取り戻すべき身体
ニアがゲームに飽き始めて、ふいに首子を倒して、断面を覗き始めた。
「いや!何するの!」
だがニアは彼女に答える素振りも見せずにその筋繊維や脊髄、大動脈やら気道、首の皮まで覗いた。あまりに真剣に見るものだから、首子は目を泳がせるだけで、言い返す言葉もなかった。ふいに、キュッと断面が締まって液体が滲み出るのを見るや、指で掠め取った。ひぅっ。首子の口から言葉が漏れた。ニアの指から糸を引いており、自分の舌でぺろりと舐めた。
「ん?ちとしょっぱいがいい味してるな。」
「あ、あんた何してるの?」
首子には見えない角度で、ニアが何かをしていることに耐えられず、彼女を咎めた矢先、足子は急に立ち上がった。
「やっぱり身体!探さなきゃ!」
「うん?なんだ?」
驚いて思わず言葉を発したニアを他所に、首子は頭をこっちに向けて、と打ち上げられた鯉のごとく頭をクイクイと動かしているから、ニアは彼女を皆の見える方へ置いた。うずくまっていたヤッキーも、ソファから腰を浮かせて、前傾姿勢を取った。足子は、いきなり注目されたのでしどろもどろに言葉にならないような発音をするので、ヤッキーは肩の力を抜けよ、とアドバイスをすると、ふぅと息を吐いて、言葉を発する。
「えーとね、このアパートの向かいの山奥に神社あるでしょ?」
「うん。」
「そこに黒い穴が開いててね。なんか手がかりが見つかるかもしれないの。」
「なんだ?その穴は。」
「みんなは気づかないかもしれないけど、ともかく何かあるかもしれないから、みんなで行こう!」
足子は真顔に似合わず、妙なテンションで皆を誘うものだから、とりあえず頷いた。首子は、自慢をしたげな様子を浮かべていたが、堰を切ったかのように急に語り始めた。
「実はね、あの裏山、御嶽山っていってこの地を治める神を祀ってる神社なの!だからね、もともとはあの山がこの地域の精神的支柱であったわけ!まさかそこに大蛇様が出てくるとは夢にも思わなかったわぁ!」
「うん。奇遇だったよね。」
「でさぁ、あの山って、旭山山塊の一部なんだけどね。もっと奥へ行くと、標高2000メートルもある旭山に繋がってるのよ!」
「ふーん。それで?」
「でね?旭山って呼ばわり山とも呼ばれていて、そこで行方不明者の名前を叫ぶとその人が現れるんだって!」
「もしかして、その人たちの力を借りて身体を取り戻すって話?」
「ま、そーいうことね。」
「うまくいくかねぇ?」
「ヤッキー!始めから何でも否定してちゃ始まらんでしょうが!行くっきゃないのよ!」
彼の印象として、誰かを束ねるという能力で言えば、たしかに足子よりも首子のほうが何枚もうわ手に見えた。リーダーの素質とは生得的なものなのだろうか、そう思えば、彼はこれからも黒子に徹していたいと思えたし、足子にも自分の能力を十分に発揮してほしいと願った。もしかしたら頭だけの存在であるからこそ人はついていくのだろう。そう思わざるを得なかった。
ふいにニアは先ほどの話とはまったく無関係のことを問うた。
「そういえばさぁ、首子の断面このままにしとくのもなんか気持ち悪い気がしないか?」
「あーそれもそうね。私も何かドレスしてみたいわ。この部屋に何かいいものない?」
「あーうちには必要最低限の物しか置いてないからなぁ。」
「じゃあ、明日、レースの首掛けを買ってきてくれないかしら。」
その提案に皆が乗った。首子が授業に出られるわけもなく、言い出しっぺの足子も身体を取り戻すことで頭が一杯になり授業どころではなかった。話もまとまったことで、ニアが一声かける。
「そろそろ寝るか!ヤッキー変な気起こすなよ。」
「前だって特に何もしなかったろう!」
その言葉を聞くまもなく、ニアは彼の裏で尻を向け、横になりリモコンで常夜灯にして、そのまま眠った。足子も適当に枕を探し出してカーペットで寝たので彼もソファのもとに腰を落とし、仰向けになり目を閉じた。首子はただ目をつむるのみであった。




