仲直り作戦
寮はもう閉まろうとしていた。
そういえば冬美也は連絡した覚えがない。
「しまった! 忘れてた!」
でも一は言う。
「アダムには言っておいたんだけどなぁ」
今日連れていくと言って、あっちで連絡すると言ってくれは筈なのに、寮の門が閉まろとしている。
「アダムって理事長の?」
「あれ? ゼフォウも理美も知ってるけど、お前聞いていないのか? あれは再生した姿だ」
流石に冬美也は驚いた。
「えっ?」
再生すると契りをした最初の姿だ。
年齢問わず、気に入れば契りをすれば再生すればその姿のままになってしまう。
一はそれを知っているから一応冬美也に伝える。
「いやいや、そのままの意味、三十代でなる奴もおる、勿論十代でなる奴も、だから理美みたいな幼い姿で再生されるから今後は他の管理者との連携が必要って話だし」
子供の内に契りが成立してしまった管理者は特に何かが起きると対処に遅れる可能性が高く、再生中や再生完了時は必ず他の管理者が面倒を見る事になっているとの事だ。
冬美也はそこで想像してしまう。
このまま管理者同士だけで関係が結ばれ、自分を忘れて行くのではないかと言う想像だ。
自己本位な考えだと頭を振るう。
「そ、そうか、そうなのか、そうだよな」
「でも、本人まだ想像出来ないし、そもそもゼロ週でもあるからな自由にしててもいい」
「一さんはどうだったんですか?」
「んーあんま考えてなかったし、戊辰戦争やら色々あったしで忙しかったし、まぁ家族の事や子孫達を見ながら過ごしたり、昔の良さや今の良さを見れるのも管理者の特権やな」
「そうですか……」
「残されたもんは集まって生きる、1人の奴もいるけどもいずれは死ぬ、何百年なのか何千年後なのかには死があるのは確かだ」
「それじゃあ、もう忘れられるじゃないですか! オレ達が!」
「おまっ、そうか、歴史を語る語り部は居っても語ったもんが誰なのかは、そうかお前はそう思ったのか、なるほどなぁ」
「あっすいません」
気が付いた時、つい自己本位だと思い、黙り込む。
同時に門もしまってしまった。
「あっ……」
「いったんアダムにクレーム入れるわ」
数分後、今日の当番の先生が開けてくれたが、聞いていないのなんなのとぶつくさ言っていた。
部屋に入ると、ゼフォウがまだ起きている。
「おかえりー、何してたんだよ?」
微妙にやはり空気が痛い。
「いや、斎藤一さんに奢ってくれるからって誘われて」
「あっそ」
自分でやらかしたとは言え、やはりあの場での謝罪は謝罪に入らないのだから当たり前だ。
「お前の気持ち考えられなくてごめん、本当にごめん」
また謝罪するのかとため息を吐き、もういいって言おうとしたゼフォウだったが、冬美也を見て驚いてしまう。
「……なんだいきなり! もう終わったことだろ!? なんでお前の方が泣いてるんだよ」
「いや……だって、オレ自分で手一杯だったせいで傷つけて」
終わった話として早々に切り上げさせ、シャワーを浴びさせようとしたら、薄っすら酒臭さに気付く。
「あーもう終わり! さっさとシャワー浴びろ! お前、酒飲んだ?」
「飲んでない! 出た後に掛けたんだけど消臭スプレー」
匂いを軽く嗅ぐと薄っすら頭から匂ってくる。
「頭とかについている時あるけど、まぁ今回の当番鈍感で人の話忘れている人間で良かったな」
本当変なところで真面目というか鈍感と言えばいいのか、どちらにせよあの先生で助かったが、アダム経由で話は通っている筈だ。
「あぁ、連絡入れた筈の理事長が再度連絡してくれて開けてくれたよ」
「これ呼び出し案件じゃね?」
その先生が、叱られるのが目に見える。
次の日、冬美也は理美に会う気で、食堂前で朝早くから待っていた。
朝一に来たのだから、絶対に会える自信がある。
しかし来たのは意外な人物だ。
「あれぇ先輩早いですね」
理美と同じクラスの確か羽田広樹だ。
「えっと、羽田君」
「広樹ですどうも」
もう1人立っている。
「そっちは?」
「松平小治郎です」
広樹とは体格も違うがなんか舐め腐った印象がある奴だ。
「冬美也·F·神崎だ、よろしく」
「あっよろしく、って言うか一時クラスめちゃくちゃした奴じゃん」
