ルクス・サンクチュアリ
放課後、窓から眩しく夕日が照りつける。伸びる影は、早く帰れと急かされているような気がして、ヤッキー落ち着かなかった。しかし、足子さんは教室で待っててといったきり、ずっと2人でいる。理由は聞かなかったが、足子さんが何かをしようとしているのは間違いなかった。この静かな沈黙がヤッキーをさらに不安に陥れ、冷や汗が止まらなかった。
ふと足音が聞こえてくる。誰か走って来る。音が近づくにつれて鼓動が速くなった。次の瞬間、ニアが急いで教室に入ってきた。
「あれ教室で男女2人なんて、これからなんかすんの?」
「バカ言え!」
「あ、そうだ、なんとなく君たち暇そうに見えるから一緒に帰らない?」
「分かりました。」
唐突に足子さんは会話に割り込む。ニアがこの教室に来たことが分かっていたと言わんばかりだ。おそらくまた超能力を使ったのだろう。
ヤッキーとニアは、教師たちの悪口で談笑したが、足子さんは、黙ってついてくるだけだった。
そして昇降口に着くと、足子さんは下駄箱から靴を取り出して地面に置いたまま、動かなかった。
「足子さん、どうかした?」
「今日は拭いてくれないの?」
ヤッキーが呆れてる側でニアは、どうしたどうした?、と茶化す。彼は、煽るニアとじれったく動かない足子さんに腹を立てた。
「ほら、ウエットティッシュ。自分で拭け!」
そっぽを向きながら、渡した。彼女は礼も言わずに、足の裏を拭いた。その片足だけ上げ、健気に自分の足の裏を毛づくろいするような様子に、彼女のかわいさを見出した。その後、ローファーを足に突っ込み、手でウェットティッシュを丸め込み、手の中で消した。
その後、校門前の交差点にニアがいた。ニアのもとに近づくと、彼女は唐突に家に泊まれよと誘ったので、ヤッキーは驚いた様子で応える。
「普通、女の子の家に泊まるなんて有り得ないだろ。」
「いいんだよ。なんか君たちと一緒なら安心できそうっていうかね。」
「足子さんは大丈夫なのか?」
「構いはしません。」
ヤッキー一同は、校門を左に曲がり、ニアが住んでいるという近くのマンションまで、夕暮れの中を歩いた。鬱蒼とした森が影を作る学校沿いを3人並んで歩いた。
「ニアの家って近いのか?」
「まあな。裏手を真っ直ぐ行った先のアパートだ。それより、足子は上履き履かないのか?」
「上履きを瞬間移動で持ってくればいいじゃん?」
「ヤッキー何言ってんだ?」
「あ、いやぁ何でも?」
ニアが足子さんの超能力のことを知らないことを忘れ、うっかり話してしまった。ただ、足子さんは気にせず淡々と答える。
「仮に上履きをどこかから持ってこようと思ったから、それはれっきとした窃盗だ。原子から組み立てることはできるが面倒。」
「いいのかそんなこと話して?」
「何わけの分からないことを話してんだ?」
「上履きの話をしてたんでしょう?」
淡々と答える足子さんに、ニアはキョトンとしていた。どうも話が頭に入ってなかった様子だ。
「まぁ面倒な話はさておきさ、もう着いたよ。」
学校の敷地の側道の先の森に囲まれた道の脇にヒッソリと佇む3棟ほどの建物があった。ニアに先導されるように、一番手前のA棟の建物の二階のすぐ手前のドアに案内された。
「ここだよ。あがって。」
ヤッキーもついていこうとすると、足子さんが自分を引っ張り、学校にいたときに唱えた呪文を再度唱えた。
「ルクス・サンクチュアリ」
すると、ドアが光りだした。上がろうとするニアは、なんだ?とひと言つぶやいたが、気にもとめず、上がっていった。
「もういいのか?足子さん。」
「構わないです。」
ヤッキーもお邪魔しますとひと言断って、靴を脱いで上がったが、自分が裸足であることに気づいた。朝から靴下をはずなのに、おかしいと思い、すでにローファを脱いで裸足で上がった足子さんに問いかけた。
「なんで僕は裸足なんだ?」
「それは靴を脱いだから。」
「そういうことじゃなくて、僕は朝から靴下を履いていた!」
「それは、ルクス・サンクチュアリの副作用。ニアが行おうとしていた危険な行為に対する代償として、あなたの靴下が消えてしまったというだけで済んだ。」
「一体何だそれは?」
「それは、一般的な高校生の男女が行うこと。でもニアは行き過ぎてしまうから、私がこうやって抑えてる。」
「何ブツブツ言ってんだ?早くリビング上がれよ。」
ニアの一言にハッとしたヤッキーは、足子さんとともに、夕日が差すリビングへ上がっていった。ただヤッキーには一つ引っかかりがあった。それは、一旦教室で待って、ニアと引き合わせたことだ。足子さんの心のなかでは何を思っているのか、ますます分からなくなった。




