのまま跳躍してジャイアントの顎へ戦斧を叩き込んだ。
ガン! と硬い衝撃が大河の手に伝わりジャイアントは首を上に向ける。普通の生き物であれば脳震盪を起こすような衝撃だが、ジャイアントには致命傷になり得なかった。
「だあ! 面倒くせえ」
ジャイアントはその場を微動だにせず、ひたすら大河の進路を妨害することを徹底している。その間に新種が駆け出しており、大河は挟み撃ちに遭う。
「はやっ!?」
新種のゴーレムは通常個体の倍近い速さで駆けてきた。咄嗟に身を翻して新種からのパンチを躱すと、その拳は勢い余ってジャイアントの胸を打ち砕いた。
「マジかよ」
ゴーレムの中でも一際頑丈なジャイアントの体に罅を入れるほどの攻撃に大河は目を見張る。二体のゴーレムに挟まれ、俎上の魚となった大河は首を振り両方を視界に捉え構えた。
次の瞬間、ゴーレムたちによる嵐のような打撃ラッシュが降り注ぐ。ゴーレムたちは小さな人間を圧死させるべく拳をひたすら叩きつけた。
まるで隕石のようにダンジョンの床を殴るゴーレムの腕を、大河は疾走のスキルで自身の速度を上げなんとか躱す。だが、その攻防も長くは続かない。
衝撃によりダンジョンが破壊され地面から土埃が舞い上がり視界が悪くなると、途端に大河の部が悪くなる。ゴーレムたちは見えずとも、でかい腕を振り下ろし続け当たるのを祈っていればいいが、大河は一撃を喰らっただけでも致命傷になりえる。
「ゴア……」
と、土煙によって大河の姿見えなくなる中、新種のゴーレムが手応えを感じ、その一点を執拗に殴り始めた。瀑布の間近にいるような破砕音がダンジョンに響き渡り数秒。新種は手を止め煙が晴れるのを待った。
すると、先程まで拳が降り注いでいた場所には大河の戦斧のみが残され、その姿はどこにも残されていなかった。
「あぶねえな」
当の本人は既に二体の包囲を突破しその場から逃げ仰せた。




