それぞれの夜
ヤッキーが家に帰ると、鍵がかかっていた。ドアを開けると、真っ暗であった。明かりをつけると、リビングには何もなかった。一瞬だけ呆然としたが、ハッと我に返り、シャワーを浴びて、自室に戻ろうとしたとき、妹の部屋の明かりがついていた。性懲りもなく開けてみると、足の裏を晒しながら机に向かう彼女の姿があった。ただ、私に対して何ら反応を示すこともなかった。虚しくなって、自室に戻ると、ただ敷布団のみが中心に置かれていた。あらかた荷物を整理し、早朝のタイマーを設定した後に、布団にくるまった。
同じ頃、足子が家に帰った時、彼女の母親は焦燥した様子で彼女を迎え入れた。彼女は首子の存在がバレぬように風呂に入り、自分が使った歯ブラシで彼女の歯を磨いてやった。はじめは抵抗していたが素直に受け入れていった。その後、自室に戻ってタオルに包めた首子をベッドの布団の中に隠したあと、家族で食事を取った。彼女は友人宅に泊まったと説明した。すると両親は喜んだ。いわく、足子も普通の女子に成長してくれて幸せだ、とのことだ。彼女もまんざらでもなく、何気ない会話をすることに自信を持ち、そのまま自室へ戻り、布団に潜った。首子はまだ起きていた。
「まったく、あんたは幸せ者なのね。」
「(静かにね。)」
「(実は私ね。女子会みたいでワクワクしてるのよ。意外でしょ?)」
「(そうなんだ。)」
「(まぁあんたとは、女子っぽい話なんてできないと思うから、怖い話でも何でもいいわよ。)」
「(うん。首子の話でいいよ。)」
「(じゃあ、腑に落ちないこと、その一、女子高生たるあなたが起点としてる御嶽神社を中心とした世界が作られてるのに、なんで立派な親子関係ができてるのかしら?)」
「(セルフ・リプリケイティング。創造主にすら思いもよらない世界がそこにはあった。)」
「(また抽象的なことを。物事は過去から未来に向かって移ろいでいくんでしょうが!そんなこと私にも分かるわ。物理も習ってるんだもの。)」
「(うん。でも自己増殖が過去に影響を及ぼしてしまっているのは紛れもない事実。私やあなたがここにいるのも事実。)」
「(運命を呪えってことね。)」
「(申し訳ないけどそうなる。創造主たる私もなぜ生まれたのかだけは理解不可能だから。)」
「(やっぱりそうじゃないの。本当はデタラメなんじゃないの?)」
「(いや、私には確かに過去の記憶がある。クオリアがそこで生まれ、居心地のいい世界を作り出し、勝手に広がっていった。この世界そのものが私の言語そのものなの。)」
「(じゃあ、私もあなたの表現ってわけ?)」
「(うん。でも私には制御不能なエゴが、あなたを生み出したって理解がもっとも正しい。)」
「(あなたを呪ってあげてもいいんだけど?)」
「(フフ。それは二次的な表現でしょ?)」
「(ムカつくわね。続きよ。腑に落ちないこと、その二!もし地獄沼で私の身体を見つけた時、どうなるわけ?)」
「(うーん。でも、覚悟しておいたほうがいいかもね。)」
「(何よそれ。)」
「(あなたの記憶は誰かに森の奥まで連れて行かれたところで途切れているんでしょ?その記憶を取り戻した時、正気を保っていられるかどうか・・・。)」
「(こ、怖いこと言うわね。でも、覚悟は決めてるんだから!)」
「(どうしても耐えられないときは、私が何とかする。)」
「(助かるわ。では、腑に落ちないこと。最後!もし、身体と意識を融合できたら、私のお母さんは、また私に優しくしてくれるかしら?)」
「(さぁ・・・。一度歪んだ世界はもとに戻らないからね。)」
ふと、ガチャリとドアが開いたので、足子は慌てて布団から出た。そこにいたのは母親だった。
「何か話し声が聞こえてるんだけど、何?」
「えーと。電話で友達と会話。」
「そう。夜更かししないようにね!」
「うん。」
母親は、にこやかに扉を閉めた。再び、足子は布団に潜るやいなや、首子は足子を茶化した。
「(あら、羨ましいわね。私が求めてるのはこういう関係なのよ。)」
「(鬱陶しい方が多いけどね。)」
「(そっか。まぁ一長一短よね。)」
「(うん。私、眠いからそろそろ寝るね。)」
「(あらそう。おやすみ。)」
足子は首子を胸に抱き、お互いが満足げに温もりに包まれながら眠った。
一方でニアは月明かりの照らすアパートに一人、イヤホンを耳にツッコミ、裸になってボールと戯れながら、快楽に耽っていた。
「あぁ、獣クセェ!」
彼女は、果てた後に、巣に帰るように血なまぐさいソファに沈んだ。




