オカルト部へ
彼らが駅につく頃には、日が奥野森の山々へ沈んで、駅前の道は電灯で学校まで真っ直ぐと照らしていた。野球部や剣道部の大声が、星が輝く薄青の空にこだました。学生たちが駅へ向かう中、重い足を動かして、校門を入っていき、校内へたどり着いた。それぞれが靴、ニアはサンダルを脱ぎ、裸足になると昇降口は酷い足の臭いに包まれたが、気にする気力もなく、暗い廊下をそれぞれ裸足のままオカルト部へ向かった。足が蒸れていたので歩いたところにくっきりと足跡が残った。
部室に入り、明かりをつけると、十字架にかけられた首子の身体は、きれいな状態のまま正面に立てかけられていた。足元のマットにはどす黒く固まった血や、その足跡が残されていた。ヤッキーは首子を十字架の元に置いた。いまだに目を開かず、口をポッカリと開けているので、死刑執行されたばかりの晒し首さながらであった。ふと、ニアはマットに腰を下ろして呟く。
「なんか、みっともないな。」
「まぁ、奴の選んだことだからな。」
ヤッキーは、そう彼女を諭した。ただ、本当に首子が目覚めるのか、身体は元に戻るのか不安になった彼は足子に問いかける。
「足子、やっぱり、本当に目覚めてくれるんだろうか?」
「うん。今は確信を持って言える。彼女の内面が少しずつ整いつつあるからね。まだ時間はかかるけれど、私は焦ってないよ。」
「そうか、なら安心した。やっぱり、旭山に行く時も、首子と一緒の方がいいんだよな。」
「うん。もちろんそうするつもり。これは彼女自身の意識上の問題だから、霊が融合する時もその場の方がやりやすいんじゃないかな?」
「そういえば、霊ってなんなんだ?」
「うん。それは私も気になるなー。」
足子は、再び注目されたような感覚に襲われたが、つばを飲むと落ち着きはじめ、霊について語った。
「まず、霊そのものは私が目撃した範囲で言えるところだけど、肉体を失った意識の表れではないかなって思う。」
「え、いつ見たんだ?」
「例えばだけど、ジジェイの首が刎ねられた瞬間、意識が少しずつ外側に霧散し始めていくのを見た。私はそれをなんとか繋ぎ止めたんだけど。」
「へぇー。意外と脆いのかもしれないなぁ。」
「あとは、地獄沼、ヤバかった。ぽつりぽつりと、『助けてくれ』と呻きながら、手が沼からいくつも伸びていた。」
「ヒッ!そ、それ、なんで言わなかったんだよ。」
「あまり怖がらせることはないかなと思って。」
「そいつらを救い出すことはなかったのか?」
「うーん。キリがなくて。それらを救うたびに不整合を広げてしまうのは、面倒だし。」
それを聞いていたニアは、純粋な恐怖とはまた別の、何かを恐れているように見え、神妙に正面を見つめていた。ヤッキーは、それを見てニアに問いかけた。
「何か、心当たりでもあったのか?」
「ま、まぁな。私に霊が憑いていようが、南無阿弥陀仏さえ唱えれば救われるんだろ?」
「・・・・・。」
彼は、彼女がなにかとてつもなく恐ろしいことを隠しているのではないかという恐怖にも似た直感を彼女に見いだした。彼女に南無阿弥陀仏を教えてしまったら、想像を絶するような何かをしでかすのではないか。そう思うと末恐ろしくなり、ニアに釘を差す。
「ニア、やっていいことと悪いことがある。それを弁えないと自分を破滅させるぞ。」
「んなこと分かってる。」
ニアはそう答えると、仰向けに寝転んだ。ふと、マットの水平線上から首子が目に入った。
「これが首子の見てる世界かぁ。なんか悪いことしちゃったなぁ。南無阿弥陀仏。」
「だから、なんでも正当化するなよ。」
「そういえばさぁ、首飾りどうした?」
「あぁあれは、事の拍子で外れたんだ。」
「いろいろあるなぁ。ていうか眠い。」
ニアは目を閉じると、まもなく寝息を立てた。ヤッキーも、疲れ果ててその場で腰を下ろした。ふと足子は問いかける。
「今日はここで寝るの?制服は?」
「あぁ、バッグにあるから安心してよ。ていうか汗が気持ち悪いし、この部屋血なまぐさいから、ルクス・サンクチュアリとかで綺麗にできないかな?」
「うん。やってみる。」
足子は部屋の中心に手をかざすと、全体が青く光だし、元に戻った頃には、部屋かヒノキの香りが漂う新鮮な空気に包まれ、ヤッキーやニア、足子自身の身体、首子の頭の汚れがシャワーを浴びた後のように綺麗に落ち、マットの血や、その他の雑貨類、首子の体や身につけている制服にまで及んだ。
「おぉ、さすが足子。足の臭いもきれいさっぱりだ!」
ヤッキーは自身の足の裏を足子に向けて指をグーパーとしてると、俯きながら帰ってしまった。廊下からは、ペタペタという音が遠ざかっていくのがハッキリと聞こえた。
(足子は、身体的なエロティックを露骨に見てしまうとあんな風になっちゃうんだな。気をつけないと。)
ヤッキーはそう心のなかで呟くと、首子、ニアが目を閉じている側で、服を脱ぎ、バッグの中から制服を取り出して着替えたあと、電気を消した。しかし、あまりにも暗かったので足元が全く見えなかったので、一旦電気をつけて、十字架をずらして、首子の胸がもたれかかったまま、カーテンを開けて、十字架を元に戻した。彼女の身体はまだ柔らかく温かかく、その感触が残った。足元を見ると首子の頭が倒れてしまっていたので、拾い上げて見つめ続けた。彼女に見入ってしまっていることにハッと気づくと、ごめんと呟きながら、元の場所に戻し、電気を消そうとした矢先、ニアのスカートが完全にめくれ上がっているのを目の当たりにした。彼女の後ろへ回り、心のなかで僕の初めての身体と呟きながら、ほんの僅かの間、見つめ、あの時の体験を生々しく思い出されつつ、電気を消すと窓から月明かりが差して、十字架が影を伸ばした。不気味に思えたが、そこに首子が眠っているのだと自分に言い聞かせて、そのまま仰向けになった。
彼は深いまどろみのなかに落ちかけたその時、何かが覆いかぶさってきたので驚いて目を開けると、ニアが窓の光に照らされて、ニッコリと笑っていた。




