第百九話「二人だけでお話・3」
「元の世界での『運命の人』………………」
エドワード王子はそう呟くと、その後は口を閉ざして考え込んでしまった。
私が何とか自分のことを語り終えてのことだ。
私が元の世界の神様の手違いで死んでしまい、その神様にこちらの世界へ送られたこと。
『運命の人』にはエドワード王子の他に、元の世界の人の名前が元の世界の字で書いてあること。
その人は私が死んだ時の事故に巻き込まれて生死を彷徨っているかも知れないこと。
それを確かめる為にも元の世界へ帰る方法を探していたこと。
そして、召喚魔法に活路を見いだし、アレークラ王国へ召喚魔法を学びに行こうとしていたこと。
やっぱりもう少し探り探りと言うか、時間をかけて話すべきだったのだろうか?
でも、エドワード王子の気持ちに応える為にも隠し立てしたくはなかった。
まあ、『運命の人』がずっと憧れていた片想いの人だったとは言えなかったんだけどね……。
「…………先ずはグローグリーが手に入っただけでも良しとするか……」
どのくらい時間が経ったのか、考えに耽っていたエドワード王子がポツリと呟いた。
そうだ。王族の誰かが死の病にかかってるんだっけ。
それでアダマーレムの目の魔石、グローグリーを探していたんだよね。
でも、グローグリーが手に入っただけで良しとするって、一体どう言う事なんだろう。
「実は、弟のクリスに王位継承権を譲るつもりだったんだ」
エドワード王子は唐突に話し出した。
それにしてもなんで王位継承権の話なの?
「君に更新される前の『運命人』はエレン・ハナーヒューと言ってね。このハナーヒュー家の本家がアルギーレ公爵と言う事もあって、もしこの婚儀が成った暁には王国内の勢力図が変わり、情勢が様変わりすると言われていたんだ」
「…………」
私が首をかしげていると、エドワード王子は私の肩に手を置き、
「アルギーレ公爵と言うのは好戦派の代表としても知られている人物で、その影響力は今でも絶大なものがある。そしてクーデター絡みの黒い噂が尽きない御仁でもあるんだ。
そんな人物にこれ以上権力を与えるような真似は出来ないだろう?」
と言って、わかったようなわからないような顔をしている私を覗き込むように見てきた。
私はじっと見つめられて曖昧にうなずく。
「だから僕は王位継承権を弟に譲ろうと思ったんだよ。
ただクリスは死の病を患っていてね……。どうしてもクリスの病を治す為にグローグリーが必要だったんだ。
そんな時、『運命人』の更新に相次ぎグローグリーが手に入ったなんて報告まで届いたんだ。しかもそのグローグリーは新たな『運命人』である君が手に入れたと、ね?」
そう言って自嘲気味に笑うエドワード王子。
「『運命人』が更新された事で先の心配が払拭されたばかりか、クリスの命を救うグローグリーまで手に入ったんだ。これは僕にとってこの上ない幸運さ。同時に、これ以上欲をかいちゃバチが当たると言うもの。そして弟の命の恩人となる君の願いを叶えるのも当然。だからイオン?」
私を呼ぶエドワード王子の瞳には緊張した私が映っている。
「君の気が済むまでやってみるといい」
エドワード王子はそう言って、私の肩に載せた手をトントンと優しく弾ませる。
「……召喚魔法を学びにアレークラ王国へ行ってもいいと?」
目を閉じて頷くエドワード王子。
そして、「その代わり」と、エドワード王子は語気を強めて見つめて来た。
「君がその『運命の人』を想っているように、僕も君を想っている事は忘れないで欲しい。同じく僕も君の『運命の人』なんだしね?」
「…………はい……」
元の世界の『運命の人』が、ずっと想いを寄せていた人だったことはバレてたみたい……。
つい「違うんです、そんなんじゃないんです」って口にしてしまいそうな心境になってくるのは、今ではエドワード王子への想いの方が強くなっていると言うことなのだろうか?
「とにかく、そうと決まれば今後の事を少し話しておこうか?」
「あ、はい…………」
自分の気持ちにドギマギしていたら、エドワード王子はそう言って立ち上がった。
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「じゃあ、暫くゆっくり休むといい。今話した諸々は僕の方で進めておくからね?」
エドワード王子はそう言って扉を開ける。
廊下に出ると、スススススっとシューリングさんが近寄ってきた。
「イオンを頼んだよ?」
エドワード王子の言葉に、シューリングさんは相変わらずの無表情で左手を胸に当ててお辞儀をする。
「あの……殿下。ギルドにルルを残して来てるので、一旦ギルドへ戻りたいのですが……」
私の問いを受けたエドワード王子は、側に控えていたシューリングさんを見る。
「それならばご安心ください。
先ほどギルドから連絡がありまして、ルル様はこちらへ向かわれているとのことでした」
「そう言う事だ、イオン。あと、僕の事はエドと呼んでおくれ?」
ニコリと笑うエドワード王子。
シューリングさんの無表情をチャラにするくらい眩しい笑顔だ。
てか、エドだなんて恥ずかしくて呼べないし……。
「わかりました、エド……」
キャー、呼んじゃった!
やっぱりこんな親しげに呼んだらちょー恥ずかしいよ!
…………ッ!
恥ずかしすぎて思わず下を向いたら、銀一がジト目で見上げていた。
2倍恥ずかしい……。
「君もイオンを頼んだよ?」
「にゃ〜」
しゃがんで挨拶するエドワード王子に対し、銀一は面倒くさそうに棒読みの「にや〜」で応える。
それどころか早くあっちへ行けとばかりに、シュシュと猫パンチを宙にかましている。
銀一め。
「じゃあまたね?」
苦笑いを浮かべて立ち去るエドワード王子。
その背中にシュシュと猫パンチをかまし続ける銀一。やめなさい。
銀一め……。
それにしてもルルが向かっていると聞いて一安心よね?
それに、流石にもう二日酔いは治ってるよね?
「シューリングさん、お願いがあるのですが?」
「なんなりと」
ピクリとも表情を変えずに即答してくるシューリングさん。
この顔をどうにかニンマリ笑顔にさせたい。
「卵とミルク、あとお砂糖って用意できます」
「もちろん。直ぐにご用意いたします。お部屋へお持ちすれば宜しいでしょうか?」
無表情で即答するシューリングさん。
ウフフ。その無表情も今のうちよっ!




