オカルト部の続き
血まみれの3人は誰かに何か物音をするたびに後ろを振り向いたり、並べる街灯の当たらないところを選んでジグザグに歩いた。端から見れば不審者そのものだが、しかし、彼らには一線を越えてしまった優越感が心の奥に染み付いていて、まんざらでもなく自身の特別感を認識することとなる。首子に限っては外の様子など一向に分からないため、彼らに手提げ袋越しに、文句を投げかけた。
「あんたらばっかりいい思いしてんじゃないわよ。夜風浴びたいわ!」
「全く悪役令嬢でもあるまいし、生首は黙っていろ。」
ヤッキーは袋のなかで包まっている彼女に向かって諭した。彼女の表情こそ見えなかったが、怒りに震えているのは目に見えていた。我々はさっさと、ニアのアパート前へ着くと、またしても足子は呪文を唱え中へとお邪魔する。ニアに似合わずカビ一つないきれいな部屋だったので、前回同様に意外に感じたが、ニアも同じ表情であった。早速、袋から首子を取り出し、タオルのうえに首子を置くと、彼女は思い切り目を閉じてパッと見開いた。彼は、彼女を労う。
「首子、お疲れ様!」
「本当!体のある人は贅沢よね!」
「お前が選んだことだろう?」
「今に見てなさいよ!体取り戻したら、全身全霊で呪いをかけてやるんだから!」
「こういうのを恩を仇で返すって言うんだぞ!」
「んなことよりゲームしようぜー!今日は隣も2階も静かでいいわ。」
ニアが語るには、普段はこの時間帯は掃除機等の生活音が響き、気が滅入るそうだ。しかし、足子の加護によるものだろうか。今日はこの空間だけが世間から独立しているように思える。3人はそれぞれ血を洗い落とし、制服を洗濯にかけた。足子は改めて1つの頭を丁寧に洗った。そして、体のあるものは、ニアから服を借りた。ヤッキーも例外なく女性用の下着や服を身に着けたため、ひそかに興奮を味わった。リビングに全員が集まったとき、ふとニアが呟く。
「足子がずっとこの部屋に来てくれればいいよなぁ。」
「でも、家に帰りたいし。」
「足子の好きにさせなさいよ。」
首子がニアを咎めたが、その際、ヤッキーはふと、気になっていることを洗いざらい問うてみたくなった。
「なんで首だけで生きていられるんだ?それに声も出せるし。」
キョトンとした首子をよそに、足子が語り出す。
「それはね、彼女はすでに血の巡りを喪失しているから、肉体的には死んでいるんだけど。」
「え!?」
「でもね、彼女が肉体や脳の構成を保っていられるように裏側から構造を変えたの。声はね、思念のようなもの。」
首子は震えた。自身が足子の再構成された世界によって生かされていることに気づいたとき、存在そのものを疑った。そのとき、自分を遠くから見つめているような不思議な感覚に襲われた。
「わ、私、これからどうなっちゃうの?」
「心配しないで。人間だって所詮概念体なのだから、あなたがこうして意識を保っていられるってことは生きてるのと同じだよ。」
足子は、首子を優しく撫でると、彼女は落ち着きを取り戻した。そして、足子に一つ頼み事をした。
「髪の毛を切ってほしいの。」
足子は一瞬戸惑ったような顔を見せたが、ニアがおもむろに理容ハサミの刃を顔を向きもせずに首の目の前に差し向けてきた。
「あ、危ないじゃないの。」
「ん?髪の毛切りたいんじゃないのか?」
「それよりも、足子ってそういうのできるの?」
「うん。やってみる。」
足子はハサミを手に取ると、右から左へジョキジョキと髪の毛を落としていった。そして、前髪にハサミを入れた。ギュッと目を閉じた首子の目が開くと、キツネ目の可愛らしいオカッパ姿を露わにした。ニアがおもむろに鏡を目の前に置くと、首子は恥ずかしげに笑う。
「こんな髪型、小さい頃以来かもね。」
「うん。似合ってると思う。」
足子は、落ちた髪を束ねて輪ゴムで縛った。ヤッキーも気になって顔を見てみたが、その可憐な生首にいじらしさを覚えた。
「なかなか板についてるじゃないか。」
彼は彼女の濡れた髪を触ろうとしたが、咎められた。
「あんまり女子の髪の毛を触るもんじゃないわよ。」
「学校のときはよかったじゃないか!」
「あれは汚れがひどかったからよ!」
彼は初めて彼女たちが女子であることを強く意識させられた。彼女たちのむとんちゃくな姿勢が、これまで感覚を麻痺させていたが、改めて自分はここにいていいのだろうかと思ったとき、急に体がザワザワし始めたので、ソファにうずまった。その間は、ぼんやりとした意識で焦点の合わない地平線をただ眺めるだけであった。
ニアは、相変わらずゲームに没頭していて、テレビに向かって口汚い言葉を吐いていた。首子はそれを面白がって煽ったりしてると、ニアは画面に集中しつつ片手で彼女の頭頂部をワシワシと擦りまわったが、それがむしろ面白おかしくて部屋中に笑い声が響いた。足子は正座をしてただ画面を眺めていた。




