あと少し
村の北側へ回っていた薫は、騎士の一人とともに家々の間を走っていた。
最後まで残っている住民がいないか確かめるためだ。すでに大半の住民は街道へ向かっていたが、家の中や建物の裏手に取り残された人がいないとは限らない。
「カオル! そっちの家はどうだ!」
「誰もいません! 次、奥を確認します!」
薫は返事をしながら、石垣の向こうへ目を向けた。
そのとき、建物の裏手から鈍い衝突音が響いた。
「ぐあっ……!」
続いて聞こえたのは、人の悲鳴だった。
薫はすぐに方向を変えた。
角を曲がると、騎士の一人が魔物に捕まっていた。大型の獣に似た魔物が後ろ脚で立ち、太い前脚で騎士の肩口を掴んでいる。騎士は剣を振ろうとしていたが、腕を押さえ込まれて上手く動かせない。
足元には落とした盾が転がっていた。
「くっ……離せ!」
魔物が牙を剥き、騎士の首元へ顔を近づける。
……まずい。
正面から飛び込めば、騎士まで巻き込むかもしれない。
薫は魔物の位置と周囲の建物を確かめ、左腕を持ち上げた。
狙ったのは、魔物の斜め後ろにある石造りの柱だった。
籠手の機構を作動させる。
金属音とともに鉤が射出され、柱の突起へ引っ掛かった。薫は一度軽く引いて固定を確かめると、巻き取りを使って身体を前へ運んだ。
靴底が地面を擦り、左肩に強い力が掛かる。
巻き取りに引かれて魔物の側面を抜け、柱へ足をついた。左肩に強い負荷が掛かったが、そこで速度を落とし、向きを変える。
騎士を掴んでいる前脚が、すぐ目の前にあった。
「……っ!」
剣を振り抜く。
刃が魔物の腕へ食い込み、騎士を掴んでいた前脚が緩んだ。
「今です! 離れて!」
騎士は咄嗟に身を屈め、魔物の腕から抜け出した。
しかし、魔物はまだ倒れない。
痛みに吠えながら、今度は薫へ向かって腕を振り下ろしてきた。
「……うわっ!」
薫は身体を引き、すんでのところで攻撃を躱した。爪が地面を抉り、跳ねた土が頬に当たる。
剣を構え直したものの、魔物の方が先に体勢を立て直しかけていた。
その横合いから、槍が突き出された。
「カオル、下がれ!」
薫とともに家々を確認していた騎士が駆けつけ、魔物の脇腹へ穂先を突き入れた。
魔物が振り向く。
薫はその隙に距離を取り、剣を構え直した。
「大丈夫ですか!」
「ああ、動ける!」
捕まっていた騎士も落とした剣を拾い、二人の後ろへ下がった。
薫たちは互いの位置を確かめ、魔物を建物の間へ追い込んでいく。騎士が槍で牽制し、薫が横へ回る。魔物が薫を追おうとすれば騎士が穂先を向け、騎士へ飛びかかろうとすれば薫が足元を狙った。
何度か攻撃を交わした末、槍が魔物の胸元へ深く突き刺さった。
相手が大きく身体を仰け反らせ、そのまま地面へ倒れる。
薫はすぐには近づかず、相手が動かないことを確かめてから剣を下ろした。
「……ふぅ」
「助かった、カオル」
捕まっていた騎士が、肩を押さえながら歩み寄ってきた。
「いえ、無事でよかったです。怪我はありませんか?」
「ああ、肩を少し痛めた程度だ。……まさか、あれほど力が強いとはな」
「一応、紗良さんたちのところで診てもらった方がいいと思います」
「そうするよ。お前も大丈夫か?」
「はい。俺は特に……」
そこまで答えて、薫は左腕を軽く動かした。
先ほど鉤縄を使った際に、少し強く引っ張られた。痛めたわけではなさそうだが、肩には重さが残っている。
「……ちょっと肩が疲れたくらいです」
「そうか。無理はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
薫は籠手の機構を確かめた。
鉤縄は問題なく巻き取られている。目立った破損もないが、細かな土が付着していた。
……後でちゃんと点検しないとな。
「それにしても……」
騎士が倒れた魔物へ目を向けた。
