裸足談義
ヤッキーとニアは、玄関から上がった後、風呂で足を洗ってようやく、リビングに戻ってきた。
「やぁ足子首子!暇じゃなかったかい?」
「あら?帰ってくるの早いじゃない?」
「あれーそうか?」
ふと外から、夕方のチャイムがなったことで、すでに5時を回っているのが分かった。しかし、首子にとっては、まだお昼も過ぎていないように思われたのである。
「不思議なことってあるもんね。これが時間を忘れるってことかしらね。」
「まぁ気のせいだよ。んなことより、買ってきたぞ。」
ニアがそう言うと、ヤッキーは手提げの紙バッグから布を取り出した。
「あら?素敵じゃない?そんなことより、あなた、荷物持ちになったんだ。」
彼は、首子のからかいに反応する力もなく、ため息をつきながら、ソファで横になった。ニアにはまだ精力が有り余っており、裁縫箱を探し出して、針にビニール製の硬い紐を結びつけた。それを見るや、首子は恐れをなした。
「ねぇそれ、私に突き刺すの?」
「当たり前だろ?それ以外に固定する方法はないだろ。」
「ちょっとやっぱりやめようかな。」
「大丈夫だって!首チョンパに比べたら痛くないし、足子だっているだろ?」
「それはそうかもしれないけど。まぁ首斬られたことない人にこの痛みなんか知るわけないけどね!」
「ん?じゃあやっちゃうよ?」
ニアは、首子の煽りにサディズムを刺激した。ヤッキーは横を向き、それを黙って見ていた。ニアは、布を首の断面を包むような大きさにカットし、布の端を折り曲げながら、針を布越しに首の皮に突き刺す。その瞬間、ヤッキーと首子は目を閉じたが、首子は悲鳴を上げることもなかった。足子が直前に、心のなかでルクス・サンクチュアリでも唱えたのだろうか。ニアは容赦なく布を首に縫い付けていくが、首子は痛がる様子を一切見せず、ただ正面を見つめていた。一周縫い付けると、一部、重ね縫いをして、縛り付けた後に糸を切った。
ニアは、針を裁縫箱にしまうと、首子を持ち上げた。
「ほら、上出来だろう!」
「あぁ、意外と裁縫も得意なんだな。」
「女子なら当たり前だろ?」
しかし、彼にはそれ以外の理由があるような気がしてならなかったが、特に詮索する気もなかった。ニアは首子を鏡の前で見せると、まんざらでもないような顔を浮かべた。
「まぁまぁいいじゃないの。それに、痛みも全然なかったわ。」
彼は、ニアが一瞬残念そうな顔を浮かべたのを見逃さなかった。出かける前、足子がホッとしたような顔を浮かべた理由も分かったような気がした。彼はふと、学校で足子がニアについて、悪魔の再来と言っていたことを思い出した。彼女は単なる妄想ではなく、実際に見たものを述べたのだろう。では、再来とは何なのだろうか?思えば、ニアも無関心が懐かしいと話していた。あれがデジャブでないのなら、何なのだろうか。彼は身震いした。しかし、ソファで寝転んでいると、汗がベタつき、全身のかゆみが際立ってきたので、ニアに断って風呂に入った。
その間、ニアがふと足子に胎児って意識あるのかなぁ?と呟いたので、一瞬困惑したが真面目に回答した。
「さまざまに議論はあるだろうけど、統合できていない脳では、世界を実感するのは無理があろう。」
それを聞いたニアはホッとしたような顔を浮かべた。それに首子は顔を歪ませながら反応した。
「まったく身体があれば何だってできるわよねぇ。早く取り戻したいわ。」
「安心して。計画は立ててるから。でも命は大切にしたいね。」
足子がそう答える間に、ヤッキーが風呂から上がってきた。
「何話してたんだ?」
「うん?まぁ女の話ってやつ?」
「な、なるほどね。」
彼は目を泳がせながら、ソファで横になった。ただ、久しぶりに自分の下着に包まれたので、気楽になった。ふとニアが口を開く。
「そういえば、なんでみんな裸足なんだ?」
それに彼が答える。
「あー僕は確か足子が裸足だから、成り行きで裸足になった気がする。」
「フハハハ、お前ら仲いいな。」
「そういう、ニアはどうなんだよ。」
「私か?まぁ私も中学の頃の成り行きってやつ?いつの日か、裸足でいることに抵抗なくなったんだよね。」
彼は彼女の言うことに閉口した。間違いなく彼女のなかで壊れたものがあるはずだからだ。それを知らず、首子は笑っていた。
「あんたも同じじゃないの。」
「うるさいなぁ。首子はどうなんだ?身体ないけど。」
「私?まぁ小さい頃からの癖ね。」
「お前も同じじゃんか!」
ニアは、首子の頭をパシッと抑えつけたが、首子はまんざらでもなく笑っていた。しかし、彼には彼女の事情もわからないではなかったので、ここでも口を開くことはなかった。最後にニアは、足子に尋ねた。
「足子はどうなんだ?」
「私?うーん。特に理由はないけど、日本人なら裸足でいることなど、平気でしょう?」
「もっともらしいや。」
ニアや首子だけでなく、今度ばかりはヤッキーも頬が緩んだ。次に、目を閉じたときには、彼はすでにまどろみの中に沈んだ。




