ニアの本懐
彼は頭が真っ白になってどこへ行けばいいかも分からなかった。電車に乗っていると、外も暗くなっていることに気付いた。しかし、輪郭がハッキリと分かった。ふと車内を見回すと、電車そのものがスケルトン化していることに気付き、驚いて立ち上がった。周りには誰もおらず、いよいよ世界が完全に崩壊してしまうまったことを受け入れざるを得なかった。
ふと電車が停止した。雰囲気で学校前の駅であることが分かったため、急いでホームへと降りた。真っ暗な世界に明るく光る骨格があるだけで、どこを足場にしていいのか分からなかったため、いつも歩いてるところを慎重に歩いた。歩いているようで浮いているようであったが、駅を出ることができた。このまま、無間地獄に落ちても、構いはしなかったが、本能的な恐怖が勝った。
校門前までたどり着くが、すでに学校そのものが存在しておらず、とうとう帰る場所を失ってしまったと思ったとき、ニアの顔が頭に思い浮かんだ。彼は足場など構わず、アパートまで駆け抜けていった。その前までたどり着くと、たった一つのドアだけがそこにあった。本能的にこれがニアのいる場所だと察知した彼は、ドアの前までたどり着くと、ゆっくりと開けた。
すると、何かが腐ったような、また血なまぐさい臭いが鼻を襲い、思わず嘔吐してしまった。しばらくその場で座り込んだが、落ち着くと、意を決して、鼻で息をしないように入っていく。内部はスケルトン化していなかったが、あちこちに動物の死骸が転がっていて、内臓も飛び出ており、また吐き気を催したが、なんとか堪えてリビングに辿り着く。部屋は暗く、丸テーブルには裁縫で縫い付けられた動物の死骸や、床には血糊の足跡が残っており、段ボールのほかに腐った食べ物や、刃物、針が床に散乱していた。とても人間の住むような場所に思えなかった。すると、後ろから何か足跡が近づいてきたが、振り返る間もなく、首に強い衝撃を受けた。頭が痺れ、首に空気が吹き抜けると同時に、体の力が一瞬で抜けて、その場に倒れ込んだ。そして、何者かに頭を捕まれ、思い切り捻られた。自分の首が普段向けられないような方向を見た。すると、刺さっていた包丁を抜かれ、鋭い痛みが首に走ったが、さらに執拗に首を刺され、目の前が真っ赤に染まった。肉の繊維がブチッブチッと切りはなされ、両手で引きちぎられるように首が身体とは正反対を向いた。そこにはニアがいた。
「やぁ、ヤッキー!久しぶりだね!」
彼は声帯を潰されて、肉体では声を出すことができなかったが、思念のようなものを発することができ、虫の息で彼女に問いかけた。
「な、なぜ?」
「普通よぉ。セックスしたあとに、女が気持ち悪いって言ったら真っ先に心配しに来るもんなんだよ。お前も私を裏切るのか?」
「そんなつもりはない。」
「しゃべるんじゃねえよ!」
彼女は手に持った包丁で、残りの繊維を切られ首が胴体から離れた。すると、足で思い切り踏みつけられた。鼻が折れたような衝撃を受けたあと、足の裏で踏みにじられた。
「お前、足の裏が好きなんだろ?ほら、舐めてみろ。」
彼は苦しくて、目をギュッと閉じたまま何の反応もできないでいると、思い切り蹴飛ばされ、動物の死骸の脇に転がった。ただ、意識が途切れることはなかった。彼女は横たわった自分の体に包丁で突き刺すと、腹を切り裂いて、飛び出た内臓を食べ始めた。
「パパの栄養をたっぷりと蓄えて、私、立派なママになるよ。」
その言葉に彼女が妊娠していたことを再認識させられた。そして、見舞いに行ってやれなかったとこと後悔した。ただ、それ以上に、これから自分がどんな目に遭わされるのか怖くて仕方がなく、目を閉じて、足子の助けを心の中で叫び続けた。すると、頭の奥からルクス・サンクチュアリの呪文が響いた。間違いなく足子の声だった。すると、転がっていた動物の死骸が、消え去って、引き裂かれた彼の胴体が元通りになると同時に、ニアの首が一瞬にして落ち、床を転がり、僕を向くように近くで止まった。
彼女は口をパクパクとさせ、苦しそうな表情を浮かべていた。その様子から彼女がただの生首であると直感し、彼女に思念を送った。
「南無阿弥陀仏を唱えろ。」
すると、無言で口を動かした。彼女は次第に目を閉じていき、力尽きた。