「妙だな。普通なら、あそこまで傷つけば逃げようとするはずなんだが」
「……そうなんですか?」
「ああ。少なくとも、あれほど執拗に襲いかかってくるものは珍しい」
薫も魔物へ視線を向けた。
確かに、これまでの任務で遭遇した魔物とは様子が違う。傷ついても怯まず、逃げようともしない。
まるで、目の前の相手を襲うこと以外、考えていないようだった。
「……嫌な感じですね」
「ああ。早く避難を終わらせよう」
薫は頷き、騎士たちとともに再び走り出した。
◇
救助隊が村の外へ避難する住民たちをまとめ始めた頃、紗良は街道脇に設けられた応急処置の場所で、負傷者の治療に追われていた。
「次の方、こちらへお願いします!」
騎士に支えられ、一人の兵士が運ばれてきた。
鎧の肩口が裂け、その下から血が滲んでいる。
「……っ、すまない。少し深くやられた」
「大丈夫です。まず座ってください」
紗良は兵士を落ち着かせながら、慎重に傷口を確認した。
出血は続いている。傷も浅くはないが、兵士の意識ははっきりしており、受け答えにも問題はなかった。
「少し痛むかもしれません。動かないでくださいね」
紗良は傷口を押さえていた布を外し、治癒魔法を使い始めた。
「《ヒーリング》」
淡い光が手元に集まり、傷ついた部分へ広がっていく。
裂けていた皮膚が少しずつ閉じ、流れ続けていた血が止まった。
兵士は安堵したように息を吐いた。
「……助かった」
「いえ。でも、今日はもう無理をしないでください。傷が塞がっても、失った血や疲労までなくなるわけではありませんから」
「ああ。分かった」
紗良は兵士の顔色を確かめ、近くの騎士へ休ませるよう伝えた。
そのとき、隣で荷物を整理していたクラスメイトが声を掛けてきた。
「白石さん、こっちの包帯、もうあんまり残ってないみたい」
「ありがとうございます。予備は荷車の方にあるはずなので、確認してもらえますか?」
「分かった。取ってくる!」
生徒は頷くと、荷車の方へ駆け出していった。
紗良はその背中を見送り、次の負傷者へ目を向ける。
戦闘が始まってから、すでに何人もの騎士が運ばれてきていた。
肩を切られた人、転倒して足を痛めた人、魔物に突き飛ばされて打撲した人。怪我の程度はさまざまだが、全員を一度に治すことはできない。
誰を先に診るべきか。どこまで治療すれば安全に移動できるか。
それを考えるだけでも、思った以上に神経を使った。
「……お姉ちゃん」
小さな声が聞こえた。
振り返ると、幼い女の子が母親に手を引かれて立っていた。
頬には涙の跡が残り、膝には擦り傷ができている。避難の途中で転んでしまったらしい。
「すみません、この子が……」
「大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
紗良は周囲の負傷者たちへ目を向けた。今すぐ処置が必要な人はひとまず診終えているが、いつ次の怪我人が運ばれてくるかは分からない。
残っている魔力にも、余裕があるわけではなかった。
それでも、目の前の女の子は膝を押さえ、不安そうにこちらを見上げている。
「……ちょっとだけ、見せてくださいね」
紗良は女の子と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「膝、痛いですか?」
「……うん」
「そっか。怖かったですね」
女の子は小さく頷いた。
紗良は傷についた汚れを丁寧に取り除き、治癒魔法を使った。
膝の擦り傷が、ゆっくりと塞がっていく。
「……あれ?」
女の子が不思議そうに自分の膝を見つめた。
「もう、痛くない……」
「よかったです。でも、今日はあんまり走らないでくださいね」
「……うん!」
紗良が微笑むと、女の子もようやく小さく笑った。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして」
