第百十話「魔法で簡単プリン」
「ねえねえ、イオン。なに作ってんの?」
「ん? ないしょ」
ブベーっとよくわからない言葉を発しながらゴロゴロ転がる銀一。
銀一は暇すぎてちょっとおかしくなっている……。
そんな銀一の少し先ではレムが扉の前で仁王立ちしている。
いつもながら警備お疲れさまです、レムくん。
まあ銀一が暇すぎて死にそうなのも、こうしてレムにも相手にしてもらえないからなんだけどね。
部屋の隅には、シューリングさんがさっき持ってきてくれたカートごと食材が並んでいる。
私はその食材には手をつけず、一心不乱に土魔法を行使し続けていた。
意外と繊細な仕事なのよ。
悪いけど銀一なんかに構っている暇はない。
特に今は重要な局面なのだ。
私の周りには魔法で作ったボール、プリン型、濾し器、蒸し器が並んでいる。
あとはこれを作れば準備完了だ。
本当はボールとかの前に最初に作ってたんだけど、何度もポキンと折れてしまって後回しにしていた。
その難しさにプリン作りを断念しようかとも思ったくらいだ。
硬さと適度なしなやかさが求められる繊細な職人技。
私はボールやプリン型を作りながら考え、そして気づいた。
形のイメージだけでなく、その性質であるしなやかさをイメージしなければならない、と。
今のところいい感じだ。
最初は3Dプリンターのようにその形をズバリ作り出していた。
ただ、他の器具はそれでいいとしてもこれはそうはいかない。
レムを作った時くらいの魔力を使って、すっごく硬くしたら問題ないのかも知れない。
でも、それだと簡単に折れないとは思うけど、使い辛そうなんだよね。
やはり職人と言うのは、使う人の気持ちになってものづくりをしなければ。
つくづく思う。
ほっそい棒を曲げて重ねながら束ねていく内に、みるみるその形状が見慣れたものとなっていく。
それを持ち手にはめ込んで固定すれば出来上がり。
そう、ケーキやお菓子作りには欠かせない料理器具、泡立て器だ。
「できた!」
「なぁんだ。イオンは泡立て器作ってたんだね?」
「え? ギギ、これ知ってるの?」
「もちろん。金属製のなら普通に売ってるし」
言ってよ、銀一くん。
シューリングさんに頼めば持って来てもらえたかも知れないじゃない。
泡立て器だけで優に1時間くらいは費やしちゃったわよ……。
「普通に売ってるなら売ってるって早く言ってよ、ギギー」
「だって何作ってるのか教えてくれなかったし……」
そうね。
確かに内緒にしてたのは私だ。
ま、できたんだからもういいか。
「もしかして、プリンって食べ物知ってる?」
「プリン?」
目をまん丸にして首をかしげる銀一。
うん、プリンは知らなそうだ。
「じゃあ、今から作るわね」
作った料理器具を食材が載ったカートに載せ、テラスへと移動する。
部屋の中で火魔法を使うのは危ないからね。
それに部屋を燃やさないまでも、汚しちゃったらシューリングさんに睨まれそうだし……。
チョコチョコついて来た銀一が、アーチ状の手すりに音もなく飛び乗った。
興味深そうに大きな目で覗いてくる。
「まずはこのボールにお砂糖を入れてっと……」
私はボールの1つにお砂糖を入れ、ポチョっと魔法で水を少しだけ入れる。
そしてそれをさっき作ったガス台のような爪付きの台に載せ、台に手を入れ火魔法で熱していく。
片手がふさがるけどこのくらいの作業なら問題ない。
「イオン、なんか焦げてない?」
「うん。焦がしてるのよ、これ」
私の答えに怪訝そうに目を細める銀一。
「これはカラメルと言ってね。こうしてほろ苦さを出すのよ」
「えー、苦くなるのー?」
銀一はあからさまに嫌な顔をする。
ま、食べればわかるわよ。
いい感じに茶色くなってきたところで、火魔法と水魔法を併用したお湯を入れてかき回す。
魔法ってば便利!
