足子さんの正体
ふと我に返ったヤッキーは、足子さんに問いかける。
君は一体何者なんだ?
私、ごく普通の女子高生だけど。
いや、あれは普通じゃないよ!
じゃあ普通って何?
それは、まぁいろいろあるだろうけど。
そんなことより、帰りましょう。
ヤッキーは彼女からの問は、彼を深く悩ませた。それは学生がワイワイと行き交う商店街ですら、彼の目には入っていなかった。足子さんはついてくるだけで、何も話はしなかった。それは駅でも同じだった。男女の高校生が二人並んでいるにもかかわらず、周りから見ても他人行儀に映ったほどだ。彼は考え疲れて、彼女と共に電車が来るまで立ち尽くすだけだった。彼女は何を考えているか分からないし、すでに空想のなかで踊っているのかもしれない。ただ、二人は沈黙の時を過ごした。
しばらくして駅の案内放送がなり、列車が到着した。中に入ると椅子にはぎゅうぎゅうに人が詰め込まれていた。二人は、車両の真ん中に立った。端から見れば、素足のJKに男子高校生という今夜なにかありそうなカップルに見えるだろう。ヤッキーは、まんざらでもない様子だ。女子と共にいるというくすぐったさは時間を忘れさせた。ただ、足子さんには、なぜ人にジロジロ見られるのか、また気になりだしていた。
ふととある駅に到着し、前の席が空いた。すると、足子さんはそこに座り、ヤッキーは一人で立った。彼は、彼女の無神経さには呆れたが、余韻だけは残り、それだけで十分間を持たせられた。
そして、ヤッキーの最寄り駅に着き、駅を降りると、彼女もついてきた。
駅同じだっけ。
違う。2駅手前。
どこまでもついてくるのか?家には家族がいて無理だぞ?
私は構いません。
彼女の面倒くささに呆れると同時に、途方に暮れた。ついに、彼は、ヤケになって彼女に言い放った。
しょうがない!じゃあ公園で野宿するか?
構わないよ。
本当かよ!?
ヤッキーは彼女のどこまでも執念深く、どこまでも節操のなさに、恐怖すら感じた。ただ、彼女の意思は変えることが面倒になってしまったので、じゃあ、ついてこい、と彼女に放ち、公園に案内した。そこは草だらけで、タイルのはがれた公衆トイレと、消えかかった電灯があるのみの荒れた広場だった。ベンチはあるが、たばこの吸い殻などが挟まり、黒ずんでいた。
こんなところで一晩明かすのか?
問題ない。
時間を止められるなら飛ばすこともできるだろ?
可能だが、その間の睡眠時間を確保できない。
寝たいのか?
睡眠時間を取れないと、体の運動に支障をきたすので。
しょうがない。とりあえずベンチに座るか。
二人は再び沈黙の時を過ごした。ヤッキーはただ黙っているだけでは仕方なかったので、参考書を読んだ。英単語も100語くらい覚えた頃、ふと騒ぎ声を出しながら歩いてくる複数人らしい人物が近づいてきた。ここは線路沿いの雑木林の一角にあるので、男女でいたら何をされるか分からないと、ヤッキーは不安を覚えたが、ふと彼女は、彼の右手を触れた。間もなく歩いてきたのは、スケボーを持った3人組のチンピラ連中だった。なにやら下品なことを口々にしていたが、こちらには気づいていない様子だった。
足子さん!どういうこと?
ディメンション・チェンジ。私たちは彼らとは別の次元にいる。だから、私たちには彼らが見えるけど、彼らにはベンチすら確認できない。
スケボーで滑って遊んでる彼らのうち、一人がこちらへ滑ってきた。僕はとっさに身を縮めるが、彼は、空間を回り込むようにして広がって消えてしまった。他の連中は、確かに人が目の前で消えたのを見てしまったので、ものすごい形相で走って帰ってしまった。
ど、どういうこと?足子さん?
3次元の人間が4次元の世界に誤った形で干渉すると、ああやって霧散する。彼はもとには戻れない。
目の前で人が消えてしまったことに彼は恐怖してしまった。人の儚さというものがまざまざと心に焼き付いてしまった。
こ、これって人殺しじゃないよね。
一種の神隠し。それに周辺のカメラから、私たちの存在は消しておきました。
いつの間に!?
所詮犯罪など、人の行為に対する尺度でしかない。つまり、行為さえなかったことにできれば、それは罪にはならない。
彼女の独特の倫理観に、ただ黙っているしかなかった。そして、なぜ彼女が裸足でいても平気なのか、理解した。さらにもう一つ、引っかかりがあることを聞いてみた。
あのさ、超紐理論ってあるじゃん?
知っています。
君が別次元に行けるっていうなら僕にも見せてくれよ。
分かりました。
彼女がそういった瞬間、目の前が真っ白にぼやけ始めた。その先にフラクタル構造の薔薇の模様がうっすらと見えた。ただ空間を漂うなかで、その存在に畏怖の念とその無限性を体感し、そして、この空間と一体となった。急にガクッと体が落ちる感覚がしたと思ったら、目の前は公園だった。
もう学校に行く時間。
え?
気付いたら彼女は目の前に立っていた。そして、すでに朝だった。