女の子は母親に手を引かれて歩き出したが、数歩進んだところで立ち止まった。
そして、紗良の方を振り返る。
「お姉ちゃんも、気をつけてね!」
「……はい。ありがとうございます」
紗良は小さく手を振った。
女の子の姿が人混みの向こうへ消えると、ようやく一度だけ深く息を吐いた。
……少し、疲れてきたかもしれませんね。
治癒魔法を使い続けた影響か、身体が重い。
それでも、まだ治療を必要としている人はいた。
「白石さん! 包帯、持ってきたよ!」
先ほどのクラスメイトが戻ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「ほかに何か手伝えることある?」
紗良は少し考え、近くの負傷者たちへ目を向けた。
「それでは、治療が終わった方に水を配ってもらえますか? それから、立ち上がるときには必ず声を掛けてほしいんです」
「うん、分かった!」
生徒はすぐに水の入った容器を持ち、休んでいる騎士たちの方へ向かった。
紗良も次の負傷者へ向き直る。
自分一人では、できることに限界がある。
けれど、手伝ってくれる人がいるだけで、少しだけ余裕が生まれる。
「次の方、どうぞ」
紗良は再び治療を始めた。
◇
避難が進み始めても、魔物の襲撃は途切れなかった。
村から離れた街道は、荷車と住民たちで埋まりつつあった。その両側を騎士たちが固め、薫たちも交代しながら防衛に加わっている。
すでに何度も魔物と交戦していたため、皆の顔には疲労が浮かんでいた。
「……はぁ、はぁ……」
颯真は額の汗を拭い、剣を握り直した。
さっきから、何体倒しただろう。
正確に数える余裕はなかった。
風を纏わせた剣は確かに強力だが、何度も振り続ければ腕が重くなる。魔力の消耗も無視できない。
それでも、魔物は次々に姿を現した。
「ソウマ! 少し下がれ!」
近くの騎士が声を掛けてきた。
「ここは我々が引き受ける! お前は少し休め!」
「……すみません!」
「気にするな! さっきから十分働いてくれている!」
騎士は笑って答え、盾を構え直した。
颯真はその背中を見てから、数歩後ろへ下がる。
息を整えようとしても、なかなか呼吸が落ち着かない。
「颯真くん!」
美琴が駆け寄ってきた。
「大丈夫? ちょっと顔色悪いよ」
「ああ……大丈夫。まだ動ける」
「もう、そういうことじゃなくて!」
美琴は少し眉を寄せたが、すぐに杖を持ち上げた。
「少しだけ補助するから。無理はしないでね」
「……助かる」
美琴の魔法を受け、颯真は軽く腕を動かした。
動きやすくはなった。
けれど、疲労が消えたわけではない。
そのことは、美琴も分かっていた。
「……ちゃんと休んでよ?」
「ああ。分かってる」
颯真は頷き、剣を鞘へ戻して水筒を手に取った。
少し離れたところでは、綾芽が騎士と連携しながら魔物を退けていた。
何度も剣を振り、足を運んでいるうちに、呼吸は荒くなっている。それでも、無理に攻め込むことはしなかった。
騎士が盾で魔物の注意を引き、その隙に間合いへ入る。刃を通せる瞬間だけ踏み込み、すぐに距離を取る。
以前の初陣では、命を奪うことに一瞬ためらってしまった。
今でも、その感覚が完全になくなったわけではない。
それでも、目の前にいる住民や仲間を守るために、剣を振ることはできる。
「……っ!」
迫ってきた魔物の攻撃を避け、綾芽は抜き放った刃で相手を斬り伏せた。
その直後、膝がわずかに揺れる。
……疲れてる。
綾芽は一度息を吐き、剣を握り直した。
「アヤメ! こちらへ!」
騎士の声に顔を上げる。
「はい!」
綾芽は短く答え、再び仲間のもとへ駆け出した。
一方、薫は隊列の後方と側面を行き来していた。
