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第百十一話「簡単プリンと表情筋」

 


「イオン様、ただ今お連れ様がご到着されました」


 シューリングさんの声で振り返るとシューリングさんの隣にルルが立っていた。

 ルルはぶすっと不満顔でこちらを見ている。

 ぶすっとしてても私のお古の魔○宅ワンピがよく似合っていて可愛い。

「どうぞ」とルルを中へ入るように促して、シューリングさんは頭を下げて部屋を後にする。

 扉が閉まった瞬間、


「我を忘れてただろっ!」


 ルルはそう言ってポロポロ泣き出してしまった。


「わ、忘れてなんかないわよ……」

「あー、ルルじゃん。まだいたんだ?

 すっかり忘れてたよー」

「…………」


 銀一が嬉しそうに余計なことを言う……。


 いつもなら倍返しで言い返すルルなのに、ヒックヒックと肩を揺らしたかと思うと、大声でわんわん泣き出してしまった。

 言った銀一がオロオロと戸惑っている。


「泣く事ないわよルル。それに私たちがルルを忘れる訳ないじゃない?」

「そ、そうだぞルル。本当は忘れてた訳じゃなくて、プリンに夢中だっただけなんだぞ!? いくら群れでは下っ端だからって、ルルを忘れる訳ないだろう? 」


 銀一くん、余計な言い回ししないの。

 余計にわんわんと拍車がかかっちゃったじゃないの。

 しかし銀一、ルルをすっかり忘れるほどプリン舐めに夢中だったとは……。


「ルル、プリンって美味しいんだよ? イオンが作ったんだよ? あと少しで食べられるんだよ!?」

「…………プリン?」


 お、ルルが泣き止んだ。

 流石銀一くん。ルルのツボを心得ている。

 目に涙をためたルルが私を見上げてくる。


「そう、プリンは美味しいのよう? あと1時間くらいしたら食べられるからね?」

「う、う、う、う……うわぁーん、わんわんわんわん、うわぁーん、わんわんわんわん…………」


 さっきより大泣きされてしまったよ……。


 なんで?


「ギ、ギギだげずぶびびょー。うわぁーん、わんわんわんわん…………」


 そっか。銀一だけ先に食べさせたと思ったのね……。


「ルル、ギギは未だ出来上がってない溢れたプリンを舐めてただけで、本当のプリンは未だ誰も食べてないのよ?

 そしたら最初の味見はルルにしてもらおっかな?」

「…………ほんと?」


 お、ルルが泣き止んだ。

 私も満更ではないらしい。


「本当よ本当。だから一緒に出来上がるのを待ちましょうね?」

「ダメだよそんなのー! ルルは下っ端なんだから食べるのは最後だからな!」

「う、う、う、う……うわぁーん、わんわんわんわん、うわぁーん、わんわんわんわん…………」


 どうすんのよ銀一。

 せっかく泣き止んだのにまた大泣きしちゃったじゃないのよ……。


「ギギ、今日は下っ端とかいいじゃない? 先に食べさせて……」

「ダメだねそんなの。そんな簡単に特例を許したら群れは直ぐに収拾がつかなくなるんだよ。上の者から食べるのは決まりきったことさ。それは譲れないね!」


 にべもない。

 しかし銀一は群れの上下関係にはうるさい。厳しすぎだよ……。

 それにしてもルルの音量が凄いことになっている。


「じゃ、じゃあみんなで一緒に食べましょう?

 誰が先とか言ってないで、そうした方がきっと美味しく食べれるわよ。ね、そうしましょ?」


 銀一にこれ以上余計なことを言うなと目力でアピールしつつ、そう言いながらルルの頭を撫でる。


「そうだ。どうせならシューリングさんも呼んで、みんなで試食会をしましょう!