本当に鼻につくタイプだ。
すぐさま広樹が謝罪する。
「ごめんなさい、先輩、コイツいつもこう言う事平然と言う癖があって」
「ううん別に、オレこういう奴会うの初めてだからどうしようかと」
「でも口ではああ言うけど結構根は真面目だから」
冬美也もそこまで気にせずスルーを決め込もうと思った時、松平が更なる余計な一言を言う。
「オレは理美を待ってるから」
「また理美理美って飽きませんね先輩って振られたんじゃなかった?」
これは一度怒った方が良い。
まあ、怒るのはやはり振られた人間が一番だろう。
「それは俺だな」
ぬっと松平の背後に入り込むゼフォウがいた。
絡まれる松平は息を飲む。
「――!」
「気を付けろ、オレはカタギだから争いは好まないが」
そっと松平だけ角側に連れていき、2人でしっかり釘を刺す。
「俺はそれなりのスジもんだからよろしくね、小治郎君」
「ヒッ! はい!」
「まぁ理美ちゃんの机率先して運んでいたから今回は見逃してあげる。だ、か、ら、次碌な事言ったらないからね」
こくこくと頭を縦に振る松平を遠目から見ている広樹は思った。
『面白い位、あの2人カタギではない!』
何を言ってるかは知らないが、もう危ない先輩にしか見えない。
そんな中、ジュリアがやって来た。
「あっ、また松平君嫌がる事言ったんですか?」
「ジュリアちゃんおはよう、そうなんだよ、で今締め上げられてる先輩達に」
「仲直りしたみたいで良かったです……後は理美ちゃんとだけ」
広樹は理美とも何かあったのかと思っていたが、同時にそういえば美空の方が妙に距離を縮めようとしているのを思い出し聞こうとする。
「あれ? そういえば最近美空ちゃん率先的だけどどうしたの?」
が、ゾンビ、もとい桜夜が寝不足のまま現れた。
「あぁおはじゃぁぁ」
「おはよう、珍し桜夜起きたの?」
桜夜と長年の付き合いなのか、桜夜だけちゃん付けじゃない。
「おうよ、理美が今日仕事でそのまま泊まって中等部に直接行くんじゃと」
「だからかぁ、今日頑張って起きたの」
いきなり倒れこみ魂が抜ける冬美也を見た松平が一言。
「なんかすげぇ面倒臭いタイプだろ」
「否定しづらい」
ゼフォウもその辺はどうこう言えなかった。
結局、食堂ではゼフォウと壁際の席で、意外な人物、松平が前を陣取っている。
「なんか食べづらいな」
「第一声それかよ」
松平が言った後に桜夜も松平の余計を言う。
「まぁ気持ち分かるわぁ、コイツ一言余計だから」
ゼフォウも松平の様子を見ていたから悪い意味で言っているのが随所に伝わっていたからこその言葉を発した。
「素直で余計ならまだ可愛げあるだろうけど、嫌みだとねぇ」
「あぁもう、てかなんでアイツなんかと」
「理美ちゃん、多分松平気付いてないんじゃね?」
「一応お礼は言われたけど、松平が余計な事言って後無視してるから」
どうやら本当に根性が曲がっているようで、ゼフォウも呆れている。
「色々駄目じゃねコイツ」
「それより、理美がなんで泊りなんだ?」
「さぁ? やっぱり応えてたんじゃ」
普通に桜夜の言葉に胸に突き刺さった冬美也がテーブルに倒れこむ。
「……!」
「はい、冬美也を攻撃しなーい」
ゼフォウが間に入るも、松平は問う。
「では本音は?」
「ちょっと面白いからそのまま――痛って!!」
冬美也に思い切り脇腹を攻撃された。
「仲直りしたいけど、どうすれば」
まずは後輩男衆に振ってみる。
「時間だよねぇ」
「普通に美空振ればいいだろ」
「相変わらずキツイ奴だな」
「だから嫌われるんですよ松平君は」
「う、うっせぇよ、てか、美空本人は?」
「そろそろですよ、今日は寝つき悪かったようで」
そういえば普段、理美はともかく美空が遅いのは珍しい。
「あっそ」
本当に松平の性格は……。
丁度そこへ美空が来てジュリア達を探し、謝罪するもやはり冬美也を探していたんだろう、少し嬉しそうな顔をするも松平を見てげんなりする。
「ごめん寝過ごした、あっ冬美也セン、てか、松平がなんでそこに?」
「いいじゃんよ、どうせ嫌がらせだろ? てか、あんまりむきになってっと、嘉村お嬢様の特権で親飛ばされるんじゃね?」
