それぞれの買い物【後編】
美空のスマホが鳴り、覗けばloinで友達からの連絡だ。
「なんだ、フィン先輩、桜夜達と遊ぶ約束してたなら一緒に来てくれれば良かったのに」
結局2人だけになってしまったと、少し緊張が走る。
入学当初から、告白を複数受けている大人気の冬美也だ。
でも同時に罪悪感が襲う。
そんな美空を見ていないのか、冬美也は状況を全く理解していないのか普通に接する。
「アイツ急に消えやがって、で、どうする? 買い物始まったばかりだけど? 行く当てとかある?」
緊張し過ぎて声が裏返ってしまう。
「は、はい! すぐそこのビルです。男性用品が多いので、一緒に探してくれれば嬉しいです」
不意に冬美也は思った。
「そうか、でも弟いるんだろ? 一緒に買いに行かないのか?」
美空には弟がいる。
昔遊ぶ時に話で出ていたのだ。
その話を振られ、戸惑うもちゃんと理由を話す。
「えっ……と、その実は、弟が割り勘って言っても弟の小遣いじゃ買えないもあって」
結局割り勘すると割を食うのはいつも上の兄弟、その為、度々揉めるのだろう。
今回は1人で買いたいが1人ではよく分からない。
冬美也もそれなら自分にも分かると話す。
「そうか、優紀と一緒に買い物って思ってもその辺でいっつも躓くの一緒なんだなって」
弟の話題もあって少しだけ笑った。
こんな風に笑うのかと美空が赤らめてしまう。
ちょっと離れた位置で、ゼフォウが冷めた目で見ていた。
探す間にそういえば、この辺で待っている筈とゼフォウが覚えていた為戻ってみればこれだ。
「もう、俺アイツのおもり辞めるわ」
あまりにも普段通りに、勘違いさせる。
いつもなら間に自分が居て、相手を勘違いから覚ませるのだが、腹いせで離れてはみたが進歩が無さ過ぎてもう限界だ。
桜夜も見ていて理解した。
「あぁ優柔不断タイプで勘違いさせるたらしだわ」
「たらし?」
意味を理解していないジュリアを見てゼフォウが知らなくて良いと言う。
「ジュリアちゃんは気にしなくていいよ」
「?」
分からないまま放置し、桜夜は美空の性格を知っているからこそ言った。
「で、どうするんすか? 美空も人たらしなとこだけじゃなく、一目惚れしやすいんすよ」
「ほっとけば、アイツの自業自得だし」
心配して損になるのだから、自滅してくれれば少しは気が晴れると言うもの。
それに対してジュリアはとんでもない事をさらりと言う。
「なんで、あの時告っちゃったんですか、そしたら墓穴ほった神崎先輩を出し抜けたのに」
「良い性格してるよね、たらし分からなかった子が」
「先輩ほどじゃないですよ? いっつも人の好さそうな雰囲気出しているのに振られて空元気じゃないとやってけないの分かりますけど、理美ちゃんにも嫌われたらどうするんです?」
「あの子、不思議だよね。カミングアウトしても普通に接してくれるの、結構緊張したんだぜ」
「その態度からして振られても諦めてないと分かる」
「そう? 一応理美ちゃんの思いが届かなかった時にワンチャンやっちゃう?」
あまりに凄い事を言ってのけるので、ついつい奪うチャンスがあると自信を付けるが半分は冗談だ。
下手にそれをやってしまうと、本当に嫌われかねない。
だから、普段を装い、あの告白すら忘れたフリをする。
が、現状冬美也のせいで色々狂ってしまった。
たかが一言で殴ってしまった自分が未だに腹立つ。
でも冬美也からすれば普段の接し方だ。
親しき間にも礼儀ありとはまさにこの事だ。
唐突に桜夜は言う。
「先輩は、理美ちゃん好きだから、好きな人とくっ付いて欲しい派なんですか?」
多分、まさにそれだ。
折角フラれたんだからさっさと付き合ってくれた方が傷も浅くて済んだのに……。
「分からなーい、でも、俺もあのいざこざに紛れて告ってるからねぇ。さぁ、動いた一緒に行こう」
そう笑って歩き出す。
理美はと言えば、流行りの店で服を選ぶ。
普段着もある程度は周りに浮かない服を選ぶが、一目惚れした服があると一直線で向かう。
すぐさま蛯名が見ては組み合わせも見繕ってはくれるが、本当に着れないものは止められた。
そんな中、桜夜からloinが届く。
「……なんでゼフォウも? てか、この近くじゃん」
