霊の融合と再生
ヤッキーが、社の中に入ると、白い空間が広がっていた。ふと振り返ると、扉が消えていた。さらに、足元を見ても手を自分に向けてみても、自分の身体が見えなかった。目の前には霊が集約されて、一つの渦を形成しているのが見えた。この空間で、思わず叫んだ。
「足子!どこだ?どこにいるんだ!」
「足子って何?」
すかさず、足子の声が帰ってきた。ただ、その返答に、感情が起こることはなかった。また、足子の声が響く。
「あなたは誰?」
「僕?僕は誰だ?」
彼は、自分の名前が分からなくなっていた。そこへ、いきなり、目の前に裸体の足子が現れた。
「足子!いるんじゃないか!」
「あなたにはこの姿が足子に見えるのね。あなたは?」
「僕はどう見えているんだ?」
「私にはあなたが見えない。」
彼は理解ができなかった。自分は足子を認識しているのに、相手は自分を認識できていない。それに自分の存在すら思い出すことができない、というより、自分のすべてが空間に溶け出して、区別がつけられなくなっていた。
「僕が分からない!でも、僕は君に会いに来た!それだけでも分かるか?」
「うん。思い出した。」
すると、彼の意識体に肉体が張り付いてきた。そして、目の前には手や足が見えるようになった。
「あなたはヤッキーね?」
「あぁそうだ。ヤッキーだ。」
「あなたにお願いがあるの。」
「なんだ?」
「私と融合して。来世では私の『普通』になって。」
すると、意思に関係なく、お互いに距離を縮め、ヤッキーは足子に取り込まれるように、溶けていく。残り少ない意識で彼女に問いかける。
「僕は永遠に死ぬのか?」
すると、彼女は答えた。
「実は、同じ生命体に複数の意識が存在するの。あなたは、私とともに生き続ける。お互いが見えないのは怖いかもしれないけど、一緒に頑張ろうね。」
彼にとってこれは足子との別れではなく共有であることを理解したので、無言で彼女の中へと消えていった。そして彼女は空間全体に溶けて、白い世界が小さく収まっていくと同時に、中心に存在した渦が、秩序を失い霧散していった。すると、社の中は、光が入らず、古びた床板の先に鏡がひっそりと佇んだ、ホコリ臭い空間へと変貌した。鏡には、一人の少女が写っていた。少女は、キョロキョロと辺りを見回すと、カラスの鳴き声がしたので、急に怖くなって社の外へ出て、脱いであったローファーに素足を突っ込み、山を駆け下りた。この子は、まだ自分が何者か覚えていない。しかし、これが新しい物語の始まりであった。




