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解離家族

ヤッキーが玄関に着いた頃には、あたりもすっかり暗くなって、電灯には蛾やカメムシが群がっていた。彼はその場で一旦立ち尽くした。母親が、妹が、そして帰りの遅い父親がどういう態度を見せるのかと思うと、足がすくんだ。電車内や、行く人々が自分に関心を示さないのは特に構わないのだが、家族まで自分を見放してしまうと思うと、苦しくて仕方がなかった。ただ、これでは前に進まないので、玄関を開けてみると、辺りは真っ暗だった。恐る恐るリビングに行くと、すでに冷めた食事が準備されていた。普段なら母親が妹と談笑して、自分の足が臭いなどとバカにした。彼は心に大きな穴が開いたような途方もない虚しさを覚え、ただ冷めたメシを無心で頬張った。肉は硬いゴムのようで何の味も感じられなかった。その後滝が滔々と流れ落ちるのを静かに眺めるように自分の食器を洗い、湯船に浸かる余裕もなく、シャワーで汗を流して、寝室のある二階へ上がった。ただ、本当に自分のことが見えていないか気がかりだったので、母親の寝室を覗くと、すでに床について、ただいびきをかいているのみであった。静かに扉を閉めたのち、大人しく自分の部屋に戻ろうとしたとき、向かい側の部屋の明かりがついていることに気付いた。彼は最後の望みをかけ、扉をゆっくりと開けてみると、背中を向けてテーブルについて筆を動かしていた。彼女は彼に気づき、ギロリと彼を睨むと、何事もなかったかのように顔を戻した。いつもの陽気な妹はどこへ行ったのか、得体のしれない恐怖をどうしても払い除けたくて、つい、琴音!と彼女を呼ぶと、こちらを向きもせず、勉強の邪魔、と吐き捨てた。彼はごめんとだけ返して、うなだれるように自室に戻っていった。

彼は、布団のうえで仰向けになり、ただもの思いにふけった。ジジェイと違って何ら趣味を持たぬし、足子と違ってこれまで深く悩んでも来なかった。ニアはどうだろうか?彼女もただ一人ぼっちでマンションで寂しさを振り払うようにゲームに勤しんでいるのかもしれない。自分の家族がいかに心の支えになっていたか。そして、それがいかに脆く、簡単に崩れ去ってしまうのかをまざまざと心に焼き付けてしまい、悶え苦しんだ。しかし、この苦しみを彼女たちも同様に味わっていたのだと考えれば、自分自身も彼女たちの心の支えにならなければならないと誓うと同時に、心の棘が少しずつ抜けていくような気がした。そして、これが人のために生きるということなのだと初めて気づかされると同時に、信念を宿すことができた。気づけば彼の意識はすでに消えていた。

翌朝、時間通りに目覚めて、制服に着替え、裸足のまま一階へ降りると、リビングでお互いが妹が食パンをほおばっていた。彼も適当にトースターでパンを焼き、自席で食べていると、彼女は挨拶もなく玄関まで歩き去って行った。ただいつもと違うのは、裸足であったことだ。心は離れてるのに、ただ彼女の可愛らしい爪と、引き締まったアキレス腱、そして歩くたびに露出する彼女の足裏をただじっと眺めてしまう自分に嫌悪感しか感じられなかった。いつから彼女を性的な目で見つめてしまったのだろうと自分を恥じる他なかった。彼もパンを食べきったあと、母親が寝てる間に、さっさと素足を靴にに突っ込んで、出かけた。その間、父の姿を一度も見ることはなかった。

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