確認している理美を見て蛯名は言う。
「どうしたの、スマホ急にいじりだして」
「これ、ここから離れてない位置の駅だよ」
「あらホントね」
駅の中での撮影ではあるが、中に入ったことがあればすぐに分かる程だ。
七瀬はどうせ買い物して食べて帰るだけなんだしと思って遊ぶよう促す。
「買い物終わったら、遊べば?」
「いやー巻き込んだ身、あまりなぁ」
七瀬と蛯名を巻き込んで、終わったからひょいひょい変えるのは失礼だろう。
loinには写真送ってと書いてあるのが見えた蛯名が聞く。
「写真撮って送らないの?」
「えー……私だけで良い?」
写真を送りたくない理美だったが、自分だけで良いかと言うも、七瀬はうっきうきで蛯名もノリノリだ。
「んなの関係ないよ、はいポーズ」
結局、その写真を送る事となった。
だが、理美は物凄く妙な感覚を覚え、七瀬達が離れたところでメリュウを呼び出す。
「メリュウ、ちょっとお願いがあるの」
「なんだ?」
「実はちょっと――」
「まぁやってみるよ」
そう言って、メリュウは飛んだかと思えば姿を消してどこかへと向かった。
「ふぁ! めっちゃ、この付近じゃないですか!」
ジュリアがめちゃくちゃ驚く。
ゼフォウも桜夜のスマホを覗いた。
「ほんとだ、てかこのビルの隣にある施設じゃね?」
「渡り廊下無いし、しばらく気付かないっしょ?」
ビル内ではどこにいるかまでは分からない。
どこの施設かも特徴はあるが、特定する程の力が備わっていなければ大丈夫だろう。
それを横目に男性用品、とりわけサラリーマンが使うネクタイ等のエリアだ。
「てか、アイツら仲いいな」
「このままではやりたい放題させていたら、いつ友人が裏切って本能寺の変のごとく大変なことに」
ジュリアの謎の癖ある言い方にゼフォウは、裏切ったのは明智光秀こと日向だろうとすぐに勘付いた。
『あー日向さんだな絶対変な事吹き込んだの』
織田を裏切った理由は様々だが、張本人から聞いた方が、早い気がしてきた。
ジュリアは桜夜から聞いていた社員が男女1人ずつなのはきっとなんらかの理由がと思う中で、男性に見覚えがあった。
「でも社員さん女性のほかに男性も写ってますよね、でも、どこかで見たような?」
考えている最中、美空と冬美也が動く。
冬美也は少し視線を感じ、辺りを見渡すが、人混みのせいで分からない。
美空は一切気にしていないようで、冬美也を呼ぶ。
「先輩、こっちきてくれませんか?」
ついていく冬美也だったが、ある疑問をぶつける。
「あぁ……なぁ嘉村さん」
「美空って言ってほしいです」
「美空さん、あの、もしかして決めてた?」
「何をです?」
「お父さんのプレゼント」
「そんな事ないですよ」
「いや、でも、迷いが無いよね?」
冬美也が言いたかったこと、美空の選ぶ時間と迷いの時間があまりにも無いのだ。
最初話していた時は時間も掛かっているように見えたが、徐々にお目当ての物に近づくにつれ見る時間が減っていた。
「……ばれましたか」
「ばれるよ」
「先輩方、神崎先輩はどうして理美ちゃんを好きになったんですか?」
「はっ?」
「いえ、あの頃出会った時からずっと神崎先輩は理美ちゃんと一緒に居て、でも理美ちゃんはあの頃から引っ込み思案でこっちでもよく分からない子で、でも先輩はそんな理美ちゃんの事、大事にしてたから」
「理美に拾われたのは本当だし、理美がオレの事好きだってのも知っている」
なんとなく両片思いだと周りも分かっていた。
ただどういう形で好きになったのか知りたい。
「なら、どういう形で好きになったんですか? もしそれが理由なら私も――」
きっと美空は元々一目惚れしていた。
だから隙があれば自分をという気持ちがあったのだろう。
しかし意外な言葉が返ってくる。
「やばい、分からねぇ」
「えっ?」
一気に緊張の空気が消えうせた。
それどころか、必死に思い出そうとする冬美也はどうしても分からないのだ。
「いや、普通に考えたんだけど、どこで理美を好きになったんだオレ?」
本気でどこで好きになったのかどういう経緯でなったのか本人が分からなければ分からない。
まさか、理美のアースの影響か?
