二人きりの屋上
ヤッキーと足子は、夕暮れの廊下を二人きりで歩いた。
「なぁ足子、はじめはこうやって、二人でいろんな不思議な出来事を解決していくんだと思ってたんだよなぁ。」
「うん。」
「でも、いつのまにか、ニアとかジジェイとかが現れて、奴らに引っ張られるように世界は変な方向へ進んでいったんじゃないかなぁ。」
「うん。」
「今の僕、なぜだか知らないけど、家の居場所がどんどんなくなっていって、否応なしに足子と運命を共にせよって神様に言われてるような気がして。」
「うん。」
「でも神様って、足子なんだよね。」
「うん。」
「僕は、足子と運命を共にしたいと思ってるんだ。何があっても今は何も怖くない。」
「うん。」
二人は、長い長い廊下を気が済むまで歩いた。ふと、足子は彼に屋上へ行かないかと言ってきたので、その誘いに乗ることにした。屋上へ出ると、夕焼けが構造物を照らし、影を伸ばしていた。そよ風が吹いて、野球部の掛け声やカラスの鳴き声が遠く響いた。汚れたタイルの上を躊躇なく歩き真ん中にあるコンクリートの構造物に並んで座った。二人は何もしゃべらず遠くの空を眺めていると、彼は涙がとめどなく溢れた。足子は気にもとめず、ただ空を眺めた。彼にはそれが余計に涙を誘った。ただ二人だけの時間がそこにあった。涙が枯れる頃には、日が沈み、薄青のコントラストが空を覆い尽くした。彼は彼女に語りかける。
「これが足子の夕焼けなのか?」
「そうだね。でも、ヤッキーの夕焼けでもあるのかもね。」
「そうか。そうだよな。」
「ねぇ、不整合の話をしていい?」
「かまわんよ。」
足子は淀みなく語り始めた。
「この世界はやはり崩壊している。それが目に見えるカタチになっているのは、御嶽神社であろう。」
「やはりそうか。」
「一度見てみる価値があるとは思うが、ピースが埋まるどころか穴を広げてしまった。」
「そうだなぁ。」
「理由としては、ヤッキーが言う通り、ニアと首子が原因かもしれない。もっと言うと君と出会ってしまったことがすべての始まりなのかもしれない。」
「こ、怖いこというなよ。」
「真実として受け入れてほしいんだ。もし、このまま崩壊が止まらなければ、あなたと運命を共にする。ヤッキーの言ったとおりだね。」
「そうだな。そこは変わらないよな。」
「うん。もう一つは、私に原因があるのかもね。」
「ん?あぁ。」
「私には永遠に届くことはない普通。そもそも普通とは何か?この世界で生きて死んでいく過程において、普通を見出すことはできただろうか?」
「足子、自分で言ってたじゃないか?自分は普通の女子高生だって。」
「確かにその通りだ。私は普通の女子高生。でも、ちょっとその普通がほかの人とはズレた普通であったが故にひずみに変わり、断崖となり、やがて崩壊してしまった。私が創造主であるが、創造主であることに気づかなければよかったのだ。普通とは、この世界を維持するためのスタンダードだったのかもしれないね。」
「なるほどなぁ。足子はいろんな呪文を使ってたもんなぁ。ルクス・サンクチュアリ!ディメンション・チェンジ!」
「フフ、いろいろ覚えてるね。他に、接合や、再構成、融合など色々できるよ。手をつないで止まった時間を共有したりね。」
「そんなことあったなぁ。100年も物思いにふけるなんて普通できないからなぁ。」
「ふふっ。また言ったね。」
「あ、しまった。」
「そろそろ行く?」
「そうだなぁ。なんか満足したし、行こうか!」
二人は手をつないでオカルト部へと歩いていった。屋上で汚した足の裏が、一つの大きな足と、もう一つ、普通の女子高生の形をした足跡を廊下に残していった。




