十階層ボスモンスター
「あれが十階層のボスモンスター、ボーンジェネラルだよ」
廻は広間の中央で直立不動のモンスターを指差す。サッカーコートほどの広さがある大きな空間の中心には、身長が二メートルと少しほどあるスケルトンが立っていた。手には大きな西欧槍を持ち、ただじっと広間の入り口を見つめている。
「なんか、雰囲気が違いますね」
千寿は広間を見た印象をポツリと呟いた。それもそのはずで、ボス部屋の壁面は人工物のような石壁となっており、床もただの洞窟から石畳へと変わっていた。
「有麻君。ここまでありがとうね。かなり負担が軽くなったよ」
「いえいえ」
「この後どうする? 有麻君も十階層に目的があって来たんでしょ?」
「そうですね。じゃあ、一旦別行動しますか」
千寿は十階層に動画を撮りに来たのだ。それに、廻はボスモンスターでレベリングをしに来ているため、ここから動くことはないだろう。
「あー、一回だけボスモンスターとの戦闘、見てってもいいですか? 手は出さないんで」
「全然いいよ!」
ボスモンスターの動きと、廻単体での戦い方に興味が湧いた千寿がそう申し出ると、廻は即応で了承した。
「じゃあ、見てて。十分くらいで終わらせるから」
廻はそう言いながら、荷物を下ろして広間へと足を踏み入れる。千寿は邪魔にならないよう通路で待機しつつ、幽霊たちにもその場を動かないよう命じた。
「身体強化」
廻はスキルで自身の肉体にバフをかける。
ジェネラルは広間へと侵入してきた部外者を見据えその不動を解いた。骨と鎧がぶつかりガシャリと音を立て、ジェネラルが手に持った重槍を構える。
「かかってきなさい」
廻は人差し指を上に向けひょいと動かしジェネラルを挑発した。スケルトンにも感情のようなものはあるのか、その行動に反応してジェネラルが駆け出す。
廻はその場でステップを踏みながらジェネラルの攻撃を待ち構えている。手には盾と剣が握られており、迎撃の準備は万端だ。
ジェネラルは自分の身丈ほどある西欧風の槍を脇に抱え突進してくる。円錐形の槍は穂先に廻を捉え凄まじい速さで迫る。
「っ!」
声にならない気迫が廻の口から漏れると同時、両者が接触。槍による突きを、廻は左手の盾で華麗に受け流した。大きな得物を持つジェネラルは右腕が伸び切り隙が生まれるが、廻はカウンターを放たずジェネラルの次撃を待った。
「……カ」
言葉を発さないジェネラルは歯をカタカタと鳴らしながら槍を引き戻し連続の突きを放つ。驟雨の如く乱れ打たれる槍を、廻は正確な盾捌きでいなしていく。
「……カ」
弄ばれているように感じたのか、苛立ちを見せるジェネラルは突きによる攻撃から薙ぎ払いに転じ廻を後退させた。
「いい感じ」
ジェネラルの猛攻を受け切った廻は汗一つかかず余裕の笑みを浮かべている。
「時間はまだまだあるよ! どんどん来い!」
廻は左手の腕時計を一瞬確認してから再びジェネラルを挑発する。もはやジェネラルの攻撃が廻に通用するとは思えないが、自身のテリトリーを侵している異物をダンジョンのモンスターは許すことができない。廻がこの部屋を出ていくか、ジェネラルが倒されるかしかこの戦闘を終わらせることはできない。
「カッ!」
このままでは勝てないと悟ったジェネラルは槍の石突で地面を叩いた。すると、足元の石畳を砕きながら新たなモンスターが生まれた。ボーンナイトの群れがジェネラルを守るように地面から這い出ると同時に、ジェネラルの足元からはスケルトンの馬が出現し、その背中にジェネラルを乗せる。
ジェネラルの第二形態のようなものだ。騎馬となったジェネラルはボーンナイトたちに支持を飛ばすように槍を掲げる。それに従う群れ──十体のナイトたちが廻を狙い駆け出した。
ジェネラル自身も槍を脇に構え突進する。同じ攻撃だが、槍の降る高さが違い、さらにはナイトたちの邪魔も入る。だが、廻は易々とジェネラルの攻撃を盾でいなしてしまう。さらにはジェネラルが勢いのまま通過していく一瞬のうちにナイトを数体屠る。千寿の援護がなくとも一刀のうちにナイトの頭蓋を破壊し群れの数を確実に減らしていった。
ジェネラルはナイトがやられていくのも気にせず、馬を駆り三度突進する。近接での攻撃は部が悪いと踏んだのか、一撃離脱〈ヒットアンドアウェイ〉を繰り返す。
しかし、騎馬となったジェネラルが三度の突進攻撃を行う頃には、ナイトが全員討伐され、足元には骨の骸が無惨にも転がっていた。
「いい時間だ。終わりにしようか」
またも時間を確認した廻は時計をチラリと確認し、初めてジェネラルに対して剣を向けた。戦闘が開始してから十分が経とうとしている。
「はっ!」
廻はジェネラルが攻撃モーションへと移る前に動き出した。
腰にしまっていた短剣をジェネラルの顔面目掛けて正確に投擲する。それを防ごうとしたジェネラルが籠手で顔を覆い隠した。廻はその一瞬を突いて疾走のスキルで彼我の距離を詰める。
「……カ」
ジェネラルが気づいた時にはもう遅い。勢いそのまま跳躍した廻は馬上のジェネラルに組み付きながら剣をまっすぐジェネラルの首へと突き立てる。ゴリっという骨が砕ける音と共にジェネラルは首を落とされ絶命した。廻はジェネラルの死体を蹴落としながら、馬のスケルトンも瞬殺し広間に降り立った。
「有麻君! 終わったよ〜」
廻は広間の入り口で待っている千寿に向けて手を振りながら快活に笑う。名前を呼ばれた千寿も感心しながら拍手で廻を出迎えた。
「十分ぴったりでしたね」
「すごいでしょ!」
廻は嬉しそうにピースサインを突き出す。
「お昼にしようかと思ってるんですけど、どうします?」
「ああ。確かに。もうそんな時間だもんね」
二人が時計を確認すると、時刻は十三時。朝九時からダンジョンに潜り始めて四時間ほどが経過している。
「ボスがリポップするまで一時間はあるし、一緒に食べようか」
ダンジョンの解明されていない謎その一。ボス格モンスターは討伐されると一定の時間で再出現する。どういう原理かは明かされていないため、探索者たちはそういうものとして認識している。
さらに、モンスターの死骸は探索者が回収しなければ自然とダンジョンに吸収され消滅する。これによりダンジョン内はモンスターの死骸で溢れないようになっている。
ボーンジェネラルのリポップ時間は廻が言っていた通り一時間。つまり、この広間は一時間の間は安全というわけだ。もちろん、通路側からモンスターが現れることはあるが。
二人は荷物の中から持参してきた食料を取り出しゆっくりと昼食をとった。そうして三十分ほどが経った後。
「じゃあ、俺はもう行きますね」
「うん。頑張ってね〜」