飛び出してくる魔物を牽制し、住民が遅れていないか確かめる。道の端に取り残された荷物があれば、通行の邪魔にならない場所へ退けることもあった。
戦いながら周囲を見ていると、思った以上に気を遣う。何より、敵だけを追いかけてはいられなかった。
「カオル! そちらはどうだ!」
「今のところ大丈夫です! でも、後ろからまだ来てます!」
「分かった! こちらも警戒を続ける!」
薫は騎士へ返事をし、再び周囲を見回した。
街道の脇にある木々の向こうで、何かが動いた気がした。
剣を握り直す。
……まだいるのかよ。
さすがに、少し疲れてきた。
左腕の籠手も何度か使用しており、肩には重さが残っていた。鉤縄の巻き取り機構には、土や細かな木屑も付着している。
できれば一度、落ち着いて点検したいところだった。
「薫!」
聞き慣れた声に振り返る。
そこには、騎士と一緒に荷物を運んでいたクラスメイトがいた。
「こっちの住民は、もうほとんど移動できたって!」
「あ、本当?」
「うん。あと少しで全員、橋の方へ向かえると思う」
「そっか。よかった」
薫が笑うと、相手も少しだけ表情を緩めた。
「……いやぁ、結構疲れたな」
「うん。思ったより大変だったね」
「でも、あのおばあちゃんも無事に逃げられたしさ。手伝えてよかったよ」
「そうだね」
薫は頷いた。
クラスメイトの肩には、土や埃が付着していた。額にも汗が浮かんでいる。
魔物と直接戦っていなくても、住民を避難させるのは楽な仕事ではなかったのだろう。
「おーい! そっちもそろそろ移動するぞ!」
近くの騎士が声を掛けてきた。
「あ、はい!」
生徒は返事をしてから、薫へ手を振った。
「じゃあ、俺は戻るわ。薫も気をつけろよ!」
「うん。そっちもね」
生徒は頷き、騎士とともに荷車の方へ戻っていった。
薫はその背中を見送ってから、前方へ視線を向けた。
住民たちの列は、少しずつ先へ進んでいる。
……あと少し。
もう少しで、橋に着くはずだ。
◇
やがて、街道の先が大きく開けた。
山肌に沿って続いていた道が緩やかに曲がり、その向こうに深い渓谷が姿を現す。
そして、その両岸をつなぐように架けられた大きな橋が見えた。
ローデン橋だ。
「……見えた!」
先頭にいた騎士が声を上げた。
住民たちの間にも、安堵したようなざわめきが広がる。
橋の向こうへ渡れば、避難先へ続く道がある。少なくとも、今いる村の周辺からは離れられるはずだった。
「よし! このまま橋まで進むぞ! 住民を先に渡らせろ!」
隊長が指示を出し、騎士たちが再び隊列を整え始めた。
荷車が進み、人々がゆっくりと橋へ向かっていく。
途中で足を止めてしまった老人には、騎士とクラスメイトが肩を貸した。小さな子どもを連れた家族は、荷車の脇を通って先へ進んでいく。
「大丈夫です! もう少しですよ!」
「ありがとうございます……本当に……」
住民たちの声に、生徒が何度も頷いていた。
魔力の異常を調べるため救助隊に同行していたセドリックも、少し離れた場所で騎士たちと話していた。
少し離れたところでは、先ほどまで戦っていた騎士が兜を外し、汗を拭っていた。
「……ようやくここまで来たか」
隣の騎士が笑う。
「ああ。だが、まだ橋を渡りきっていない。気を抜くなよ」
「分かってるさ」
二人は短く言葉を交わし、再び隊列の警戒へ戻った。
薫は少し後方で足を止め、橋を見上げた。
思っていた以上に大きい。
橋の下には深い谷が広がり、はるか下方から水の流れる音が微かに聞こえている。
……高。
古い石造りの橋は、思っていた以上に大きかった。両側には欄干が続いているが、向こう岸まではそれなりの距離がある。
これだけの人数が渡るとなれば、少し時間がかかりそうだった。
「薫!」
後ろから颯真が歩いてきた。
「どうだ? 何か気になることでもあるのか?」
「ああ、いや……結構高い橋だなって」