皆よくこんな奴と付き合うなとゼフォウがドン引きする中、冬美也は言った。
「理美はしないと思う、アイツは優しいから」
その一言で松平を黙らせる。
ゼフォウが冬美也に寄り掛かり言う。
「なら、理美ちゃんをぉ困らせんなヨォ」
「止めろウザ絡み!」
結局、相談もジュリア達に聞く前に美空が来てしまい、話は終わった。
――時は遡って昨日の夜、理美は颯太に連れられ、お得意様のパーティーだ。
言ってしまえば、パーティーと言うなの挨拶回り、颯太と友吉、そして理美がいた。
軽い挨拶と名刺交換に、雑談と言う名の商談もあり、今のうちに馬が合えば乗り換えるなんてのも日常茶飯のこの世界、営業だけでは見られないだろう。
一通り回り終えた頃には理美の顔が青ざめていた。
「……酔った」
端に置いてある椅子に座って項垂れる。
颯太は理美に言うもほぼ返事がない。
「おーお疲れ、今日はもうこのままホテルで泊まって明日、俺が送るから安心しろ」
「う……ぅぃ」
父である友吉もこの返事にならない返事ともう吐きそうな雰囲気を見て悟った。
「大丈夫か理美、もう休ませた方が良いな」
「ほら、行くぞ」
「う……ぅん」
動くのもやっとな状態で理美はホテルの部屋へと向かう。
部屋は流石に女の子なので1人部屋だ。
「おい、ついたぞ、死ぬな生きろ」
「ぅぅぅ……」
一応、会場ではなく部屋なので、多少動けるようになったが、シャワーを浴びたらもうダメだろう。
颯太は聞く。
「お前、本当に街や駅の人混み平気な癖して、なんでパーティーはダメなんだ?」
そう理美は街中や駅の人混みは平気なのに、パーティー会場と言う場だけ人酔いをするのだ。
「逃げ場が……無い」
なんとなく言わないが、人の心理と言うべきだろうか、その内部を覗いているような感覚でこれからの未来が一瞬一瞬見えてしまうなんて言っても信じてもらえる筈がない。
街中とか駅の人混みは目的がある分分散されて見ることがないので気にはならないのだが、密室のあの空間だけは居たくはなかった。
「そのまま大人しく寝てろ」
「おやすみ、なさい」
颯太が出た後、シャワーを浴びた。
シャワーのお陰か、大分楽になりもう寝てしまおうと寝巻きを着替えようとした時、スマホのバイブに気が付く。
「なんだ? 蝶子さん? てか私まだ交換してない」
蝶子からのloinだ。
しかし、交換していないのに連絡が来る?
怖くてそのままにして寝よう。
理美は見なかった事にして既読無視。
が、急に扉を叩く音がする。
今は1人、怖過ぎる。
「理美ちゃん? ねぇいるんでしょ開けて」
声は蝶子。
でも場所なんて教えて居ない。
怖くて距離を扉から置く。
「開けてよ」
後ろから声がして悲鳴を上げた。
「ぎゃぁぁぁ‼︎」
バーの一室、蝶子と理美はそこにいた。
「本当にごめんね! 琴から聞いてだんだけど」
蝶子は早々に謝り、理美も大分気持ち悪さもなくなり普段通りに戻っている。
「勘弁してください、ちょっとホラーだったんですよ、蝶子さん」
「うちの子のアース、胡蝶よ。鳥類に愛されし者」
小さな蝶々なのがふわふわと飛んでいた。
「チョウ類?」
蝶々の事なのかと思ってしまう理美を見て、蝶子はすぐ気付く。
「鳥なら全てよ」
「蝶々なのに」
「そう、蝶々なのに」
本当に見た目に反したタイプがアースは多い気がする。
「そして喋れる」
ふわふわ飛びながら話す胡蝶を見て、また一瞬驚くもすぐに平静を保つ理美だが、こんな最上階のバーに子供が来て大丈夫なのかと心配になった。
「そりゃ驚くよ、でも大丈夫? 私子供だし親は今も」
蝶子はどうやって調べたのかを教えてくれたが、如何考えても職権乱用だ。
「親睦パーティーでしょ? 良かったわよ、私ここのホテル経営者だから来ると踏んで調べたら宿泊名簿に載ってたし」
「職権乱用」
しかも管理者内でもう話が伝わっている。
「ふふふ、で、聞いたわよ冬美也君と喧嘩中なんだって?」
「誰……アダムか」
もう誰か分かってしまい、心情を話す相手を間違えたと顔が引き攣った。
「話す相手選ぶべきだったって顔ね」
「そりゃそうなるでしょ」
「仲直りしたくないの?」
理美は自分が許せなかった。
