アシコ・モラル
学校はまだ2日目であるのに、すでに行くのがキツくなっていたヤッキーは、何気なしに足子さんに話しかけた。
僕も学校に行くのダルいよ。
それはあなたの身体が慣れていないだけ。人が動けなくなるのは、その時と、希望を失った時のみ。
まぁお前は、100年時間を止めたことがあったもんな。
そうね。
二人は一晩共にしたため、短い間であったにもかかわらず、親しみを感じ始めていた。静かで穏やかな時を過ごしていると、急に一人の女子が割って入ってきた。
よう。二人はもう仲良くなったのか?
あ、君は?
私?三浦 丹愛。ニアって呼んでいいよ。
入学早々ブレザーを脱いで素足で上履きを履き潰す、女子にしてはかなり背の高いショートヘアーのオトナっぽい子だった。ニアの土足で上がり込むような遠慮のなさに、戸惑いを感じたが取り直した。
僕は焼里、ヤッキーでいいよ。
私は足子さん。
彼女の唐突な一言に、僕は呆気にとられてしまった。自分のフザケたニックネームを堂々と言う人は初めてだった。改めてこの子には普通が通用しないのだと思わされた。一方ニアは大笑いしていた。
フハハハハハ!だったら足子って呼ぶよ!これからよろしくね!
彼女は二人の肩を叩いて、まだ笑いを隠しきれない様子で、自分の机へ帰っていった。彼は、ニアという名前に悪魔のような印象を受ける。親に勝手に着けられた名前で申し訳なかったが、前世は悪魔が何かだったのかさえ感じられた。ふと、足子さんのことを見てみると、何かぶつぶつ言っているようだったので、耳をすませてみた。
悪魔の再来・・・排除せねば・・・
彼女はまた自分の妄想に浸っているようだったが、昨日の普通ではない普通の出来事を目撃してしまっただけに、何かあるのではと考えてしまう。とりあえず、彼女にもう授業だぞ、と声をかけたら、ルクス・サンクチュアリと私に手をかざした。すると手が少しずつ光りだしたので、足子さん!ととっさに声をかけると、何事もなかったかのように、授業の準備を始めた。
突然のできごとに、落ち着きを取り戻せないまま、長きにわたる退屈な話を延々と聞かされ、しばしの間解放の時間が与えられると、足子さんは廊下へ出た。
先ほどの出来事はさておき、ヤッキーは足子さんが普段どういう生活をするのか好奇心が湧いてしまったので、付いていくと、裸足の間トイレのタイルに足を踏み入れて消えた。汚くないのだろうか想像すると、彼女の足の裏が頭の中に思い浮かんできて、豆粒のような指一つ一つや美しいアーチを彼女の足裏に見いだして、生の足裏を見たいという危険な興味を抱いてしまった。しばらくすると、足子さんは出てきた。足子さんが歩いた跡の床に濡れた足跡が形成されていた。
あ、ヤッキー、こんななんの変哲もない柱の前で突っ立ってるということは、覗きですか?
上目遣いで、こちらをじっと見てくるので問い詰められているような気がした。
いや、それよりも、裸足で汚くないか?
なにがでしょう?
トイレに入ったことだよ!それに床も濡れている。
彼女は特に裸足にトイレに入ったことなど気にもとめず、急にしゃがみ込んだ。自分のすでに水を吸って白くなった廊下の足跡をじっと見つめていた。
人間の足跡、興味深い。
自分の足跡だろう。
足跡図鑑には人間の足跡は載っていないから、こうして学校で見られるのは貴重なんです。
動物じゃあるまいし。
彼女には、綺麗とか汚いとか、人間とか動物とか、そういう境界が曖昧らしい。だから裸足でも平気でどこまでも行くのだとヤッキーは気づいた。そして彼女に何か大事なことを教えてやらないと、いずれ危険なことをしでかすのではないかと危機感を抱いた。