 そしたら群れとか関係ないでしょ?」

「…………」


 なにやらご不満な様子の銀一くん。

 一気につまらなそうな顔になった。

 ま、シューリングさんがいたら余計なことも話せなくなるから、ここはスルーしておこう。うん。



 >>>



「いやしかし……わたくしなんかがご一緒して本当に宜しいのでしょうか?」

「いいんですいいんです。何より食材を用意してくれたのはシューリングさんですし、どうせならみんなで食べた方が楽しいじゃないですか?」

「そ、それはわたくしの役目でもありますし、そのようなお気遣いはなさらなくとも……」

「いいからいいから。ほら、早く座ってください」


 遠慮してなかなか座ってくれないシューリングさんの肩を押さえ、無理矢理に座らせる。

 小さな丸いテーブルにはプリンが四つ並んでいる。


 左から銀一、シューリングさん、ルルが席に着き、一様にプリリンとしたプリンを目を丸くして眺めている。

 銀一はテーブルの上だけど、今は行儀のことはおいておく。

 何よりマナーに厳しそうなシューリングさんさえ、今はプリンしか見えていないと思う。そのくらい私の手作りプリンはみんなの好奇の目にさらされている。

 しかしみんなの凝視が半端ないな。


 なんだか急に不安になってきた……。


 でもプリンは何度も作ったお菓子だ。

 失敗するにしてもそんなに不味くはならないはず。


「ここの茶色いところはカラメルと言って、少しほろ苦いんですけど、黄色いところと一緒に食べるとこれまた美味しいんですよ」

「イオン様の故郷の郷土料理なのですか?」

「えー……、ま、まあそんなところです……」


 まあそう言うことにしておこう。

 ルルは何も言わずにぶすっとプリンを凝視中。

 って言うより、ルルはあれからなかなか機嫌が直らない。

 よほど寂しかったのか、メソメソしっぱなしなのだ。

 銀一も不貞腐れたような顔で全くもってノリが悪い。

 ま、シューリングさんも質問こそしてきたけど、その表情は相変わらず何処までも無表情。

 冷徹さすら感じてしまうくらいで、今の質問も詰問されてるような心持ちになるくらいの破壊力がある。


 要はみんなプリンを目の前にしてする顔ではない。


 食べたことがないにしても、もっとこうワクワクと言うか、嘘でもいいから嬉しげな顔をしようよ……。


「じゃあいただきましょうか?」


 私の声でそれでもみんなはスプーンを手に取った。銀一以外。

 それぞれメソメソ、ツンツン、カチカチな表情で。


「んーーーっ!」


 一口食べた私は、その美味しさにスプーンを握りしめながら唸ってしまう。


 プリンよプリン!

 上手に美味しくできてる!


 私はこのちょっと硬めな食感が好きなのよ。

 カラメルも絶妙な苦味で相性バッチリで、プリンと超絶キャラメリゼーって感じ。あ、超絶からまるぜー、ね。

 こっちに来てから甘いものなんかほとんど口にしてなかったせいか、この美味しさは感動に値する。まさに美味しさ爆発。プリン最高ー!

 おっと。一人で盛り上がってしまった……。


 ふとみんなの反応が気になり顔を上げる。


 メソメソのルルは目をまん丸にしたかと思ったらギュッと目を瞑ってほっぺに手を当てている。

 銀一は始めチロチロ舐めて首を傾げていたけど、パクリとかじりついたらホニャランとした目で私を見てきた。

 あとはネコまっしぐら。

 プリンは飲みものじゃないと理解してくれたようね……。

 そしてシューリングさん。

 彼女の反応が一番興味深い。


 ピク、ピク、ピクピクピクピクっと、頬の辺りが高速で痙攣を起こしている。

 まるで毒物でも服用してしまったかのよう。


「だ、大丈夫ですか、シューリングさん?」

「大丈夫です。ただ余りにも美味しかったものですから、喜びが表に出てきそうなだけでございます」

「はぁ…………」


 出そうよ、喜び。

 そのピクピク、ちょっとしたホラーだし……。


「おかわり欲しいのだ!」

「にゃー!」


 あっという間に食べてしまったみたいで、ルルが元気にお皿を差し出してきた。

 負けじと銀一もズズっとお皿を押し出してくる。


「また作ってあげるから、今日は二つまでにしときなさいね?」

「えーっ!!」

「にゃー!!」


 二人のブーイングを受けつつ私は立ち上がり、プリン型の器の周りを軽く押してからお皿の上に逆さに載せる。


 そしてくるりとその場で一回転。


「わーっ!!」

「にゃー!!」


 二人からの歓声にイオンスマイルで応える。

 まずはルルに渡して銀一の分も一回転。

 まさに氷上に咲く花と化したスピンを披露する。


「にゃー!!」


 歓声は一人に減ったのは仕方ない。

 ルルは既にプリンに夢中だから。


「あ、あのう……。わ、わたくしももう一つ……」

「もちろんです!」


 ピク、ピクピクピクピクピクっと頬を痙攣させるシューリングさん。


 どんなにホラーな美味しい顔でも、やっぱり美味しいと思ってくれるのは嬉しい。



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