13章 スクールライフ 三時限目 サボり 続き
トスっと軽い音を立てて、三日月等の切っ先が地面に刺さった。
ぜえぜえと耳障りな自分の荒い呼吸音の実が響く中、最後の悪霊が消えていった。
ずるりと力が抜け、その場にへたりこむ。
だが、その前に強く腕を掴まれ支えられた。
和火は目の前にいるから、この手は慧のだろう。
「……」
言葉が出ない。
背後の慧からの殺気のような気配と和火の般若のような形相にぽたぽたと
さっきとは別の意味の汗がしたたり落ちる。
和火は両刀をびゅっと一振りすると、鮮やかな手つきで鞘に戻した。
手早くそれを布袋に入れると、彼は背負った。
「……」
沈黙をこれほど恐ろしいと思ったことはない。
いつもなら、和火から、ばかなめことか、慧から、うつけとか言われるはずなのに。
怖い。
沈黙が怖すぎる。
何がいけなかったのだろうか。
悪霊を一人で全部倒してしまったことだろうか。
慧の制止を聞かなかったことだろうか。
結界を張らなかっただろうか。
心当たりがありすぎて、どれが原因なのかわからない。
いや、全てが原因なのか。
「……おまえは」
和火の平坦な声におおげさなほど肩が跳ね上がる。
何を言われるんだろう。
「もう少し後になってから教室に戻れよ。
その汗じゃ、怪しまれるから」
そう言われて初めて、自分がサウナに入ったように汗をかいていることに気付いた。
あまりの汗に制服のシャツが肌に張り付いている。
極度の緊張と運動量のせいだろう。
たしかに秋にこんなに汗びっしょりになっていると怪しまれるだろう。
「……保健室行っとけよ」
和火の視線が撫子の膝に向いている。
見れば、さっき膝を地面についた時にできた擦り傷から血がにじんでいた。
これなら、体育の時に擦りむきましたと保健室の先生には言い訳ができるだろう。
……それよりも、自分は生理です、と嘘をついた和火の方が心配なのだが。
しかし、止める間もなく和火はすたすたと教室の方に歩きだした。
お礼も言えなかった。
「……さて」
低いハスキーな声。
撫子はピキッと固まった。
ギギギと音がしそうな動きでぎこちなく後ろを見ると、
視線だけで人が殺せそうな慧の眼光が撫子を射ぬいた。
「おれは、なんと、言った?」
ありえない程深く慧の眉間にしわが寄っているのから目が離せない。
一言一言区切るように言われて、撫子はひたすらガタガタ震えるしかない。
ぽたぽたぽたぽたぽたぽた、と自分の汗が落ちる音が聞こえてきそうだ。
「まっままま、待てと……」
「その前」
「は、早く終わる……」
「その前」
「け……っかいを張れ……と……」
「そうだな。
おれは結界を張れと言った。
よくわかってんじゃねえか。
おれは一言も、おまえ一人でやれ、とか、言霊を使いまくってヘロヘロになれとも
言ってねえ。そうだな」
「お、おっしゃる通りで……」
「…………………んの、うつけぇぇぇぇぇええええええええええっっっっ!!」
「ひ、ひぇぇぇえええええええええええええっっっ!!??」