永遠の宵闇
「ヤッキー、なぜここにいるのですか?」
「そりゃ、部活の連中が勧誘してくるからさ。あいつからがいなくなったら帰ろうと思っていたんだ。」
「あなたは、私の質問に答えていない。なぜ、図書室で私と空間を共にしているのか?」
足子さんは、ロボットのような抑揚のない口調で、相変わらずの無表情で本を読みながら、ヤッキーに問い詰めていた。テーブルの下では、足を伸ばしもせず、丁寧に床に足裏をつけていた。
「それは、まぁ宿題だよ。」
「ヤッキー、今あなたは『ペディの甘い夢』の3巻を読んでいる。仮にこれがあなたの人生の宿題なら、あなたの言っていることは正しい。」
「ま、その通りだな。」
彼女は急に本を戻し、帰りの支度をした。
「私は帰ります。さようなら。」
「待って、一緒に帰らないか?」
「では、ついていきます。」
足子さんは、ただじっと立っていた。私が急いで本をしまおうと動くも、手伝いもせず、ただただ黙って立っていた。そして、急いで勉強道具をしまって、廊下へ出ようとすると、後ろについてきた。先へ行こうともせず、ヤッキーが上履きを履いているのを待って、彼が歩くと、ピッタリと後ろへ付いて歩く。
「そんなべったりついてこなくても。」
「私はついてきているだけです。」
「そういえば、裸足だと上履き履き替えなくて楽だね。」
「下駄箱を貪る雑多な人々のなかに入っていく苦痛からは逃れられるでしょうね。」
「何だよその言い草。」
「本質は正しいつもりです。」
そうこう話していると、昇降口についた。足子さんは汚れた足を拭こうともせずにローファーに突っ込もうとしているので、ヤッキーは足裏くらい払ったらどうなんだ、というと、お金でか?と返事をした。呆れた彼は、自分のバッグからウェットティッシュを取り出し、彼女の足首を掴んだ。そして、ウェットティッシュで足の裏を拭いた。彼女はふと口にする。
「これは、世にセクハラ行為というというものだ。」
「そんな常識知ってるなら裸足でいるなよ。」
そう、あきれた口調で答えた。彼女は若干くすぐったいのか、足の指をギュッと閉じ、アキレス腱に力が入って固くなった。その様子に足子さんの人間味に触れてホッとした。
「片足もよろしく。」
彼女は、自分でやろうともせず、彼にもう片方も拭かせた。この行為は誰にも見つからなかった。そして、お互いローファーを履き、学校をあとにした。足子さんが校門前で立ち止まったのでヤッキーは隣に立った。すでに日が落ちて、空が薄紫色に広がり、星々が光り始めていた。
「私、この時間帯が好きなの。」
「へぇ、足子さんにも好きなものあるんだ。」
「ものではない。この肌に感じる冷たさ。心を静かにさせる寂しさ、自分のすべてを受け入れる美しさ、この空間そのものだ。」
「なるほどなぁ。たしかにこの風景、僕も好きだよ。」
「ヤッキー、試してみますか?」
「何を?」
お互いの手が触れた瞬間、風の動きが止まった。そして、雑多な商店街の音も消え、ただ風景だけが残った。
「一体何を?」
「私は時間を止められる能力を有している。こうしてきれいな夕焼けの日、100年間時を止めたこともあった。」
「なんだそれ?永遠の若さも持ってるのか?」
「鋭いですね。時を止めれば歳は取らない。今動いているのは、君と私の魂の会話だけ。」
この永遠の終わらない宵闇をヤッキーは気が済むまで眺めていた。それは大きな癒しを彼にもたらした。ただ、ハッと我に返った彼は、足子さんにつぶやく。
「やっぱりやるべきこと、たくさんあるよ。」
「私は何度もやっているが、やはり未来に希望を感じた時、時を動かした。君も感性は同じですね。」
足子さんが触れていた手を離したら、風が吹き始め、商店街からザワザワと生活音が響き始めた。ヤッキーは不思議な出来事に頭の整理がつかず、しばらくその場から動けなかった。足子さんはずっと隣に立っていた。