すると背後から声がする。
「大丈夫よ、私もあなたに影響を与えるような事してないから」
その声に驚き振り向く。
「先輩どうしたんですか!?」
急な挙動不審に驚く美空を宥めるためにいきなりのカミングアウトをする。
「オレ、幽霊見えるから」
カタカタ震える美空を他所に、更に声が言う。
「あらやだ、幽霊じゃないって昔言ったのに」
理美のアースだ。
「……!?」
何故ここにいるのか分からないまま、アースが忠告した。
「気を付けた方が良いわ、理美が桜夜達の挙動不審なloinに勘付いて、メリュウを刺客に送ったからもしかしたらもう」
「すまんな、桜夜達を俺様が探してたらついでにお前を見つけたぞ浮気野郎」
見えないように姿を消しているが、冬美也には見える。
メリュウが腕を組んだまま浮いている姿を。
完璧に終わった。
傍から見ていたゼフォウが挙動不審の冬美也を見て気が付く。
「まさか、バレたか!?」
慌てて立ち上がった時、冬美也に見られた。
「てかお前ら!」
桜夜達ももう逃げるっきゃないと隠れた場所から出た直後だ。
「あっバレちゃった仕方がねぇ逃げるぞ」
「何が?」
思い切り理美が立っている。
「理美ちゃん、なんでここに!?」
ゼフォウの問いに嘘をつかない程度で話す。
「ぜ、フィン達こそ何してるの? 丁度買い物も一通り終わったから、ついでに蛯名の見ていこうって七瀬さんが言っててんじゃ行きますかって」
実際、隣のビルだし、買い物も一通り終わったので、友達と一度会って遊ぶなり一緒に行動するなりすれば良いのと丁度、蛯名の服も買い替え時と七瀬が言っていたのもあって探しに来たのだ。
七瀬としては可愛い子達がいると興奮。
「やっだかわいい子達がいる」
同時に蛯名が止める羽目に。
「やめろ、お前がやることは犯罪よ」
一方、冬美也は呆然と立ち尽くす。
「理美……?」
その後から美空も出て来た。
物凄いタイミングではなく、探してたら最悪の状況を作り出してしまった理美は何かを考えある言い訳をしだした。
「蛯名はうちの使用人で現在、パティシエで店も構えている人なので大丈夫です、後彼はゲイです」
「誰もそんな話してないわよ!」
「大丈夫、ネコです」
どういう意味だそれと言うジュリアと美空と冬美也、意味を知っているゼフォウは大慌てで声を荒げる。
「アウト!! 理美ちゃんアウト!! 声出さないの!」
蛯名本人もカンカンに怒って、理美の口元を抑えた。
「人様のカミングアウトするのは失礼だって言ったでしょう!」
よく見ると、理美がパニックを起こしているのが分かり、動揺してを隠す為にあえてこの人は彼氏でもなんでもないですと言いたかったんだろう。
でも反ってあれだ。
場を混乱させてしまった。
不意に更なるものが追加された。
「思い出しました、織田信長はネコだって!」
また日向が余計な事言っていたようだ。
ゼフォウが場を落ち着かせようとするが、桜夜大興奮。
「そっちも余計な事を言わない」
「寧ろ聞かせて! 色々と!」
「お前腐女子かよ!」
飲食店のあるビルの1つに皆一同いた。
「ごめん、皆に迷惑かけたから、私が全部今回は出すよ」
誰も目を見ようとせず、理美は奢ると言うのだが、空気が本当に重い。
ゼフォウは言う。
「だから良いって、俺らは」
蛯名も大人として払うつもりだ。
「ほんとよ、別に俺も要らないって言うのに」
七瀬はあえて言わず、女の子達に挟まれ上機嫌。
冬美也も蛯名の名に聞き覚えがあった。
「蛯名、蛯名、あれ? どっかで聞いたような?」
ゼフォウが聞こうとした時、桜夜の方が思い出す。
「パティシエって言ってたけど、どんな?」
「思い出した! 蛯名政隆ってパティシエのコンテストで毎度上位にくい込むほどの有名パティシエじゃん! 確か一等地のところに見せ構えてるって」
そんな凄腕と出会うなんて凄いとゼフォウは理美に聞いたらデジャヴ再び。
「どうやって知り合ったの理美ちゃんと蛯名さんは」
「えっ? 山で拾った」
冬美也とゼフォウが突っ込みたいが喉から声を出さずに飲み込む。
『おまっ……』
『またかよ』
勿論、周りの女子メンツも思った。
「拾いすぎじゃね?」
「そうかなぁ? よくあることでは?」
絶対にない。
「ないよー、理美ちゃんだけでは?」
「拾われた身だけどあなた、色々人拾う癖あるからもう止めなさい」
蛯名にまで釘を刺されてしまった。
「いるから拾う、ただそれだけ」
「理美ちゃん、犬猫だけにして」
七瀬にまで言われる始末だ。
冬美也は何か話そうと理美を見ると、理美が気付くもすぐさま目線を逸らされてしまった。