カラメルをプリン型の器に薄く均等に流し入れる。
使ったボールは軽く併用魔法のお湯でさっと洗いミルクを注ぐ。
ここでゲラバニハのさやからゲラバニハビーンズをしごき出し、さやも一緒に入れておく。
そしてもう一つのボールに卵を割り入れお砂糖を加えて混ぜる。
もちろんさっき作ったお手製泡立て器で。
シャカシャカシャカシャカ……
うん、泡立て器が手にしっくりくる。
なかなかいい仕事をしたな、私。
自分の仕事に満足しながらも、このタイミングでさっきのミルクを温める。
「ギギ、お外見てないでちょっとここ押さえてて」
「えー……」
銀一が嫌々ながらもボールを押さえにカートへと飛び移ってくる。
銀一は苦いものを作っていると思ってからは俄然興味を失ったようで、完全に私に背を向けて長いしっぽを揺らしながら外の景色を楽しんでいた。
「これはちょっと大変ね……」
左手を爪付きガス台の下に入れ魔法で火をおこし、ミルクを温めながら右手で卵とお砂糖をかき混ぜるのは意外と難しかった。
銀一の協力なしにはできない。
クツクツ沸騰する前に火魔法を行使していた手を抜き、ゲラバニハミルクを少しずつ卵とお砂糖を混ぜ合わせたボールに注いでいく。
注ぎながらもお手製泡立て器で良く混ぜる。
さっきのカラメルを入れたプリン型の容器に濾し器で濾しながら入れていく。
ゲラバニハミルクの甘い香りが漂い始めてからは銀一の興味も戻ってきたみたいで、今では興味津々と言った目で作業を眺めている。
「あちっ……」
銀一が濾し器から溢れたプリンの元をペロリと舐めた。
やっぱり猫舌なのね……。
「あ、甘いよイオン! 美味しいよコレ! コレ、ボクのだよね? 飲んじゃっていいんだよね?」
「いや、まだ途中だから……」
プリンの容器をクンカクンカしながら目を爛々とさせる銀一。
「えー、冷ましたら飲んじゃおうよー」
「だからプリンは飲み物じゃないから……」
銀一、私の言葉は全然耳に入ってないな。
プリン容器の周りをクルクルと回りながら、フーフー息を吹きかけている……。
とりあえず銀一にとってはまだ熱いようなので放っておこう。
私は蒸し器を爪付きガス台に載せると魔法で水を張った。
そしてプリン容器を蒸し器に並べていく。
「あ……」
「…………」
銀一の悲しげな声を無視して、最後の1個も蒸し器の中へ。
「もっと美味しくなるんだから、そんな悲しい顔しないの」
「でも……」
今にも泣き出しそうな銀一。
でも仕方ない。
あんなのはプリンと呼べない。
早速ガス台の下に手を入れ火魔法で加熱していく。
ここからは少し暇になる。
なんせ魔法で火をおこして蒸すだけだし。
「それ、そんなに気に入った?」
「え?」
手持ち無沙汰になったのは銀一も一緒で、点々と溢れていたプリンの元を舐め始めていた。
「イオンも舐めたかった?」
「い、いや、私はいいわ……」
ホッとしたような顔をした銀一は、またチロチロと舐め始める。
一杯くらい銀一用に残してあげれば良かったかしら?
それにしてもエドワード王子だよね……。
なんだか国の一大事っぽいのに、私を優先させてくれた形になってしまって忍びない。
とりあえず『運命人』である私は、まだ到着していないことにするみたいで、ブライトンさんや私を知る関係者には、そのように箝口令をしくとの事だった。
エドワード王子が受け入れるのであれば、『運命人』の到着次第、急ぎ国王と謁見しなければならない。
流石にお父様である国王と謁見するとなれば、国でも正式に『運命人』を迎え入れたこととなり、それからは当然『運命人』が自由に行動することは憚られる。
ましてや敵国であるアレークラ王国へ行くなど、到底許されるはずがない。
とは言え、私の存在はかなり知れ渡ってしまっているので、箝口令をしいたところでその事実は隠し切れないそう。
ただ、新たな『運命人』を快く思っていない反対派の筆頭であるアルギーレ公爵も、私の国王謁見が先延ばしになるのに越したことはないそうで、この謀も見て見ぬ振りをするだろうとのことだった。
だからエドワード王子はとりあえずこの方向で話を進めるのだとか。
もちろんその間に弟さんの治療を行うらしい。
とにかくそれだけでも上手くいって欲しい。
まだ顔も見たこともない人だけど、エドワード王子の弟さんなのだからとてもいい人に違いない。
「ねえ、イオン。あとどのくらいでできるの?」
「そろそろかしらね……。あとは冷ましてから冷蔵庫……って、魔法で冷やしたら出来上がりよ」
そろそろ蒸し始めてから25分ほど経つ。
私は火を止めて蒸し器のふたを開ける。
ブワッと蒸気が上がり、それをやり過ごしてから魔法で水を足した。
そしてまたガス台の下に手を入れて、今度は一気に水を凍らせる。
ピキ、ピキピキピキピキッっとたちまち水が凍りつく。
これで早く冷めるだろう。
冷めたらもう一段のトレーに氷を張ってプリンの上に載せれば、簡易冷蔵庫の出来上がり。
きっと小一時間もすれば美味しく食べられるだろう。
うん。もう出来たも同然ね!
みんなの、特にシューリングさんの食べた時の顔が楽しみ!




