社へ
ヤッキーは、アパートの向かいの御嶽山の入り口へと迷いなく足を踏み入れた。すると、歩くたびに、自分の経験だけでなく、足子や、久美子、ニアの身の回りに起こった出来事と心の葛藤が手に取るように分かった。もうすでに社に一歩足を踏み入れているのではないかとすら思えた。社の中はすでに想像ができている。足子は、彼の存在を抹消して、タイムスリップして、新しい過去をやり直そうというのだ。
しかし、なぜ彼は家を追い出されるような状況を作り出されたのか、よく分からなかった。一番救いがなかったのは自分自身だったのではないかと思うと、虚しくなった。すると、後ろから声をかけられた。
「おい、ヤッキー!あんまり心配するなよ!」
ニアの声だった。振り返ると、確かにニアの透明体が宙に浮いていた。彼は驚いたが、同時に優しさを感じた。
「お前、なんでそんなところ浮いてるんだ?」
「うん?なんか足子に呼ばれてる気がしてな。」
「お前、僕に言っておかなければならないことがあるだろ?」
「あぁ、あれ痛かったか?ごめんな?でもことの弾みってやつ。また会えるといいね。またねー。」
そういうと、彼女は山頂まで飛んでいった。すると今度は久美子が表れた。
「まったく、あいつも足子に呼ばれてるのね。」
「久美子か!」
「最後にその名前が聞けてうれしいわ!でもね、一番うれしかったのは、あなたと繋がれたことよ。ま、今ごろ肉体持ってるのはあなたぐらいでしょうから、いろいろ期待したほうがいいんじゃない?あいつも言ってたけど、もし会えるのならば、またみんなで会いたいわね。今度もオカルト部ってことで。」
彼女も飛び去ってしまった。彼は穏やかな日常の一幕を垣間見て、思わず涙があふれそうになったが、なんとか堪えて、山頂まで向かっていった。空を見上げれば、たくさんの霊が御嶽神社へと吸い込まれていくのが見えて、圧巻だった。その中に、父と母、それに妹がこちらに手を振っているのが見えたので叫んだ。
「僕を置いていくなー!!!」
そうすると、体の底から力がみなぎってきて、山を登る原動力となった。そして、御嶽山の頂上へとたどり着き、鳥居の前で一礼して、境内に入った。ふと、屋根を見ると、たくさんの霊が渦を巻いていて、社に吸い込まれていくのが見えた。ただ、この社は霊が吸い込まれる場所なのではなく、一つに集まる場所なのだと理解した。そして、すべての体験を一つに共有し、笑いころげ、泣き叫び、そうすることで霊が浄化され、新たな生命へと宿っていく命の揺りかごなのではないか。
「(僕は耐えることができるだろうか。)」
彼の不安は最高潮に達したが、同時に、足子の必ず来てね、という言葉が彼を後押ししたので、一歩一歩、境内を裸足で踏みしめて、賽銭箱の裏の社の扉を開け、中へと入っていった。