自分から距離を置いて、勝手に他の女子と出掛けたのだから怒っている絶対。
「あの、理美ちゃん……」
「別に付き合っている訳じゃないし、法律だって婚約中じゃない限り自由なんだし」
非常に冷たい言い方だ。
ゼフォウは言う。
「俺が気晴らしに誘って、いやがらせしたの、だから」
「ゼフォウはそんな事しないよ、どうせ冬美也が無作為に返事したんじゃないの?」
こういう時だけ本当に鋭い。
ジュリアが言う。
「そんな事言わないでください」
空気をギクシャクしたのはもちろん今回は理美の態度だろうが、そのせいでもっと悪化させてしまった。
「あ、ごめ」
さすがに謝ろうとしたが、何の話をしだしたのか分からないが、今までの言い分を聞いていたゼフォウも先程の変な話を含め、明らかに日向だ。
「そのせいで燃やすしかなくなったんですよ!」
「またかよ! あの人一体何を話したんだジュリアに!」
「織田を憎むのは良いが変な話吹き込みすぎだろ!」
固まってしまった理美をよそに、桜夜はある事を言い出す。
「ってことは、森蘭丸は攻め……!」
こっちはこっちでまだ引きずっていた。
蛯名は話がややこしくなると判断して止める。
「あなたもそこで変な話を挟まない!」
「でもさ、なんでそこまで怒ってるの理美ちゃんは?」
「別に怒ってない、早くメニュー決めて、すぐ注文、店員さん達も迷惑かかるから」
先程までの態度がやはりがらりと変わっているのだ。
ゼフォウと冬美也はひそひそと話す。
「どうすりゃいいんだよコレ」
「どうするったって、これはお前が謝るべきじゃね?」
「したいけど、目も合わせてくれねぇ」
一瞬目が合ったと思えば目を逸らされ話しすらない。
「詫び品持って謝れって」
「無理だ、そもそも金がない」
金も無いのにどうして買い物の付き添いをしたのか。
「なんで付き添うって言ったんだお前」
「……理美の、理美が好きなのと言うか、話の話題とか、そういうのが欲しくて」
結局理美かよとゼフォウが呆れる。
「だっからおめぇはよぉ」
しかし、本音が冬美也から出た。
「少しだけ、楽になりたかったのかもしれない」
「バカたれ、それ絶対誰にも言うなよ」
「悪かった、ごめん、お前の気持ち分かってなくて」
せめて2人きりの時に言って欲しい。
「だっから、お前はよぉ!」
「どっちがどっちだろうか?」
向かいに座っていた桜夜は真剣に言うので、ゼフォウが突っ込む。
「腐女子さん、少し黙って」
結局、言い訳とまで言わないが、一切理美は表情を変えず、食事も終わっても変わらない。
支払いの際、理美の財布から子供が持つべきではない黒きカードが出て来て、全力で蛯名が止め、蛯名の支払いとなった。
回りは暫く黒きカードに驚き、普段から持ち歩いているのかとざわづく中、ゼフォウも俺もと取り出そうとして冬美也が止める。
美空が理美を呼び、何かと思えばとんでもないものだ。
「あのさ、理美ちゃん」
「何?」
「私、諦めたくないから神崎先輩の事」
急に宣戦布告、驚く理美に対し、蛯名が呼ぶ。
「ほら、もう帰るから行くわよ、それとも友達と」
「いや、一緒に帰ろ、流石に荷物運ぶの大変だし寮に通すと尋問されそうだし、七瀬が」
「なんでこういう時に言うの!?」
冬美也は理美に言う。
「理美、絶対そういうのじゃないから! 後返事しなくてごめん、次からちゃんとするから」
今さっきの事もあり、聞こえてなかったのかとも悔しさもある。
それでも平静を装う。
「……大丈夫だから他の子達よろしくね」
名前も呼ぶのも嫌になっていた。
「理美ちゃーん行くよ」
「分かった」
「明日、また会おう理美」
冬美也は必死に言うが理美は何も言わず帰ってしまう。
ゼフォウは最悪の状態になってしまった位察しはついた。
「あーあ、あれじゃお前の判断が悪すぎ」
冬美也もやらかしたと一気に座り込む。
「……どうしよう、オレバートンに気を取られて理美から嫌われたかも」
「だからって美空ちゃんの付き添い断るべきだったんだよ。返事もすぐ送り返さないから」
車に乗り、駐車場から出た後、七瀬が助手席で理美が後ろに乗っている中、七瀬と蛯名が話している。
その間、蛯名はバックミラーを何回か覗き、声を掛けた。
「理美、平静を装うの辛かったけど、悔しかったのでしょうね」
「……悔しい、なんで、誰にも会いたくない」
理美が涙を流し泣き続けるのを見て、蛯名は気を利かせる。
「分かった、気持ちが落ち着くまでドライブしましょ」
帰る頃には夜になっていた。