「自分の……心の狭さが許せない」
バーで働く従業員に、ジュースとケーキを頼みながら、話を聞く。
「あらま、それで」
「それに冬美也の優柔不断も」
確かに理由はともかく、一緒にいるのを目撃したらそうなる。
それを聞いた蝶子は大笑い。
「あはははは」
「笑い事じゃない」
「確かにそりゃねぇ」
メリュウは理美の頭の上に乗って言う。
「あんなん浮気と一緒だろ」
「頭の上にドラゴンちゃんがいるわね」
「あぁ、実はloinでやたら桜夜達がこっちの位置情報欲しがっている様だったからメリュウに桜夜達の元へ飛ばしたんだよ」
「大胆ね」
「そうでもないよ、流石にねぇ」
「ところでそっちは何を?」
「買い物、使用人だった人とそのバイトで働いてる子と服買いに、着回してたけど流石にそろそろ限界だし服の衣替えをね」
「なるほどね」
「こっちも言い訳したけど、蛯名男だから余計な喧嘩したくなくって、必死で言い訳してたら、蛯名傷つけちゃうしでもう頭が」
話を聞いていたら、途中蝶子の私用スマホが鳴り、確認してたらなんか納得してしまう。
「あー……あ、一君は一生このままでいて欲しいわ」
「何の話?」
何故一の名が出てくるのかと聞くも、蝶子にはぐらかされて、話を戻されてしまう。
「ううん、こっちの話、でも、そっちも自覚あったんだ」
「だから本当は帰ってからちゃんと謝るつもりだったんだけど、宣戦布告された」
そう話している間にジュースとケーキが運ばれる。
「宣戦布告?」
「美空に」
「どんな――」
話を聞く前に理美が一通りの説明をした。
「私の姪に当たる子です、出会った時に一目惚れしてたみたいで、やっぱり私自信無い、こんな訳の分からない自分なんかよりちゃんと鮮明に分かっている人の方が冬美也に合ってるんじゃないかって」
理美は話している間に涙が溢れ出る。
「そんな事ないって、だって聞いてたけど仲良かったって」
励まそうとするも理美はそれでも空回ってしまい、結果ドンドン悪い方へと転がり続けていく。
「でも、冬美也が悩んでいるのに何もしてあげれなかった出来なかった、あの時会いに行ってれば良かったのかも分からない、連絡しなきゃあんな風にならなかった。ダメだやっぱり……私には」
無理だとはっきり言おうとしたが蝶子に止められた。
「それ以上言っちゃダメよ、どんな状況でもここまで口にしてしまうと本当にダメになってしまうから」
「……どうしたら良いんですか? 仲直りする方法が分かりません」
自分から言うにもあの態度でやってしまったのだから、呆れてしまったのかもしれない。
メリュウが冬美也のあの時の態度を思い出し、放っておくのが1番ではとつい口に出すも蝶子に注意される。
「別に良いんじゃないか、そのままでアイツなんかほっといて」
「メリュウちゃん、今は女同士の会話中に男が入らない」
「ひっ! はぃ」
圧と言うか殺意と言うべきか、とにかく怖かった。
「話し合うって難しいから2人きりでゆっくり話す機会があれば良いのよね、特に人の目が多少あるくらいで」
「冬美也は望んでいるかが怖い」
「怖くない怖くない、大丈夫大丈夫、こういう時は当たって砕けた方が良いのよ!」
それはもっともやるべきではない行為ではと理美が思うも蝶子に言われてしまう。
「えっ、それ一番危険な奴じゃ?」
「でもそのままで良いの?」
「ゔぅぅ……」
諦めてとりあえず当たって砕けた方が良いのだろうか。
その後は、用意されたケーキとジュースは頂きました。
もう深夜、理美はあの悪夢を見る――。
廃墟となったビルの中、美空が誰かに襲われ殺される夢だ。
美空の悲鳴とどこかで聞き覚えのある男性の声。
そしていったい誰か分からない助けを呼ぶ女性の声も混じっている。
顔を見れば多分分かると思う。
でも血吹雪で顔まで見えない。
自分は立っているだけで動かない、そういえば、あの時はどうしたんだったか。
そう冬美也に声を掛けたと共に目が覚めたんだ。
声を掛ければ、何か行動すれば、きっと変われる。
一歩進もうとした時、誰かの声がした。
「奪われる位ならほっとけば良いんじゃない?」
後ろを振り向いた時、朝になっていた。




