スケルトン世界
翌朝、目が覚めると、オカルト部室にヤッキーはいた。相変わらず太陽は昇り、十字架がそびえ立っていた。起きたとたんに線香の香りに包まれるのは、気持ちのいいものではなかったが、日差しを浴びれるだけで感謝の気持が湧いた。彼は、十字架に祈りを捧げると、ふと、特にこの日に御嶽神社行こうなどと取り決めをした覚えがないことに気付き、慌てて教室まで駆け出すと、案の定、足子は教室で授業の準備をしていた。
「おい、足子!そんなことしてる場合か?」
「ん?何の話?」
「御嶽神社に行く話だよ。」
「あ、今日行こうと思ってたの?」
呆れた彼は、ダメ元で彼女を誘ってみた。
「今日、行かないか?」
「いいよ。」
その返答に意外さを感じながらも、素直にことが運んで気分が良くなった彼は、足子の手を引き、校門前まで急いだ。やはり案の定、ジジェイは、登山の格好をしてイライラしながら校門前でたむろしていたので、平謝りをした。
「悪い、遅くなった。」
「まったく、どこ探してもいやしないんだから。さっさと行きましょ!」
これまで滑稽な生首姿をしていた彼女が、イライラを身体で表現する姿に懐かしさと同時に、別な滑稽さを覚え、彼女に気づかれぬようにニヤニヤと笑いながら、御嶽山の登山道の入り口まで向かった。学校の裏沿いをジジェイの先導で付いていくと、まだ朝にも関わらず少しずつ暗くなっているのが実感できた。ふと、ジジェイがヒャッ!と小さく悲鳴を上げたので、前方を見てみると以前に見たスケルトン世界が、御嶽山全体、さらにはニアの住むアパートにまで及んでいた。これを目の当たりにした足子は、ジジェイに向かって声を上げた。
「これ以上は一旦進まないで!」
「こ、これ、どうしたっていうのよ?」
ジジェイは困惑しながら、少しずつ後ずさりをした。それとは反対に、足子が足元を確かめるように恐る恐る、スケルトンに足を踏み入れると、そのまま踏み込めることが分かった。
「ヤッキー、ジジェイ、私のそばから絶対に離れないでね?何が起こるか分からない。」
「お、おう。」
「わ、分かったわ。」
二人がそう返事をすると足子は慎重に足を踏み出していった。あとに続く二人も、彼女が歩いた道から外れないように注意を払った。ふとヤッキーは一つ疑問に感じたことを足子にぶつけてみた。
「これ、ニアのアパートまでスケルトン化してるけど、あいつは大丈夫なのか?」
「むしろ危険すぎる。決して近づかないでね。」
この言葉に彼は背筋が凍った。それでも、足場の分からない無機質な登道を着実に踏んでいった。また、足子から目を離すのがとても恐ろしく思えたので、周りの風景など気にする余裕もなかった。しばらく、ビクビクと身体を震わせながら存在しているのかしていないのか分からないようなフワフワとした感覚を味わいつつ、進んでいくといつのまにか、頂上の御嶽神社にたどり着いた。あの蛇の眷属を見て以来であった。
「ジジェイ、ヤッキー、その場から、絶対に動かないでね。特にジジェイ、決して懐かしいとかそんな気持ちで道を外れると、二度と戻れなくなるよ。」
「も、もちろんよ。そんなに釘を差さなくても。」
その返答を聞く間もなく、足子は境内を歩き、御嶽神社の社の中に入っていった。ヤッキーはその場で辺りを見回すと、木々や鳥居までもが、スケルトンになっており、鳥居に触れようとしても、ホログラムのようで触ることはできなかった。ふと、ジジェイが、やっぱり我慢できないわ!というと、脇の方に進もうとしたので、彼はとっさに彼女の手を引き、その場にとどめようとした。
「お前、足子の言ってることを聞いてなかったのか!」
「だって!昔遊んだ場所だもん!平気よ!」
「その考えが命取りになるんだって!止まれ!」
それでもジジェイはヤッキーの手を振りほどこうとする。彼女らしくもなく、何かに突き動かされているとさえ思えた。ついに手が離れ、彼女は一目散に社の裏へと走り出した。次の瞬間、彼女は金縛りにあったかのように動かなくなった。ふと前を見ると、足子がすでに社を出ていて、彼女に向かっていき、こちらへと連れ戻した。
「足子、どういうことなんだ?」
「要は、スケルトン世界は、作り込まれていない場所もあるから、不用意に移動すると、無間地獄に陥るだけのこと。」
「な、なるほどなぁ。ジジェイはどうする。」
「仕方ないから。催眠にかけて、ゆっくり下山するしかないね。やっぱりはじめから、ついてこないで、と言うべきだったかな。」
「まぁこうなっては仕方ない。降りよう!」
足子はジジェイの手を引き、彼は、また、恐る恐る下山した。途中、また気になったことを口にした。
「足子、あの社、なんなんだ?」
「まぁ世界創造の中心地かな。入ってみないことには想像もつかないだろうけれど。」
「僕でも入れるか?」
「人を選ぶ。とだけ言ったほうがいいのかな。」
「なるほど。意味深だな。」
彼は今後どうなるか分からないが、少なくとも御嶽神社にかかわらないようにしようと誓った。