「……ああ。確かにな」
颯真も橋の下を覗き込み、少し顔をしかめた。
「落ちたくねえな、ここは」
「うん。確かに」
二人は小さく笑った。
「そっちはどう? 結構疲れてるんじゃない?」
「まあな。さっき少し休ませてもらったけど、まだ腕が重い」
颯真は剣を握る手を軽く動かした。
「薫は?」
「俺も結構疲れたかな。鉤縄も何度か使ったし」
「大丈夫なのか、それ」
「うん。今のところはね。戻ったらちゃんと点検するよ」
「そうしろよ。あれ、結構無茶な使い方してるだろ」
「……まあ、ちょっとね」
薫が苦笑すると、颯真も呆れたように笑った。
少し離れた場所では、大地と慧が並んで歩いていた。
「……腹減った」
「お前、さっきからそればっかだな」
「だってよ、朝から動きっぱなしだぞ!」
「俺だって同じだっつの」
「帰ったら何か美味いもん食いてえなぁ」
「……それは賛成」
慧が答えると、大地は嬉しそうに笑った。
その横を、紗良と灯、美琴が歩いてくる。
「二人とも、少しは静かにできないの?」
美琴が呆れたように言った。
「なんだよ、腹減ったくらいいいだろ!」
「声が大きいの!」
「……ふふっ」
灯が小さく笑う。
紗良も微笑んだが、その顔には疲れが見えた。
「みなさん、橋を渡ったら少し休めるといいですね」
「そうだね。……紗良さんも、結構疲れてるよね?」
薫が尋ねると、紗良は少し困ったように笑った。
「はい。でも、榊くんたちに大きな怪我がなくてよかったです」
「……そうだね」
薫は頷いた。
実際には、何人もの騎士や住民が怪我をしている。それでも、今のところ救助隊は住民の避難を進められていた。
誰もが疲れている。
けれど、もう少しで危険な場所から離れられる。
そう思えるだけで、少し気持ちが軽くなった。
そのときだった。
「……待て」
少し離れた場所で、セドリックが足を止めた。
低い声だった。
近くにいた騎士が振り返る。
「セドリック殿?」
セドリックは答えず、後方の森へ目を向けていた。
薫もその様子に気づき、視線を向ける。
「……セドリックさん?」
「……妙だ」
セドリックが眉を寄せた。
「先ほどから魔力の流れが乱れているのは承知していた。だが、これは……」
その言葉が終わるより早く、森の奥から何かが砕けるような音が響いた。
ばきばきと、太い枝が折れる音。
続いて、重いものが地面へ叩きつけられるような衝撃が伝わってきた。
「……何だ?」
颯真が振り返る。
薫も剣へ手を掛けた。
木々の向こうで、鳥の群れが一斉に飛び立った。
その直後だった。
聞いたこともない、甲高い咆哮が森を震わせた。
獣の唸り声とも、人間の叫び声とも違う。
耳を塞ぎたくなるほどけたたましく、それでいて、どこか苦しげな響きが混じっていた。
「……っ!」
薫は思わず肩を強張らせた。
近くにいた住民たちも足を止め、不安そうに振り返り始める。
「な、何だ今の……?」
「魔物か……?」
騎士たちが武器を構え直す。
荷車の近くでは、先ほどまで避難誘導を手伝っていたクラスメイトたちも森の方を見つめていた。
「……今の、何だ?」
「分かんない。……でも、近くないか?」
二人は顔を見合わせた。
そのすぐそばで、騎士が盾を持ち直す。
「お前たちは住民についていろ。ここは我々が警戒する」
「……はい!」
生徒たちは頷き、住民の列へ戻ろうとした。
だが、その足取りには先ほどまでの軽さがなかった。
セドリックは険しい表情のまま、森の奥を見つめていた。
「全員、警戒せよ!」
隊長の声が響く。
「住民の避難を急がせろ! 後衛は橋へ向かえ!」
騎士たちが動き出した。
薫は剣を抜き、颯真と顔を見合わせる。
「……颯真」
「ああ」
短い返事だった。
次の瞬間、森の奥で再び木々が大きく揺れた。
何かが、こちらへ近づいてきていた。




